「ゆーぅきーやこんこ、あーられーやこんこ、」
　歌詞を口ずさむ度、白い息が出る。それだけ気温が下がった日が続いて、条件が揃えば雪が降るのは毎年のことで。小さい頃はよくこの唄を歌ったものだが。
「いーぃぬはよろこーびにーわかーけまーわり、ねーこはこたつでまるくなるー……んじゃないのかねキミたち」
　どうにも歌詞と相反することが目の前で起きている。確かにね、炬燵はないよ。でもさ、まさか猫が雪が降り積もった庭を喜んで駆け回るなんて思わないじゃない。寒くないの、ねぇ？　私は寒いよ。
　朝起きたら、結構雪が降り積もってた。庭の芝生が一面真っ白だった。それをリビングから見ていたトリコが、窓を開けてくれと言わんばかりにカリカリ引っ掻いた。窓を開けるとトリコに続いてゼブラも庭に飛び出して雪の上を走り始めた。釣られるようにみんな出て来たのだけど、どうもコマツは寒そうだ。サニーとココはそうでもなさそう。というか、サニーはその長毛あったかいでしょうよ。
　私はというと、厚めのコートを羽織ってブーツを履いてから庭に出た。プルプル震えているコマツを抱き上げて、コートの内側に入れた。襟元から顔を出しているのがすこぶる可愛い。
　一歩踏み出すと、ずぼ、と軽く足首が埋まった。……積もったなぁ。庭木に積もった雪を落としながら雪かきをするか否か考えた。とりあえず、庭がこうなら玄関の前もこんな感じだろう。だったらせめて人が通れるようにはしなければ。
　コートの中のコマツの震えは治まっていた。よかった。ついでに言うと私も温かい。
「フギャッ」
　不意にした声に下を見ると、払い落としたものであろう雪に埋もれたトリコがいた。上ばかり見て雪を落としていたせいでいることに気付かなかった。別のことを考えながらやったのもいけなかったのだろう。
「ああっ！　ごめんトリコッ！」
　慌てて雪を払って救出する。
「大丈夫？　ごめんね」
　心配する私をよそに、トリコは何事もなかったように起き上った。そしてこちらを向いて一言「ニャー」と鳴いた。大丈夫、なのかな。
　ああもう、私のバカ。何やってんだろ。
「ごめん……」
　まだ背中に残っていた雪をそっと払った。
「ひゃっ⁉　冷た……っ！」
　突然、トリコが後ろ足で立ち上がったと思ったら、雪で冷えた肉球を頬に押し当てられた。あまりの冷たさに肩が跳ねる。反射的に瞑った目を開けると、トリコがニッと『笑った』。
「え……？」
　普通、人間以外の動物が歯を見せる行為は威嚇に値するんじゃないだろうか。そうだよね、だって歯って、爪と同じで『武器』じゃん。そうは思うのだけど、『威嚇』に見えない。……本当に『笑った』んだろうか。私にはそう見えるだけで、ホンニンとしては違う意味合いだったのかもしれない。残念なことに、彼らの言葉は私には分からない。だから、私が聞くしかないのだ。
「……今ので、チャラにしてくれる？」
「ニャゥ」
　ああ、うん。ちょっと安心した。私の言葉に、トリコが一つ頷いてくれた。
「ありがとう。そろそろ中に入ろうか」
　冷えちゃったもんね。トリコと、ゼブラも呼んで抱き上げた。コマツを落とさないように気をつけながら。窓の近く、雪の少ないところで待っていたココとサニーも連れて家の中に入る。
　ソファに上がったみんなにまとめてフリースの布を数枚掛けた。色違いでまとめて買った、対寒さ用のフリース。とりあえずみんな包まっているようなので、ＯＫ。
　お湯を注ぐだけのインスタントのコーンスープをスプーンで掻き混ぜながらソファに腰を下ろした。当然、匂いに誘われた二名が顔を近づけてくる。
「こらこら。これはダメだよー。あっついもん。それに、味が濃すぎるよ」
　そう伝えても、どうも納得のいかないらしいふたりは抗議めいた、そしてねだるような声を出した。畜生、可愛い……ッ。卑怯だよキミたち。とりあえず、私はこれで暖まろうと思っていたので先に熱いものを飲んでしまう。危うく火傷しそうになった。
　カップの底に残った、少し冷めたスープ。どろりとしているのでスプーンを突っ込むとわずかについてくる。それを、そっと差し出した。途端にぱぁっと明るい顔で舐めだした。ああもう、私ってば弱すぎ。
　でも結局、私は甘々なのだからどうしようもない。そこに残ったスープがなくなるまで、ツッコんだりを繰り返した。最終的にはみんな一度は舐めていた。美味しいかい、そうかいそれはよかったよ。
　気が付いたらみんなの毛皮に埋もれていて非常にあったかかったです。雪の中でも、これならきっと大丈夫なくらい、あったかい。
　冬は、みんなのあったかさがよく分かる。それに、雪の中を掛ける姿も、悪くない。