怖くなりました
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その日は、翌日の出勤に備えて夜更かしせずに『いつものように』眠ったはずだった。
「―――っ‼」
恐怖のあまり、一気に意識を引き上げられた。心臓はバクバク鳴ってるし、まるで胃の中を掻き混ぜられたようで気持ち悪い。全身汗ばんでいて肌着が張り付く。目尻から雫が伝って、ああ、泣いてるんだと認識した。
夢。
そう、あれは夢だ。質の悪い、ただの夢。上半身を起こして、気持ちを落ち着けるべく腕を擦ってみるが全く効果はなかった。
殆ど闇に覆われた視界から、今がまだ夜中であることが分かった。その闇を見ていると夢の残像がちらつき、背筋が寒くなる。夢だ夢だと自分に言い聞かせても嗚咽が込み上げてくるだけ。
もしかして、夢と現実が入れ替わってしまったのではないか。そんな不安が頭を過る。
想像してゾッとした。あの暖かい日々こそ夢で、本当は、私は……。
堪らず部屋を飛び出した。しゃくり上げながら、足音を殺して階段を駆け下りた。一秒でも早く確認したかった。今すぐにでもあの温もりを確かめたかった。
震える手でリビングの戸をそっと開けた。中は当然暗く、そして静かだった。心臓は相変わらず五月蠅いくらいに鳴ってるし、呼吸も整わない。急に電気を点けるわけにもいかず窓から微かに入る月明かりを頼りに探した。
部屋の隅、寝床がある場所で微かに上下する影。それが1、2、3、4、5……。みんな、いる……。……よかったぁ……っ。
「……ふぅぅ……っ」
いる。ちゃんとここにいる。力が抜けてその場に座り込んだ。
ず、と一度鼻を啜る。止めようのない涙がボタボタ落ちてるけど、もういいや。『あっち』が夢だった。それだけで、十分……。
「…………」
暗闇の中の影が一つ動いた。不機嫌に喉を鳴らす音も聞こえる。これは多分ゼブラ。持ち前の鋭い聴覚が私が来る音を敏感に捉えて、目を覚ましてしまったんだろうか。
のそりと動いたゼブラは抗議でもしたいのか座り込んだ私のそばまでやってきた。
「ごめん、ゼブラ……。起こしちゃった、かな」
「…………」
どうやらこちらを見上げているらしいゼブラ。暗くてよく分からない。少しして、左肩によじ登ってきた。体が大きい割に俊敏な動きで登ってくるものだから、身構えることも間に合わなくてとっさに左腕が抑えようと動いた。でも結局、その腕は必要なくて、ゼブラは器用に私の左肩の上でバランスを取っていた。
何がしたいのだろうかと頭の中で疑問符を浮かべていると、ゼブラは後ろ足で立ち上がり、両前足を私の頭に乗せた。相応の勢いの付けられたその動作には『ベシッ』という効果音が適切と思われる。突然の頭頂部への衝撃に一瞬息が詰まった。けれどそれは、決して乱暴なものではなくて。私の頭に体を預けてくるゼブラの毛が頬や耳に当たってくすぐったい。それがなんだか心地よくて、行き場をなくして彷徨っていた左手でゼブラの背を撫でた。
ドクリドクリと力強い鼓動を聞いている内に、なんだかゼブラに慰められている気がしてきた。そう思ったら、また鼻の奥がつんとした。
「ふ……っ、う、ぇ……」
ダメだ、また泣いてしまう。ああ、まったく情けない。成人したのに、怖い夢を見て泣きじゃくるだなんて。
再びぼたぼた落ちてくる涙を拭うことも忘れて、私はゆるゆるとゼブラの毛を掴んでいた。今はこの感覚だけが、私を安心させてくれる。
ゼブラは静かに肩に乗り続けているけど、本当のところは迷惑だろう、きっと。だから早く泣き止んで、部屋に戻りたいのだけど、一向に涙が止まってくれない。どうしたらいいのか、いよいよ分からなくなってきた。
ぐしゅぐしゅ鼻を啜っているといつの間にか他のコたちも起きてしまったらしい。あーあ、安眠妨害するなんて酷い飼い主だね。
「ごめん、ね。うる、さいよね……」
横隔膜が痙攣していて言葉が途切れる。泣き過ぎだよ、私。
パジャマの袖で涙を拭ってみるけど、あまり意味がない。涙ってどうやって止めるんだっけ。あ、鼻水垂れてきた。ティッシュ欲しい。盛大に鼻を啜ってぼんやりそんなことを考えていたら、身体に何かがよじ登ってくる感覚。ああそっか、そうだよね。泣きじゃくってたらいくらなんでも気になるよね。触り心地から考えると、足の上によじ登ってきたのはコマツとトリコとサニー。……あれ?じゃあ今膝に触ってるのは……ココ?
