複雑でした
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あー、私ってば現金。みんなが家に居てくれると分かった途端に、私の涙はピタリと止まった。……そう涙は。まさか誰かに鼻をかむの手伝ってもらうとは思わなかった。
「それにしても、よくオレたちの話信じたな。ぶっ飛びすぎてるだろ?」
……うん、そうだよね。
「私もそう思うんだけど、でも、分かったんだもの。ちゃんと、姿を見て向き合った時に、ああ、みんななんだって」
そう直感したとしか、言いようがない。
「ボクらが『フリ』をしてるだけとは思わないのかい?」
「んー……それも考えなかったわけじゃないんだけど、でも、木立先生公認だから。あの人と話をして、ここに五体満足で居るってことは、みんなが『みんな』ってことだもの。もし『フリ』なら、全員ぼっこぼこにされてる。……あの人には、すべてお見通しだから。たとえ人知を超えた事柄でも、ホントのこと分かるみたい」
冗談抜きで。むしろ、あの人のほうがぶっ飛んでる。
「……すごい、人なんですね」
必死に選び出された言葉に、思わず笑いが漏れた。
「そうなの。だから、あの人と関わるにはそれ相応の覚悟が必要だよ」
「ケッ。どいつもこいつも……。 胡散くせぇ医者共だ」
「ん?」
医者『共』?内心首を傾げていると、『そのうち分かる』と誤魔化された。まあ、それはいいや。そのうち分かるなら。それよりも。
「これ美味しいー……」
コマツが、少し遅めの朝ご飯として右手だけでも食べられるようにと雑炊を作ってくれた。なんかあっという間に出てきた上に、超美味しい。自分で作るよりもはるかに美味しい。
結局、私が寝室で言った名前は、全員合っていた。リビングテーブルで雑炊を食べる私の正面にいる一番小柄な、少年のような人がコマツ。私から見て右側に腰を下ろしている青い髪ですごい筋肉の大柄な、目の下に傷が三本ある人がトリコ。左側の、トリコよりもさらに体が大きくて、髪が赤くて左の頬に縫い跡があるのがゼブラ。私の後ろで、ソファに座ってじっと様子を見てるらしいカラフルな長髪の人がサニー。
ダイニングチェアに腰かけて優しく見守ってくれている感じの黒髪の人がココ。私の勘も捨てたもんではない。
そしてさらに言うと、私が呼んでいた名前は彼らの本当の名前とピタリと一致するそうだ。そんなこともあるんだね。イッツミラクル。コマツは、本当は『小松』なのだそうだ。完全に苗字だった。人の姿をしているし、苗字で呼び捨てにするのも少々気が引けたので呼び方を変えようかと相談した。
でも、『雛菊さんの好きなように呼んでください。今までと同じでも、ボクは構いませんよ?』なんて笑顔で言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
私が雑炊の美味しさに感動していると、コマツが照れたよう笑っていた。それがあんまり嬉しそうだから、こちらまで笑顔になる。
もぐもぐと、ご飯を咀嚼していてふと気が付いた。
「……そう言えば、みんなゴハンは?」
何か食べたの?と聞いたら『ボクたちのことは、今は気にしないでください』と返ってきた。答えになってないよ。
でも『今』は気にするなってことは、後でなら気にしていいのか。じゃあそうしよう。
ノンストップで雑炊を平らげ、一息つく。コマツってば料理上手だなぁ。
「食欲、ありますね。良かった」
「美味しかったからね」
「じゃ、食い終ったところで。もう少し話をしてもいいか?」
「うん。……聞くよ」
話してくれるなら、私は全部聞く。
「――って言っても、そんなに難しい話じゃねぇ。今度は、オレたち個人の話をしようと思ってな」
自己紹介みたいなもんだ。トリコがニッと笑ってそう言った。その笑顔を見ていても堅苦しい感じはしない。
確かに私は、『猫』のほうの彼らしか知らない。それに、本人と直接言葉を交わせるようになったのだから、それを利用しない手はない。
