弐刻
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学園に戻った山田伝蔵は急ぎ学園長、大川平次渦正の元へ向かった。裏山での出来事や彼の人物について、また考えられる可能性を伝え、当人の保護と療養、そしてより詳細な聴取の必要ありと申し入れた。
「なるほどのぉ。情報の真偽は後ほど詳しく調べるとしても、一度しっかりと話を聞く必要があるのは間違いない」
山田の持ち帰った彼の人物の荷物を見、大川は暫し瞑目した後承諾した。
「よかろう。その人物は学園で保護するものとする。わしも直接話をするとしよう」
そこからは少々慌ただしく、教師陣への周知と、混乱を避けるため秘密裏に準備が進められた。
山田は再び学園を出て、土井と合流し生徒たちの引率を引き継いだ。代わりに土井は速度を上げ学園へ。そのまま医務室へ向かった。
「新野先生」
障子を開けるとすでに連絡を受けていたであろう校医の新野洋一が待機していた。
「ああ、土井先生。その方が」
「はい。川に落ちていて、恐らく足を負傷していると思います。今は酷い熱で、意識が」
新野の指示で畳に寝かせるが、目を覚ます気配はない。浅い呼吸を繰り返しており、汗で髪が額に張り付いている。
体を冷やす原因である濡れた着物を着換えさせようと二人で悪戦苦闘する。どうにか履物を脱がせ、足袋、否メリヤスも外すと右の足首が腫れ上がっていた。
「酷い捻挫ですね。骨に異常が無ければ良いんですが」
上半身をある程度脱がせたところで新野が神妙な面持ちになった。
「土井先生、急いで山本シナ先生を呼んで頂けますか」
「え」
彼の人物の胸元はきっちりとさらしが巻き付けられていた。纏う布の厚みで判り辛かったが、他の身体的特徴からも、新野は殆ど確信を得ていた。
「彼女の着替えは、先生に手伝って頂いた方が良いかもしれません」
彼の人物は女性であると。
恐らくは皆が、無意識の内に男性であると思い込んでいた。だが土井が先程感じた微かな違和感の正体に合点がいった。
くノ一教室の山本シナに連絡し、後は新野に任せ土井はその場を後にした。気にはなるが、まずは報告のため学園長の元へ向かう。
庵には既に他の教師陣が集まっていた。
「土井先生、様子はどうじゃ?」
「意識はまだ戻りません。熱はしばらく下がらないだろうということでした。負傷は、確認できる範囲では右の足首のみで、油断は禁物ですが、ひと先ず命の危険は無いと」
本人から話を聞く事が出来ないため、現状の整理と確認のみを行うことになる。彼の人物が女性であると聞き、山田もまた驚いでいた。
「しかし、話を聞くところによるとあの崖から落ちたと言っているんでしょう? その上川を流れて来たとか。それが事実ならばその程度の怪我で済みますかねぇ?」
「忍者に追われたというのも気になりますな。山田先生のお話では確かに人が居た痕跡と投擲物の跡が幹に残っていたそうですが。そもそも何故その話をその場で口にしたのか」
懐疑的な意見も多く出る。当然である。何せ全てが突拍子も無いことばかりだ。何処から来たのか、何をしていたのか。持っていた物品の出所はおろか、当人の名前すら、まだ誰も把握していない。
山田、土井の両名も、全てを信用しているわけではない。だがあの時、自身を始末しろと言っていたのはただの挑発やはったりではないと思った。
そしてあの得体の知れない『何か』も。
彼女の発言と印象には違和感が多かった。初対面の相手に警戒心を抱くのは自然なことだが、彼女の場合は少し違った。『自分は危険がある存在だ』と暗に示し、あまつさえ『始末を』などと口にした。得体の知れない威圧は受けたものの、思い返せば彼女は座り込んだ場からは動かず、両手は拳を作って常に彼らから見える位置に置いていた。威圧に関しても子供たちには全く影響がなく、彼らの身を案じる素振りすら見せた。終始、自身から遠ざけようとしていた。
孤独を望み、それどころか己が死ぬことを願っているような、命を放り出したような態度だったと、今思い出して考える。そして、周囲に、特に、子供に害することは望まないと。
頑なに拒んだ理由は分からないが、悪人だと断じるのは憚られた。
様々な意見が出、進言がなされた。その中で学園長大川が出した結論は「一定の警戒をしつつ当人の回復を待つ。また並行して情報の収集を行う」であった。それに対して思う所ある者は居れど、現段階では選択の余地はなく、異を唱える者は出なかった。
