ーーーーー武石中の三井寿
その名前に、後藤は声の方を振り返る。赤木に頬を打たれその場に倒れこむ、紺色の髪をした彼。それは後藤の知る三井寿とは異なり、目と耳を疑った。

「三井…先輩？」

自然と、後藤の足は三井の側へと向かって居た。膝を折り、三井と視線を合わせるとそっと顔を覗き込む。顔を上げた三井は、後藤の顔を見て目を見開いた。何で、コイツが。

「後藤…ッ！？」

後藤と目があった瞬間、三井の心中には羞恥や後悔、様々な感情が溢れ流れ込んで来る。息を吸い込むので必死で、こんな自分の姿を後藤に見せた事が、堪らなく悔しかった。

「三井先輩、どうして。」
「…お前には関係ねえ！」

咄嗟に振り翳した右手で、後藤の頬を叩く。後藤はその瞬間に蹌踉めくも、何とか体制を整えると立ち上がり、吐き捨てる様に言った。

「人違い、でした。これは私の知ってる三井先輩じゃない様です。……私の知ってる先輩は、人を殴ったりしないし、そんなダサい髪型じゃ無い。土足で体育館に入ったりしない。…何してんですか、先輩のこんなカッコ悪い所見たく無かった。最悪。」

　あまりのショックに、後藤は体育館を飛び出した。あんなの三井じゃない。三井じゃなかった。三井寿は、後藤の知る三井寿は、後藤にスリーポイントを教えてくれた、仲間思いで後輩思いの良い先輩だった。