まずはオレからな、とトリコに持ち上げられた。突然身体が浮いたものだから、小さく悲鳴を上げてしまった。唯一自由の利く右手で必死にしがみつく。
「ははっ。ぜってー落とさねぇから安心しな」
さっき運んでもらった時から知ってる。こんなにがっしりした筋肉なら、私くらい楽に持てるだろう。でもね、やっぱり分かってても急に持ち上げられたらビックリもするよ。
「そう言えば……。少し変わってるっていうのは、見た目のことじゃないよね?」
全員というわけではないけど、彼らは今までにちょっと見たことのないビジュアルをしている。まあ、その特徴おかげもあってすぐに分かったんだけど。でも、『全員が変わっている』というのなら、それは当てはまらない。
「ああ。変わってるのは、身体能力だ。オレは、常人の何倍もの嗅覚を持ってる」
警察犬なんて目じゃないぜ? ニカッと笑ったトリコ。
そうか、よくクンクンしてるなと思ってたらそう言うことだったのか。警察犬以上って。においのキツいもの避けよう。納得して結論を出していると、後ろに身体を引っ張られた。
「わっ」
引き寄せられた後、背中がトンと何かに触れた。視線だけを少し下に向けると、お腹の辺りに傷跡のある太い腕が巻き付いていた。
「ゼブラ?」
首が回せないから、顔の確認ができない。顔が見たいなぁと思っていると、ぐるりと身体がまわった。その際に、反射的に彼の服を掴んだ。やっぱりゼブラだ。
「確かゼブラは、耳がいいんだよね。それってどれくらい?」
「この町の音なら余裕だな」
「わぉ」
なんだそれ。まるで想像できない。この町って言ったって、割と大きい町だよ?その音が聞こえるって……すご。
感心していると、身体がふわりと浮いた。え⁉ 浮いてる⁉
「ひぇっ⁉」
なに! なんで浮いてるの⁉ 浮いたまま、身体はスーッと移動していく。
一度心を少し落ち着かせてみた。そうしたら、身体のあちこちの何かが巻き付いているような感覚がした。ような気がする。でも何も見えない。
「なにがどうなってるの。サニー」
相変わらず身体は宙ぶらりんのままだけど、目の前にいるサニーに尋ねてみた。多分、サニーが何かしてるんだろう。
「俺の触覚で前を支えてる」
「……触覚?」
「普通は見えねーけどな」
そういうサニーの後ろで、彼の髪がざわざわ動いた。触覚って、髪の毛のことだろうか。でもそれなら見えるよね。てことは、髪の毛と一体化してる感じ?
「えーっと。触覚ってことは、感覚はあるんだ?」
「ああ」
へぇ。なんだか難しい話になってきた。
「おいサニー。てめぇチョーシ乗ってんじゃねーぞ」
「そういうお前も、いきなり掻っ攫っていくんじゃねぇよ」
「つか、てめーら扱い方雑すぎんだよ!」
……あれ。なんか三人の言い争いになってる。
何回か見たことあるぞ、こんな光景。見た目は全然違うけど。
そんなことを考えていたら、いつの間にかソファの上にそっと降ろされていた。怪我を気に掛けてそうしてくれたのだろうか。
「まったく、困ったものだね」
ココが呆れたように近づいてきた。私も思わず苦笑してしまう。でも、いつも通りでちょっと安心するかも。
「ココも、なんか特別なことあるの?」
「ボクは『目』だ。普通の人には見えないもの、電磁波なんかも視覚として捉えられるんだ」
電磁波……。見えないものが見えるってことは……、霊感とかとは違うんだろうなぁ。……うん、やっぱり難しい。そして、この微妙な距離感もいつも通り。なんだけど。この、届きそうで届かない距離。なんなんだろう。自意識過剰かもしれないけど、嫌われてるって感じはしないんだよね。でも距離があるっていうのは……なに?
ココのほうへ手を伸ばしたら、スッとかわされた。ああ、やっぱり触られるのは嫌なんだ。
「……あ……」
ココはしまった、みたいな顔してるけど、まあ私としては『いつものこと』ではあるわけで。ショックじゃないかと言えばウソになるけど、そこまでじゃないし。
「やっぱり、触られるの嫌いなんだ?」
「いや……ごめん。そういうわけじゃ、ないんだけど……。……怖いんだ」
怖い? 触られるのが?