「~~~~~~~っ」
感極まってみんなみんな抱きしめた。肩の上のゼブラも足の上のコマツもトリコもサニーも膝に前足乗せてるココも。みんないる。私の腕の中に、ちゃんといる。夢じゃない。幻なんかじゃない。妄想なんかじゃ、ない。今、現在、正真正銘、みんないる。
私はなんて愚かだろう。こうして一つ一つ、しっかり確認しないと不安を消せないなんて。ちゃんと、目の前に存在しているのに。
この温もりに触れるまで、いくら否定しても、疑念が消えなかった。本当は、姿を確認してもまだ、嫌な想像は消えてくれなかった。今見ているこれも、夢なんじゃないかって、心のどこかで思ってた。
でももう、これで分かったじゃないか。目が覚めたら、みんないるんだ。あの『夢』は、夢だった。だってあの『夢』で流した涙は、こんなにあたたかくはなかったもの。
「―――っ‼」
恐怖のあまり、一気に意識を引き上げられた。心臓はバクバク鳴ってるし、まるで胃の中を掻き混ぜられたようで気持ち悪い。全身汗ばんでいて肌着が張り付く。目尻から雫が伝って、ああ、泣いてるんだと認識した。
夢。
そう、あれは夢だ。質の悪い、ただの夢。上半身を起こして、気持ちを落ち着けるべく腕を擦ってみるが全く効果はなかった。
殆ど闇に覆われた視界から、今がまだ夜中であることが分かった。その闇を見ていると夢の残像がちらつき、背筋が寒くなる。夢だ夢だと自分に言い聞かせても嗚咽が込み上げてくるだけ。
もしかして、夢と現実が入れ替わってしまったのではないか。そんな不安が頭を過る。
想像してゾッとした。あの暖かい日々こそ夢で、本当は、私は……。
堪らず部屋を飛び出した。しゃくり上げながら、足音を殺して階段を駆け下りた。一秒でも早く確認したかった。今すぐにでもあの温もりを確かめたかった。
震える手でリビングの戸をそっと開けた。中は当然暗く、そして静かだった。心臓は相変わらず五月蠅いくらいに鳴ってるし、呼吸も整わない。急に電気を点けるわけにもいかず窓から微かに入る月明かりを頼りに探した。
部屋の隅、寝床がある場所で微かに上下する影。それが1、2、3、4、5……。みんな、いる……。……よかったぁ……っ。
「……ふぅぅ……っ」
いる。ちゃんとここにいる。力が抜けてその場に座り込んだ。
ず、と一度鼻を啜る。止めようのない涙がボタボタ落ちてるけど、もういいや。『あっち』が夢だった。それだけで、十分……。
「…………」
暗闇の中の影が一つ動いた。不機嫌に喉を鳴らす音も聞こえる。これは多分ゼブラ。持ち前の鋭い聴覚が私が来る音を敏感に捉えて、目を覚ましてしまったんだろうか。
のそりと動いたゼブラは抗議でもしたいのか座り込んだ私のそばまでやってきた。
「ごめん、ゼブラ……。起こしちゃった、かな」
「…………」
どうやらこちらを見上げているらしいゼブラ。暗くてよく分からない。少しして、左肩によじ登ってきた。体が大きい割に俊敏な動きで登ってくるものだから、身構えることも間に合わなくてとっさに左腕が抑えようと動いた。でも結局、その腕は必要なくて、ゼブラは器用に私の左肩の上でバランスを取っていた。
何がしたいのだろうかと頭の中で疑問符を浮かべていると、ゼブラは後ろ足で立ち上がり、両前足を私の頭に乗せた。相応の勢いの付けられたその動作には『ベシッ』という効果音が適切と思われる。突然の頭頂部への衝撃に一瞬息が詰まった。けれどそれは、決して乱暴なものではなくて。私の頭に体を預けてくるゼブラの毛が頬や耳に当たってくすぐったい。それがなんだか心地よくて、行き場をなくして彷徨っていた左手でゼブラの背を撫でた。
ドクリドクリと力強い鼓動を聞いている内に、なんだかゼブラに慰められている気がしてきた。そう思ったら、また鼻の奥がつんとした。
「ふ……っ、う、ぇ……」
ダメだ、また泣いてしまう。ああ、まったく情けない。成人したのに、怖い夢を見て泣きじゃくるだなんて。
再びぼたぼた落ちてくる涙を拭うことも忘れて、私はゆるゆるとゼブラの毛を掴んでいた。今はこの感覚だけが、私を安心させてくれる。
ゼブラは静かに肩に乗り続けているけど、本当のところは迷惑だろう、きっと。だから早く泣き止んで、部屋に戻りたいのだけど、一向に涙が止まってくれない。どうしたらいいのか、いよいよ分からなくなってきた。
ぐしゅぐしゅ鼻を啜っているといつの間にか他のコたちも起きてしまったらしい。あーあ、安眠妨害するなんて酷い飼い主だね。
「ごめん、ね。うる、さいよね……」
横隔膜が痙攣していて言葉が途切れる。泣き過ぎだよ、私。
パジャマの袖で涙を拭ってみるけど、あまり意味がない。涙ってどうやって止めるんだっけ。あ、鼻水垂れてきた。ティッシュ欲しい。盛大に鼻を啜ってぼんやりそんなことを考えていたら、身体に何かがよじ登ってくる感覚。ああそっか、そうだよね。泣きじゃくってたらいくらなんでも気になるよね。触り心地から考えると、足の上によじ登ってきたのはコマツとトリコとサニー。……あれ?じゃあ今膝に触ってるのは……ココ?
「~~~~~~~っ」
感極まってみんなみんな抱きしめた。肩の上のゼブラも足の上のコマツもトリコもサニーも膝に前足乗せてるココも。みんないる。私の腕の中に、ちゃんといる。夢じゃない。幻なんかじゃない。妄想なんかじゃ、ない。今、現在、正真正銘、みんないる。
私はなんて愚かだろう。こうして一つ一つ、しっかり確認しないと不安を消せないなんて。ちゃんと、目の前に存在しているのに。
この温もりに触れるまで、いくら否定しても、疑念が消えなかった。本当は、姿を確認してもまだ、嫌な想像は消えてくれなかった。今見ているこれも、夢なんじゃないかって、心のどこかで思ってた。
でももう、これで分かったじゃないか。目が覚めたら、みんないるんだ。あの『夢』は、夢だった。だってあの『夢』で流した涙は、こんなにあたたかくはなかったもの。