預けられました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いてて……っ」
「あ、ごめん沁みた?」
私は今傷の手当てを受けている。何で動物病院で自分が手当てを受けてるんだろうなんてこと、今は気にしない。傷自体は大したことないので、消毒して絆創膏貼って終わり。
傷は私の顔面にダイブしてきた猫君の後ろ足に引っ掻かれて付いたらしい。その猫君は今ケージに入れられている。すんごい機嫌悪そうなのがよく分かる。危うくあのモフモフの腹毛で窒息しそうになったことは、とりあえず置いておこう。
「いやぁ~、ホントごめん。女の子の顔に傷つけちゃうなんてさ」
「いえ、大丈夫です。大した傷じゃないですし。――ずいぶん、元気がいいようで」
「そーなんだよ。元気有り余っててオレたちの言うことなんて聞きやしなくて。暴れられちゃってこの有り様」
今居る処置室の中を見回せば、一体どれほどの騒ぎだったのかが簡単に想像できる。あの猫君は相当跳ねまわったと思われる。
「散々暴れた上に逃げようとしてさぁ。君がいてくれて助かったよ、マジで」
私はストッパーだったわけですか、そうですか。
「ほらゼブラ、ちゃんと謝れって」
「………………」
ゼブラという名前らしい猫君は先生を睨み付けプイっとそっぽを向いてしまった。
「……嫌われてるんですか?」
「ははっ。そーなんだわこれが。オレってば盛大に嫌われちゃってさ。おかげで何するにも大仕事なんだよねぇ―――――――――」
長くなりそうな先生の話を右から左へ聞き流して、不機嫌な背中をしている猫君を観察してみる。体はかなり大きい。トリコよりももう一回り大きいかも。……首の骨折れなくて良かった。毛は赤っぽくて長いけど、長さはバラバラ。手入れはあんまりされてない感じ。あと、全身傷だらけ。相当やんちゃみたいだね。――……あ。左側の口の端に縫い目がある……。痛くないのかな……。
それにしても、何でゼブラって名前なんだろう。猫なのに。体の模様も、傷も含めてどっちかっていえば虎っぽい。変わってるなぁ。
「なんでゼブラって名前なんだろうって、思ってる?」
「貴方エスパー? ……すいません、思いました」
「あはは。正直だねぇ。まぁ、あいつの名前は、あいつ自身の名前だから。あんまり気にしないでやってくれる?」
「? はぁ、分かりました……?」
先生の言い回しに若干の違和感を覚えながらも、それ以上追及するつもりもなかったので、流した。
「ところで、今日の用事は?」
「あ、そうだった。買い物に来たんですけど、お店の方に誰もいないからこっち覗いたんでした」
「そりゃ悪かったねぇ。お詫びと言っちゃなんだけど、ちょっと値引きしてあげよう」
「やった。ありがとうございます」
ちょっとえさ代が並じゃなかったからすっごくありがたい。
「君んちの猫たちは元気?」
「ええ、毎日元気に遊んでますよ。つい先日、もう一匹増えたんですけどね」
「また? よっぽど好かれてるんだねぇ」
「そーなんですかねぇ。コマツたちは触らせてくれるんですけど、その新顔のココは触られるの嫌いみたいで」
ガシャァンッ
「っ⁉」
「あーらら」
ビックリしたぁ。ゼブラがケージの柵に体当たりしたらしい。急にどうしたの。
「大丈夫大丈夫。あんまり気にしなくていいよ。あいつが勝手に反応してるだけだから」
「……え、そう、ですか……?」
なんか、すんごい食い付いてきてるように見えるんですけど。私なんか変なこと言ったかな。
「―――そうだっ」
先生はいいこと思いついた! とばかりにパチンと指を鳴らした。
「あいつ、君んとこで預かってもらえない?」
「え?」
「いやぁ、一応名目上オレが保護してることになってるんだけどさ、あんな感じだろ? うちの設備もいくつかやられちまってるし、かといって外に出すわけにもいかないし。あいつも君んちが気になるみたいだし、預かってくれると助かるんだけど」
……何言ってんの?この人。今の話を聞く限り、『獣医でも手におえないやんちゃ猫を一般人に押し付ける』みたいな感じだよね。とんでもないこと言い出すな。