「詳しくは話せないけど、ボクはキミを傷付けかねないんだ。 精神的にも、身体的にも、ね。ボクの意志とは関係なく起こりかねない。それが怖い」
眉を下げるココ。
……ふーん……。なるほど。
「分かった。触らない。そのかわり……」
言葉が続くと思わなかったのか、ココは驚いたようだった。ちょっとしてやったり感。
「絶対に大丈夫だって確信があるとき、ココが教えてよ。それならいいでしょ?」
驚いていたココはやがて笑って、それを承諾してくれた。
そこへ、ずっと食事の後片付けをしてくれていたコマツが戻ってきた。
「コマツは?」
「え? ボクですか? ボクは皆さんみたいに特別なことは……」
「小松は運だ運!」
つい今まで言い争っていた三人が話に割って入ってきた。結局みんな仲良いよね。
「食材や調理に関しての運だな」
美味しい食材が向こうから寄って来たりするらしい。だからあんなに美味しいんだ。
ちょっと複雑ではあるけど、これからまたみんなのこと知れたらいいなぁ。聞きたいことも、いつか話したいことも、まだ沢山ある。
「それにしても、よくオレたちの話信じたな。ぶっ飛びすぎてるだろ?」
……うん、そうだよね。
「私もそう思うんだけど、でも、分かったんだもの。ちゃんと、姿を見て向き合った時に、ああ、みんななんだって」
そう直感したとしか、言いようがない。
「ボクらが『フリ』をしてるだけとは思わないのかい?」
「んー……それも考えなかったわけじゃないんだけど、でも、木立先生公認だから。あの人と話をして、ここに五体満足で居るってことは、みんなが『みんな』ってことだもの。もし『フリ』なら、全員ぼっこぼこにされてる。……あの人には、すべてお見通しだから。たとえ人知を超えた事柄でも、ホントのこと分かるみたい」
冗談抜きで。むしろ、あの人のほうがぶっ飛んでる。
「……すごい、人なんですね」
必死に選び出された言葉に、思わず笑いが漏れた。
「そうなの。だから、あの人と関わるにはそれ相応の覚悟が必要だよ」
「ケッ。どいつもこいつも……。 胡散くせぇ医者共だ」
「ん?」
医者『共』?内心首を傾げていると、『そのうち分かる』と誤魔化された。まあ、それはいいや。そのうち分かるなら。それよりも。
「これ美味しいー……」
コマツが、少し遅めの朝ご飯として右手だけでも食べられるようにと雑炊を作ってくれた。なんかあっという間に出てきた上に、超美味しい。自分で作るよりもはるかに美味しい。
結局、私が寝室で言った名前は、全員合っていた。リビングテーブルで雑炊を食べる私の正面にいる一番小柄な、少年のような人がコマツ。私から見て右側に腰を下ろしている青い髪ですごい筋肉の大柄な、目の下に傷が三本ある人がトリコ。左側の、トリコよりもさらに体が大きくて、髪が赤くて左の頬に縫い跡があるのがゼブラ。私の後ろで、ソファに座ってじっと様子を見てるらしいカラフルな長髪の人がサニー。
ダイニングチェアに腰かけて優しく見守ってくれている感じの黒髪の人がココ。私の勘も捨てたもんではない。
そしてさらに言うと、私が呼んでいた名前は彼らの本当の名前とピタリと一致するそうだ。そんなこともあるんだね。イッツミラクル。コマツは、本当は『小松』なのだそうだ。完全に苗字だった。人の姿をしているし、苗字で呼び捨てにするのも少々気が引けたので呼び方を変えようかと相談した。
でも、『雛菊さんの好きなように呼んでください。今までと同じでも、ボクは構いませんよ?』なんて笑顔で言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
私が雑炊の美味しさに感動していると、コマツが照れたよう笑っていた。それがあんまり嬉しそうだから、こちらまで笑顔になる。
もぐもぐと、ご飯を咀嚼していてふと気が付いた。
「……そう言えば、みんなゴハンは?」
何か食べたの?と聞いたら『ボクたちのことは、今は気にしないでください』と返ってきた。答えになってないよ。
でも『今』は気にするなってことは、後でなら気にしていいのか。じゃあそうしよう。
ノンストップで雑炊を平らげ、一息つく。コマツってば料理上手だなぁ。
「食欲、ありますね。良かった」
「美味しかったからね」
「じゃ、食い終ったところで。もう少し話をしてもいいか?」
「うん。……聞くよ」
話してくれるなら、私は全部聞く。
「――って言っても、そんなに難しい話じゃねぇ。今度は、オレたち個人の話をしようと思ってな」
自己紹介みたいなもんだ。トリコがニッと笑ってそう言った。その笑顔を見ていても堅苦しい感じはしない。
確かに私は、『猫』のほうの彼らしか知らない。それに、本人と直接言葉を交わせるようになったのだから、それを利用しない手はない。
まずはオレからな、とトリコに持ち上げられた。突然身体が浮いたものだから、小さく悲鳴を上げてしまった。唯一自由の利く右手で必死にしがみつく。
「ははっ。ぜってー落とさねぇから安心しな」
