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まだ不安そうにそわそわして落ち着かない彼らを前にして、私はただいつものように笑っていた。私の答えは変わらない。むしろ、不安なのは私の方だ。
「さて、まだお互い話したいこともあるだろうし、ワタシは一度席を外そうかな」
木立先生は目を細めて笑い、身軽にドアの方まで移動した。
「あ。まだ自力で立ち上がっちゃ駄目だよ。少なくとも丸一日くらい。移動は誰かに抱っこしてもらいなさい」
「え⁉」
抱っこ⁈
「明日また様子見に来るからね。しばらくはお風呂も入っちゃ駄目。洗面台で頭洗うくらいはいいけど。負傷箇所に負担掛けない範囲でね。左腕は動かさないこと。首もあんまり動かさない方がいいかなぁ。それ以外なら無理のない範囲で何してもいいよ。大人しくいい子にして、早く治すんだよー。 ああ、キミたちも、負担掛けたら駄目だよ。そんなことしたら、お仕置きするからね?」
……先生、最後のその笑顔怖いです。
そのあとにもいくつか注意事項を一方的に述べた先生は颯爽と帰って行った。相変わらず、つかみどころがないというか、自由すぎるというか。完全には理解できない人だ。――こんな状態で放置していくし。未だに、彼らの纏う空気は沈んだままだ。まだ、何か言いたそう。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと聞く。聞きたいことがあるなら、ちゃんと答えるから」
だから、そんな顔しないで。私だって、彼らに聞きたいことがある。
「そこ、狭いでしょ? リビングで話ししよう。……って言っても、私歩いちゃいけないらしいんだけどね」
あはは……なんて苦笑すれば、青い髪が諦めたように息を吐いた。
「ったく、しょうがねぇなぁ……」
そう言いながら、私を持ち上げる彼は、笑っていた。少しだけ、空気が軽くなった気がした。
ソファの上にそっと降ろされる。階段を下りている時も、私に振動がこないようゆっくりと下りてくれた。その動作一つ一つから、気にかけてくれていることが伝わってくる。この歳で抱っこは恥ずかしいけど、優しさが純粋に嬉しい。
ありがとう、とお礼を一つ。そしてゆっくりとソファに身体を預けた。いつの間にかテーブルに置かれていた水の入ったマグにもお礼を一つして。テーブルを挟んで、床に座る彼らと向かい合う。……胸中穏やかではないけれど、さあ、話をしよう。
「――オレ達は、実験的にここにいるんだ」
話の口火を切ったのは、そんな言葉だった。
「ボク達は、本当は猫じゃない。この姿が、生まれ持ったものなんだ」
静かに相槌を打つ。彼らが、一般的な感覚で言う『普通』ではないことは、先程までの話でよく分かっていた。そして、とある施設で行われた実験の結果、もう一つの姿、つまり、猫の身体を得たのだと教えてくれた。ここの環境がどうだとか、ある細胞がどうとか、正直、私には難しすぎて理解が追い付かないこともあった。
解る部分だけを繋げてみると、『この町周辺の環境が少し特殊で、彼らもまた、元々少し変わっていて。けれどその特殊さは、環境と合わず身体が正常に機能しなかった。そこで、この周辺の環境に馴染んでいる生き物の身体の組織を借りる研究がされた。そして彼らは、人の姿の他に猫の姿を持つことでこの町での生活が可能になった。』ということらしい。
そんな説明を聞いて、完全な理解はできないまでも、なんとなく、納得はできた。この町が他と違うことは、小さい頃から知っていたから。でも、私にとって彼らが『普通』でないことは問題ではなかった。
「この一年ずっと、騙すようなことをしてすみませんでした……っ」
説明の後、そう言って頭を下げられた。困ったな、そんなことをしてほしいんじゃないんだけど……。慌てて、頭を上げてもらった。
「……じゃあ、意地の悪い聞き方するけど、みんなは、私を騙そうとしてたの?」
出来るだけ柔らかい口調で聞くと、間髪入れずに『そんなわけねーし‼』と返ってきた。
「けど、ずっと隠してたのは事実だ……」
「それは、仕方ないと思うよ」
うん、仕方ない。だから咎めるつもりもないし、気に病まないでほしい。そう思って私は、驚いた顔をしている彼らに向けて言葉を続けた。
「私がみんなの立場なら、今のこと、ずっと隠したいと思う。 でも、みんなはこうしてホントの姿を見せてくれた。 私のこと助けてくれた。それがね、すごく嬉しいの」
だから、謝らないで? そう言って、笑いたかったのだけど、どうしても鼻の奥がつんとする。うまく笑えない。悲しいんじゃない、本当に嬉しくて、涙が出る。
「あ、れ? おかしいな、ちょっと待って……。っホントだよ? ホントに、嬉しくて……」
