倒れました
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なんだか、ここ数日体調があまり良くない。それでも何とか仕事には行ってたけど、今日はそうはいかないらしい。
「……ダメだ、気持ち悪い……」
朝から超絶不調。なんだっけ、この感じ、知ってるぞ。
立っているとフラフラする。ああ、これは熱が出てるな。あと、吐き気と頭痛と倦怠感と……。寒気と、それから……。
孤独感。
……思い出した。これ『発作』だ。そう言えば最後に発作きたのっていつだっけ。すっかり忘れるくらいご無沙汰だったか。そっか、あれは予兆だったのか……。
鉛のように重たい身体をどうにか動かして、ケータイを手にソファに座り込んだ。勤務先の番号を探し出して、店長に今日は休ませて欲しいと電話を入れる。声から体調の悪さを察してくれたらしい店長は、すぐに承諾してくれた。
……よし、次……。
一つ長く息を吐いて、次の番号を探す。そして見つけた番号に呼び出しを掛けた時、急激に具合が悪くなった。
視界が霞み、身体に力が入らなくなった。私はそのまま倒れこみ、ケータイは手から滑り落ちた。ゴン、と床に落ちた音がした。壊れてなきゃいいけど。
――周りで聞こえる、慌てたような、焦ってるような、騒いでるような声って、誰のだっけ……。
薄く目を開けると、まず天井が見えた。次に視界の端にソファの背もたれが映った。ならここはリビングのソファの上か。そうか私あのまま気絶しちゃったのか。
「やぁ、お目覚め?」
人の声がして、そちらに視線を送ると、右目に眼帯をつけてマスクをした白衣姿の女性がダイニングチェアをソファの側に持ってきてそこに座って本を読んでいた。一見すると不審人物極まりないその人は、読んでいた本を閉じて私の額に触れた。
「うん、熱は下がったね。気分はどう? まだ悪い?」
それに首を軽く振って「いいえ」と答えた。
「あれほど定期的においでって言ったのに、ひと月待っても全然来ないから心配してたんだよ。キミからかかって来た電話に出ても猫の声がするだけで何も応答がないから、すぐに飛んで来たんだけどね。大事に至らなくて良かったよ」
「……すいません、お手数おかけして……」
「いいんだよ、キミが無事ならそれで。ところでね。ここに来た時からあの猫ちゃんたちに睨まれっぱなしなんだけど」
どうしたもんかね、と言って指さされた方を体と首を回して見ると、壁際に集まってるウチの猫たちがすごく不信がった顔をしていた。多分、この人から病院のにおいがするからじゃないのかなぁ。あと、この人自身が胡散臭いし。髪は伸ばしっぱなしだし、白衣の下はジーパンにTシャツだし、いつ見てもマスクしてるし、眼帯してる右目の周りは火傷の痕が少し見えてるし。不審な点を上げ始めたら正直キリがない、こんな人が医者だなんて言われても普通信じられないと思う。
私も、昔からの付き合いがなければこの人が医者だなんて思わない。アブナイ人だと判断するよきっと。でも別に悪い人じゃないんだよね、見た目胡散臭いだけで。まあ、一癖二癖ある人ではあるけど。誤解は解いておかないと。
「……あのね、この人、私の主治医の木立先生。怪しい人じゃないの。だから、そんなに警戒しなくていいんだよ」
少し手を伸ばしておいでと呼んでみる。相変わらずしかめっ面ではあるけど、みんな近づいてきてはくれた。良かった。
「あは、キミには懐いてるんだねぇ、その猫ちゃんたち。ワタシ部屋に入るなり臨戦体制とられて噛みつかれたり引っかかれたりしちゃった」
「えっ」
「あぁでも、叱らないであげてよ。きっと不審人物から守ろうとしたんだから」
不審だって自覚はあるんですね。……じゃなくて。
――もし先生の言う通りだったなら、それは嬉しい。そう思ったら、ゆるゆると口角が上がっていくのが分かった。
「――それにしても、今までは確実に月一周期で来てた『発作』、今回はやけにずれ込んだね」
周期がずれたことに関しては、心当たりがあった。
「……忘れてたんです」
「ん?」
「ここ一か月、毎日楽しくて、発作のこと、忘れてたんです」
「そう……。 忘れるくらい楽しかったかぁ。それは何よりだよ。でも、結局発作は起きちゃったわけだ」
「……この前、夢を、みてしまったので」
「夢」
できれば二度と思い出したくなはいけど、先生には話さないわけにはいかない。
「家の中に、誰もいない夢……。 どこを探しても、全然見つからなくて……。飛び起きちゃったんです」
つつ……と目尻から涙が伝っていった。
「成程ね。今まで忘れていられたのに、それが引き金になっちゃったか」
木立先生は顎に手を当てて納得したように頷いていた。
「でもまぁ、今の話を聞く限りじゃ。発作はこの先、なくなっていきそうだね」
自分でもそう思わない? 優しく頭を撫でられながらそう聞かれて、少し驚いたけどその通りだと思った。それに発作が起きないのなら、それに越したことはない。
「医者として、保護者代理として。キミが元気になるのは嬉しいよ」
発作出にくくなったのは、きっとコマツたちのおかげだ。みんながいてくれるから、毎日楽しくて。みんながいてくれるから、忘れていられた。そもそもみんながいてくれるのなら、『病気』の原因はなくなるのだ。
今の生活がこのまま続くのなら、私にとってこれ以上望むことはないんだ。