さっき運んでもらった時から知ってる。こんなにがっしりした筋肉なら、私くらい楽に持てるだろう。でもね、やっぱり分かってても急に持ち上げられたらビックリもするよ。
「そう言えば……。少し変わってるっていうのは、見た目のことじゃないよね?」
全員というわけではないけど、彼らは今までにちょっと見たことのないビジュアルをしている。まあ、その特徴おかげもあってすぐに分かったんだけど。でも、『全員が変わっている』というのなら、それは当てはまらない。
「ああ。変わってるのは、身体能力だ。オレは、常人の何倍もの嗅覚を持ってる」
警察犬なんて目じゃないぜ? ニカッと笑ったトリコ。
そうか、よくクンクンしてるなと思ってたらそう言うことだったのか。警察犬以上って。においのキツいもの避けよう。納得して結論を出していると、後ろに身体を引っ張られた。
「わっ」
引き寄せられた後、背中がトンと何かに触れた。視線だけを少し下に向けると、お腹の辺りに傷跡のある太い腕が巻き付いていた。
「ゼブラ?」
首が回せないから、顔の確認ができない。顔が見たいなぁと思っていると、ぐるりと身体がまわった。その際に、反射的に彼の服を掴んだ。やっぱりゼブラだ。
「確かゼブラは、耳がいいんだよね。それってどれくらい?」
「この町の音なら余裕だな」
「わぉ」
なんだそれ。まるで想像できない。この町って言ったって、割と大きい町だよ?その音が聞こえるって……すご。
感心していると、身体がふわりと浮いた。え⁉ 浮いてる⁉
「ひぇっ⁉」
なに! なんで浮いてるの⁉ 浮いたまま、身体はスーッと移動していく。
一度心を少し落ち着かせてみた。そうしたら、身体のあちこちの何かが巻き付いているような感覚がした。ような気がする。でも何も見えない。
「なにがどうなってるの。サニー」
相変わらず身体は宙ぶらりんのままだけど、目の前にいるサニーに尋ねてみた。多分、サニーが何かしてるんだろう。
「俺の触覚で前を支えてる」
「……触覚?」
「普通は見えねーけどな」
そういうサニーの後ろで、彼の髪がざわざわ動いた。触覚って、髪の毛のことだろうか。でもそれなら見えるよね。てことは、髪の毛と一体化してる感じ?
「えーっと。触覚ってことは、感覚はあるんだ?」
「ああ」
へぇ。なんだか難しい話になってきた。
「おいサニー。てめぇチョーシ乗ってんじゃねーぞ」
「そういうお前も、いきなり掻っ攫っていくんじゃねぇよ」
「つか、てめーら扱い方雑すぎんだよ!」
……あれ。なんか三人の言い争いになってる。
何回か見たことあるぞ、こんな光景。見た目は全然違うけど。
そんなことを考えていたら、いつの間にかソファの上にそっと降ろされていた。怪我を気に掛けてそうしてくれたのだろうか。
「まったく、困ったものだね」
ココが呆れたように近づいてきた。私も思わず苦笑してしまう。でも、いつも通りでちょっと安心するかも。
「ココも、なんか特別なことあるの?」
「ボクは『目』だ。普通の人には見えないもの、電磁波なんかも視覚として捉えられるんだ」
電磁波……。見えないものが見えるってことは……、霊感とかとは違うんだろうなぁ。……うん、やっぱり難しい。そして、この微妙な距離感もいつも通り。なんだけど。この、届きそうで届かない距離。なんなんだろう。自意識過剰かもしれないけど、嫌われてるって感じはしないんだよね。でも距離があるっていうのは……なに?
ココのほうへ手を伸ばしたら、スッとかわされた。ああ、やっぱり触られるのは嫌なんだ。
「……あ……」
ココはしまった、みたいな顔してるけど、まあ私としては『いつものこと』ではあるわけで。ショックじゃないかと言えばウソになるけど、そこまでじゃないし。
「やっぱり、触られるの嫌いなんだ?」
「いや……ごめん。そういうわけじゃ、ないんだけど……。……怖いんだ」
怖い? 触られるのが?
「詳しくは話せないけど、ボクはキミを傷付けかねないんだ。 精神的にも、身体的にも、ね。ボクの意志とは関係なく起こりかねない。それが怖い」
眉を下げるココ。
……ふーん……。なるほど。
「分かった。触らない。そのかわり……」
言葉が続くと思わなかったのか、ココは驚いたようだった。ちょっとしてやったり感。
「絶対に大丈夫だって確信があるとき、ココが教えてよ。それならいいでしょ?」
驚いていたココはやがて笑って、それを承諾してくれた。
そこへ、ずっと食事の後片付けをしてくれていたコマツが戻ってきた。
「コマツは?」
「え? ボクですか? ボクは皆さんみたいに特別なことは……」
「小松は運だ運!」
つい今まで言い争っていた三人が話に割って入ってきた。結局みんな仲良いよね。
「食材や調理に関しての運だな」
美味しい食材が向こうから寄って来たりするらしい。だからあんなに美味しいんだ。
ちょっと複雑ではあるけど、これからまたみんなのこと知れたらいいなぁ。聞きたいことも、いつか話したいことも、まだ沢山ある。