「なるほどのぉ。情報の真偽は後ほど詳しく調べるとしても、一度しっかりと話を聞く必要があるのは間違いない」
山田の持ち帰った彼の人物の荷物を見、大川は暫し瞑目した後承諾した。
「よかろう。その人物は学園で保護するものとする。わしも直接話をするとしよう」
そこからは少々慌ただしく、教師陣への周知と、混乱を避けるため秘密裏に準備が進められた。
山田は再び学園を出て、土井と合流し生徒たちの引率を引き継いだ。代わりに土井は速度を上げ学園へ。そのまま医務室へ向かった。
「新野先生」
障子を開けるとすでに連絡を受けていたであろう校医の新野洋一が待機していた。
「ああ、土井先生。その方が」
「はい。川に落ちていて、恐らく足を負傷していると思います。今は酷い熱で、意識が」
新野の指示で畳に寝かせるが、目を覚ます気配はない。浅い呼吸を繰り返しており、汗で髪が額に張り付いている。
体を冷やす原因である濡れた着物を着換えさせようと二人で悪戦苦闘する。どうにか履物を脱がせ、足袋、否メリヤスも外すと右の足首が腫れ上がっていた。
「酷い捻挫ですね。骨に異常が無ければ良いんですが」
上半身をある程度脱がせたところで新野が神妙な面持ちになった。
「土井先生、急いで山本シナ先生を呼んで頂けますか」
「え」
彼の人物の胸元はきっちりとさらしが巻き付けられていた。纏う布の厚みで判り辛かったが、他の身体的特徴からも、新野は殆ど確信を得ていた。
「彼女の着替えは、先生に手伝って頂いた方が良いかもしれません」
彼の人物は女性であると。
恐らくは皆が、無意識の内に男性であると思い込んでいた。だが土井が先程感じた微かな違和感の正体に合点がいった。
くノ一教室の山本シナに連絡し、後は新野に任せ土井はその場を後にした。気にはなるが、まずは報告のため学園長の元へ向かう。
庵には既に他の教師陣が集まっていた。
「土井先生、様子はどうじゃ?」
「意識はまだ戻りません。熱はしばらく下がらないだろうということでした。負傷は、確認できる範囲では右の足首のみで、油断は禁物ですが、ひと先ず命の危険は無いと」
本人から話を聞く事が出来ないため、現状の整理と確認のみを行うことになる。彼の人物が女性であると聞き、山田もまた驚いでいた。
「しかし、話を聞くところによるとあの崖から落ちたと言っているんでしょう? その上川を流れて来たとか。それが事実ならばその程度の怪我で済みますかねぇ?」
「忍者に追われたというのも気になりますな。山田先生のお話では確かに人が居た痕跡と投擲物の跡が幹に残っていたそうですが。そもそも何故その話をその場で口にしたのか」
懐疑的な意見も多く出る。当然である。何せ全てが突拍子も無いことばかりだ。何処から来たのか、何をしていたのか。持っていた物品の出所はおろか、当人の名前すら、まだ誰も把握していない。
山田、土井の両名も、全てを信用しているわけではない。だがあの時、自身を始末しろと言っていたのはただの挑発やはったりではないと思った。
そしてあの得体の知れない『何か』も。
彼女の発言と印象には違和感が多かった。初対面の相手に警戒心を抱くのは自然なことだが、彼女の場合は少し違った。『自分は危険がある存在だ』と暗に示し、あまつさえ『始末を』などと口にした。得体の知れない威圧は受けたものの、思い返せば彼女は座り込んだ場からは動かず、両手は拳を作って常に彼らから見える位置に置いていた。威圧に関しても子供たちには全く影響がなく、彼らの身を案じる素振りすら見せた。終始、自身から遠ざけようとしていた。
孤独を望み、それどころか己が死ぬことを願っているような、命を放り出したような態度だったと、今思い出して考える。そして、周囲に、特に、子供に害することは望まないと。
頑なに拒んだ理由は分からないが、悪人だと断じるのは憚られた。
様々な意見が出、進言がなされた。その中で学園長大川が出した結論は「一定の警戒をしつつ当人の回復を待つ。また並行して情報の収集を行う」であった。それに対して思う所ある者は居れど、現段階では選択の余地はなく、異を唱える者は出なかった。
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