「分かってる」
必死に指で涙を拭っていると真っ直ぐ声が飛んできた。
「ウソじゃねーのは、分かってる」
涙でぐしゃぐしゃだったけど、さっきよりはマシに、笑えた気がする。
「さて、まだお互い話したいこともあるだろうし、ワタシは一度席を外そうかな」
木立先生は目を細めて笑い、身軽にドアの方まで移動した。
「あ。まだ自力で立ち上がっちゃ駄目だよ。少なくとも丸一日くらい。移動は誰かに抱っこしてもらいなさい」
「え⁉」
抱っこ⁈
「明日また様子見に来るからね。しばらくはお風呂も入っちゃ駄目。洗面台で頭洗うくらいはいいけど。負傷箇所に負担掛けない範囲でね。左腕は動かさないこと。首もあんまり動かさない方がいいかなぁ。それ以外なら無理のない範囲で何してもいいよ。大人しくいい子にして、早く治すんだよー。 ああ、キミたちも、負担掛けたら駄目だよ。そんなことしたら、お仕置きするからね?」
……先生、最後のその笑顔怖いです。
そのあとにもいくつか注意事項を一方的に述べた先生は颯爽と帰って行った。相変わらず、つかみどころがないというか、自由すぎるというか。完全には理解できない人だ。――こんな状態で放置していくし。未だに、彼らの纏う空気は沈んだままだ。まだ、何か言いたそう。
「言いたいことがあるなら、ちゃんと聞く。聞きたいことがあるなら、ちゃんと答えるから」
だから、そんな顔しないで。私だって、彼らに聞きたいことがある。
「そこ、狭いでしょ? リビングで話ししよう。……って言っても、私歩いちゃいけないらしいんだけどね」
あはは……なんて苦笑すれば、青い髪が諦めたように息を吐いた。
「ったく、しょうがねぇなぁ……」
そう言いながら、私を持ち上げる彼は、笑っていた。少しだけ、空気が軽くなった気がした。
ソファの上にそっと降ろされる。階段を下りている時も、私に振動がこないようゆっくりと下りてくれた。その動作一つ一つから、気にかけてくれていることが伝わってくる。この歳で抱っこは恥ずかしいけど、優しさが純粋に嬉しい。
ありがとう、とお礼を一つ。そしてゆっくりとソファに身体を預けた。いつの間にかテーブルに置かれていた水の入ったマグにもお礼を一つして。テーブルを挟んで、床に座る彼らと向かい合う。……胸中穏やかではないけれど、さあ、話をしよう。
「――オレ達は、実験的にここにいるんだ」
話の口火を切ったのは、そんな言葉だった。
「ボク達は、本当は猫じゃない。この姿が、生まれ持ったものなんだ」
静かに相槌を打つ。彼らが、一般的な感覚で言う『普通』ではないことは、先程までの話でよく分かっていた。そして、とある施設で行われた実験の結果、もう一つの姿、つまり、猫の身体を得たのだと教えてくれた。ここの環境がどうだとか、ある細胞がどうとか、正直、私には難しすぎて理解が追い付かないこともあった。
解る部分だけを繋げてみると、『この町周辺の環境が少し特殊で、彼らもまた、元々少し変わっていて。けれどその特殊さは、環境と合わず身体が正常に機能しなかった。そこで、この周辺の環境に馴染んでいる生き物の身体の組織を借りる研究がされた。そして彼らは、人の姿の他に猫の姿を持つことでこの町での生活が可能になった。』ということらしい。
そんな説明を聞いて、完全な理解はできないまでも、なんとなく、納得はできた。この町が他と違うことは、小さい頃から知っていたから。でも、私にとって彼らが『普通』でないことは問題ではなかった。
「この一年ずっと、騙すようなことをしてすみませんでした……っ」
説明の後、そう言って頭を下げられた。困ったな、そんなことをしてほしいんじゃないんだけど……。慌てて、頭を上げてもらった。
「……じゃあ、意地の悪い聞き方するけど、みんなは、私を騙そうとしてたの?」
出来るだけ柔らかい口調で聞くと、間髪入れずに『そんなわけねーし‼』と返ってきた。
「けど、ずっと隠してたのは事実だ……」
「それは、仕方ないと思うよ」
うん、仕方ない。だから咎めるつもりもないし、気に病まないでほしい。そう思って私は、驚いた顔をしている彼らに向けて言葉を続けた。
「私がみんなの立場なら、今のこと、ずっと隠したいと思う。 でも、みんなはこうしてホントの姿を見せてくれた。 私のこと助けてくれた。それがね、すごく嬉しいの」
だから、謝らないで? そう言って、笑いたかったのだけど、どうしても鼻の奥がつんとする。うまく笑えない。悲しいんじゃない、本当に嬉しくて、涙が出る。
「あ、れ? おかしいな、ちょっと待って……。っホントだよ? ホントに、嬉しくて……」
「分かってる」
必死に指で涙を拭っていると真っ直ぐ声が飛んできた。
「ウソじゃねーのは、分かってる」
涙でぐしゃぐしゃだったけど、さっきよりはマシに、笑えた気がする。