弐刻
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「忍者って、どこの忍者かな」
「この辺りならドクタケとか?」
「ドクタケならさすがにサングラスとかで分かるんじゃない?」
「確かに、印象に残らないわけないよねぇ」
「じゃあタソガレドキとかは?」
「でもタソガレドキ忍者がうっかり見つかって、その上相手を見失うなんてことあるかな」
「あとはドクササコとか」
大人とは別の場所で、子供の議論も始まった。全部聞こえてるぞ、もっと隠れてやれば良いものを。あと何故そんなに忍者に詳しいのか。どうやら子供も一般人じゃなかったらしい。
その内に大人の方の話し合いが終わったらしい、妙に真剣な顔をしている。嫌な予感しかしない。
「申し遅れたが、私は山田伝蔵」
「私は土井半助と言います」
今更な自己紹介。本当に今更だ。望んでない。
「我々と共に来ていただきたい」
名乗られた時点でそんな流れだろうと思った。
「断る」
「何故です」
「あんたらとこれ以上関わりたくない。これだけ子供が居る状態で、どう考えても厄介事に関わってそうな人間と一緒に行動しようとするのも意味が分からない。さっさとどっかに行ってくれ」
「貴方の話を詳しく聞きたいんです」
「嫌だっつってんだろ」
事情があるのだとすれば、それはお互い様という奴だ。
――埒が明かない。
二人をじっと、少しだけ本気で睨む。
「――……ッ⁉」
殆ど反射だろう、子供らを庇うように身構えた。何が起きたのか分からないのか、困惑した様子が窺える。
一度目を伏せて視線を外してから改めて二人を見る。
「これで分かっただろ。ここに居ると危ないぞ」
「……」
黙ってしまった大人の後ろで、状況が呑み込めていない子供らが首を傾げていた。
「ああ、それともここで片づけてくれんのか? あんたらなら出来そうだ。その前に子供はさっさと連れてってくれよ」
首筋を指で軽く叩けば意味は伝わるだろうか。去るか消すか、どちらかにしてほしい。ああは言ったが、あの五人組が近くに居る気配は感じない。どれ程流されたのかは分からないが現状追手は存在しない。ならばこの場で一番危険なのは。
「貴方は、なん、なんですか」
ああ、それは実に至極当然の疑問で、最もくだらない質問だ。
「さぁな。俺が聞きたいくらいだ」
その答えが得られたことは一度もない。
「荷物、返してくれ。何度も言うが俺はこれ以上あんたらに関わる気はないし、何かするつもりもない。だから、それを置いてどこかに行ってくれ」
「……その前に、中身を改めさせてもらっても?」
「……。好きにしろよ」
鞄の中にはやましいものも、特別危険なものも入っていない。本来であれば。
フリップ付きのショルダーバック。複雑な構造はしていない、比較的一般的な量販品。にもかかわらず、髭――山田伝蔵と名乗った方は、些か戸惑っているように見えた。マグネットで留まっているだけのフリップ部分を外してファスナーを動かせば開く。だが、その手付きがどうにも覚束ないというか、なんというか。まるで初めて触るような。
ようやく開いた鞄の中には簡単な着替え一式とタオル、包帯ガーゼ絆創膏消毒液等の応急用品、財布、ミネラルウォーターのペットボトル、未開封の煙草五箱。等々。ライターと携帯灰皿、開封済みの煙草はコートのポケットの中だった、と思い出し、手を突っ込むとかさりとした感触が指に当たった。
鞄の中身は特別珍しいものではない。本当に、ただ有り触れたものだ。だというのに、目の前に居る全員が全員、それら全てに対して初めて見たかのような目を向けて興味深そうに眺めている。
冗談にしては手が込みすぎている。あれが演技だというのなら、全員とんでもない役者だ。そもそも、こんな大掛かりなことを仕込む理由がない。
「――なぁ。今、何年だ」
そう問うと、とんでもない元号で返って来た。その前は何だと聞いているとさすがに聞き覚えのある単語が出てきた。
――それは五百年以上前だろう。
そろそろ頭痛がしてきた。息がし辛い。
頭の中がぐるぐると、あらぬ方向に思考が飛んで、また同じ場所へ戻ってくる。どんなに走り回っても、最後には同じ結論に辿り着いてしまう。
ここは“過去”なのだと。