涙を軽く拭って、コマツやトリコ、サニーたちを順々に撫でながら「体調が戻ったら驚かせたお詫びをしないと」と思った。
「大丈夫……」
みんなさえいてくれれば、私は大丈夫。
「……ダメだ、気持ち悪い……」
朝から超絶不調。なんだっけ、この感じ、知ってるぞ。
立っているとフラフラする。ああ、これは熱が出てるな。あと、吐き気と頭痛と倦怠感と……。寒気と、それから……。
孤独感。
……思い出した。これ『発作』だ。そう言えば最後に発作きたのっていつだっけ。すっかり忘れるくらいご無沙汰だったか。そっか、あれは予兆だったのか……。
鉛のように重たい身体をどうにか動かして、ケータイを手にソファに座り込んだ。勤務先の番号を探し出して、店長に今日は休ませて欲しいと電話を入れる。声から体調の悪さを察してくれたらしい店長は、すぐに承諾してくれた。
……よし、次……。
一つ長く息を吐いて、次の番号を探す。そして見つけた番号に呼び出しを掛けた時、急激に具合が悪くなった。
視界が霞み、身体に力が入らなくなった。私はそのまま倒れこみ、ケータイは手から滑り落ちた。ゴン、と床に落ちた音がした。壊れてなきゃいいけど。
――周りで聞こえる、慌てたような、焦ってるような、騒いでるような声って、誰のだっけ……。
薄く目を開けると、まず天井が見えた。次に視界の端にソファの背もたれが映った。ならここはリビングのソファの上か。そうか私あのまま気絶しちゃったのか。
「やぁ、お目覚め?」
人の声がして、そちらに視線を送ると、右目に眼帯をつけてマスクをした白衣姿の女性がダイニングチェアをソファの側に持ってきてそこに座って本を読んでいた。一見すると不審人物極まりないその人は、読んでいた本を閉じて私の額に触れた。
「うん、熱は下がったね。気分はどう? まだ悪い?」
それに首を軽く振って「いいえ」と答えた。
「あれほど定期的においでって言ったのに、ひと月待っても全然来ないから心配してたんだよ。キミからかかって来た電話に出ても猫の声がするだけで何も応答がないから、すぐに飛んで来たんだけどね。大事に至らなくて良かったよ」
「……すいません、お手数おかけして……」
「いいんだよ、キミが無事ならそれで。ところでね。ここに来た時からあの猫ちゃんたちに睨まれっぱなしなんだけど」
どうしたもんかね、と言って指さされた方を体と首を回して見ると、壁際に集まってるウチの猫たちがすごく不信がった顔をしていた。多分、この人から病院のにおいがするからじゃないのかなぁ。あと、この人自身が胡散臭いし。髪は伸ばしっぱなしだし、白衣の下はジーパンにTシャツだし、いつ見てもマスクしてるし、眼帯してる右目の周りは火傷の痕が少し見えてるし。不審な点を上げ始めたら正直キリがない、こんな人が医者だなんて言われても普通信じられないと思う。
私も、昔からの付き合いがなければこの人が医者だなんて思わない。アブナイ人だと判断するよきっと。でも別に悪い人じゃないんだよね、見た目胡散臭いだけで。まあ、一癖二癖ある人ではあるけど。誤解は解いておかないと。
「……あのね、この人、私の主治医の木立先生。怪しい人じゃないの。だから、そんなに警戒しなくていいんだよ」
少し手を伸ばしておいでと呼んでみる。相変わらずしかめっ面ではあるけど、みんな近づいてきてはくれた。良かった。
「あは、キミには懐いてるんだねぇ、その猫ちゃんたち。ワタシ部屋に入るなり臨戦体制とられて噛みつかれたり引っかかれたりしちゃった」
「えっ」
「あぁでも、叱らないであげてよ。きっと不審人物から守ろうとしたんだから」
不審だって自覚はあるんですね。……じゃなくて。
――もし先生の言う通りだったなら、それは嬉しい。そう思ったら、ゆるゆると口角が上がっていくのが分かった。
「――それにしても、今までは確実に月一周期で来てた『発作』、今回はやけにずれ込んだね」
周期がずれたことに関しては、心当たりがあった。
「……忘れてたんです」
「ん?」
「ここ一か月、毎日楽しくて、発作のこと、忘れてたんです」
「そう……。 忘れるくらい楽しかったかぁ。それは何よりだよ。でも、結局発作は起きちゃったわけだ」
「……この前、夢を、みてしまったので」
「夢」
できれば二度と思い出したくなはいけど、先生には話さないわけにはいかない。
「家の中に、誰もいない夢……。 どこを探しても、全然見つからなくて……。飛び起きちゃったんです」
つつ……と目尻から涙が伝っていった。
「成程ね。今まで忘れていられたのに、それが引き金になっちゃったか」
木立先生は顎に手を当てて納得したように頷いていた。
「でもまぁ、今の話を聞く限りじゃ。発作はこの先、なくなっていきそうだね」
自分でもそう思わない? 優しく頭を撫でられながらそう聞かれて、少し驚いたけどその通りだと思った。それに発作が起きないのなら、それに越したことはない。
「医者として、保護者代理として。キミが元気になるのは嬉しいよ」
発作出にくくなったのは、きっとコマツたちのおかげだ。みんながいてくれるから、毎日楽しくて。みんながいてくれるから、忘れていられた。そもそもみんながいてくれるのなら、『病気』の原因はなくなるのだ。
今の生活がこのまま続くのなら、私にとってこれ以上望むことはないんだ。
涙を軽く拭って、コマツやトリコ、サニーたちを順々に撫でながら「体調が戻ったら驚かせたお詫びをしないと」と思った。
「大丈夫……」
みんなさえいてくれれば、私は大丈夫。