頭が煮える。視界がぼやける。呼吸が上手くいかない。誰かが何かを言っているが、よく聞こえない。ぐわんぐわんと世界が揺らいで、そして、暗転した。
「この辺りならドクタケとか?」
「ドクタケならさすがにサングラスとかで分かるんじゃない?」
「確かに、印象に残らないわけないよねぇ」
「じゃあタソガレドキとかは?」
「でもタソガレドキ忍者がうっかり見つかって、その上相手を見失うなんてことあるかな」
「あとはドクササコとか」
大人とは別の場所で、子供の議論も始まった。全部聞こえてるぞ、もっと隠れてやれば良いものを。あと何故そんなに忍者に詳しいのか。どうやら子供も一般人じゃなかったらしい。
その内に大人の方の話し合いが終わったらしい、妙に真剣な顔をしている。嫌な予感しかしない。
「申し遅れたが、私は山田伝蔵」
「私は土井半助と言います」
今更な自己紹介。本当に今更だ。望んでない。
「我々と共に来ていただきたい」
名乗られた時点でそんな流れだろうと思った。
「断る」
「何故です」
「あんたらとこれ以上関わりたくない。これだけ子供が居る状態で、どう考えても厄介事に関わってそうな人間と一緒に行動しようとするのも意味が分からない。さっさとどっかに行ってくれ」
「貴方の話を詳しく聞きたいんです」
「嫌だっつってんだろ」
事情があるのだとすれば、それはお互い様という奴だ。
――埒が明かない。
二人をじっと、少しだけ本気で睨む。
「――……ッ⁉」
殆ど反射だろう、子供らを庇うように身構えた。何が起きたのか分からないのか、困惑した様子が窺える。
一度目を伏せて視線を外してから改めて二人を見る。
「これで分かっただろ。ここに居ると危ないぞ」
「……」
黙ってしまった大人の後ろで、状況が呑み込めていない子供らが首を傾げていた。
「ああ、それともここで片づけてくれんのか? あんたらなら出来そうだ。その前に子供はさっさと連れてってくれよ」
首筋を指で軽く叩けば意味は伝わるだろうか。去るか消すか、どちらかにしてほしい。ああは言ったが、あの五人組が近くに居る気配は感じない。どれ程流されたのかは分からないが現状追手は存在しない。ならばこの場で一番危険なのは。
「貴方は、なん、なんですか」
ああ、それは実に至極当然の疑問で、最もくだらない質問だ。
「さぁな。俺が聞きたいくらいだ」
その答えが得られたことは一度もない。
「荷物、返してくれ。何度も言うが俺はこれ以上あんたらに関わる気はないし、何かするつもりもない。だから、それを置いてどこかに行ってくれ」
「……その前に、中身を改めさせてもらっても?」
「……。好きにしろよ」
鞄の中にはやましいものも、特別危険なものも入っていない。本来であれば。
フリップ付きのショルダーバック。複雑な構造はしていない、比較的一般的な量販品。にもかかわらず、髭――山田伝蔵と名乗った方は、些か戸惑っているように見えた。マグネットで留まっているだけのフリップ部分を外してファスナーを動かせば開く。だが、その手付きがどうにも覚束ないというか、なんというか。まるで初めて触るような。
ようやく開いた鞄の中には簡単な着替え一式とタオル、包帯ガーゼ絆創膏消毒液等の応急用品、財布、ミネラルウォーターのペットボトル、未開封の煙草五箱。等々。ライターと携帯灰皿、開封済みの煙草はコートのポケットの中だった、と思い出し、手を突っ込むとかさりとした感触が指に当たった。
鞄の中身は特別珍しいものではない。本当に、ただ有り触れたものだ。だというのに、目の前に居る全員が全員、それら全てに対して初めて見たかのような目を向けて興味深そうに眺めている。
冗談にしては手が込みすぎている。あれが演技だというのなら、全員とんでもない役者だ。そもそも、こんな大掛かりなことを仕込む理由がない。
「――なぁ。今、何年だ」
そう問うと、とんでもない元号で返って来た。その前は何だと聞いているとさすがに聞き覚えのある単語が出てきた。
――それは五百年以上前だろう。
そろそろ頭痛がしてきた。息がし辛い。
頭の中がぐるぐると、あらぬ方向に思考が飛んで、また同じ場所へ戻ってくる。どんなに走り回っても、最後には同じ結論に辿り着いてしまう。
ここは“過去”なのだと。
頭が煮える。視界がぼやける。呼吸が上手くいかない。誰かが何かを言っているが、よく聞こえない。ぐわんぐわんと世界が揺らいで、そして、暗転した。