……別に、今更もう一匹増えたところで大した影響はないだろうけど、心配なことはある。
「預かるのは別にいいんですけど、今家にいる猫たちも個性が強いので、反発しないか心配です。喧嘩とかされると、私止める自信ないです」
「その辺はたぶん大丈夫。そこまで深刻な喧嘩はしないと思うよ。ね、ゼブラ」
「………………」
睨んでる睨んでる。よっぽど先生のこと嫌いなんだな。
「――分かりました。とりあえず様子も見てみないと決められませんけど……。あとはホンニンさえよければ。」
ケージの側でしゃがんで、聞いてみる。
「ウチにくる?」
「…………」
訝しげにこちらを見上げてくるが、威嚇される様子はない。耳がぴょこぴょこ動いてるのが可愛いな。反応を待っていると、ケージをガジガジ噛み始めた。それはもう、噛み切らんとする勢いで。……この子の行動、ちょっとビックリする。
「行きたいってさー。もうちょっと分かりやすい返事すればいいのに」
あ、今のそういう意思表示だったんだ。ただ外に出たいのかと思った。
「じゃ、交渉成立ってことで。注意事項説明するねー」
のんきなことを言いながら、多分連れて帰るようであろうキャリーをいそいそと用意し始める先生。完全に私に丸投げする気だよね、あれ。
「よく食べるから、量は多めで。でもほっとくと際限なく食べるから気を付けて。心配してる相性と喧嘩の件だけど、そんなに気にしなくて大丈夫だ。 コマツ君とは絶対しないだろうし、ほかも、深刻な怪我するほどの喧嘩はしないはずだから。な、ゼブラ。」
「…………」
この子は、“無言は肯定”タイプだろうか。分っかんないなぁ。
「あとは、そうだな、偽りなく、素直に、正直に接してやってくれ」
「? なんですかそれ」
「――というか、こいつ嘘が嫌いでねぇ。嘘ついた相手には噛みついたり引っ掻いたりするんだよね、それも容赦なく。 まぁ、気に入らない相手にもするんだけど。おかげでオレの腕は生傷だらけ」
ほら、と袖を捲って見せてくれた腕には新しい引っ掻き傷やら噛まれた跡が無数にあった。
「それと、特別耳がいいからあんまり大きな音も嫌いだよな? ――隠し事もしない方がいいねぇ、ばれるし。それも『嘘』だと判断されたら面倒だし。ま、君なら大丈夫だと思うけど。あいつ、あれで以外に優しいからさ」
最後の方は、ぼそぼそと耳打ちされた。多分近くに居ても意識しなきゃ聞こえないレベル。
「ヴヴヴヴ――――ッ」
「ほら、余計なこと言うなって怒ってる」
最後の一言が気に入らなかったらしく、こちらに向けて唸り声を上げるゼブラ。聞こえたんだ、ホントに耳良いんだね。それとも態度が気に入らないパターンかな。……もしくは両方か。なるほど、素直ではないけど悪い子ではなさそうだ。
「大体なんとなく分かりました。……あの、ただ純粋な興味なんですけど、一つ聞いていいですか?」
「ん? 何?」
「何でこの子だけ、ここで保護してるんです? 他にはそういう子、いませんよね」
「………………」
……え、何、何で急に黙るの。
「えっと、あの……」
「口は禍の元だ」
「……はぁ。」
急に真面目な顔になった。つまるところ、答える気はないってことかな。
「口が裂けても言えないことだってあるわけで。 けどそこを端折っちゃうと意味わかんない話になるしだからって話せないし。つまり今オレの口からは何も言えないってことで。いつかなんか流れ的になんとなくわかる日が来るんじゃないのかな。まぁオレがここで保護してたのは古い知り合いに頼まれてってか脅されて?」
結局喋ったよこの人。しかも一息で。理由もなんか物騒だった。私このまま預かっていいのかな、すごく心配。もう生暖かい視線を向けるしかできない。いろんな意味で。
ふとゼブラの方を見ると、心底呆れたような目で先生を見ていた。その様子に苦笑しながらあの子が家に来た場合を想像してみた。不思議と、悪いイメージは湧いてこなかった。
「あ、ごめん沁みた?」
私は今傷の手当てを受けている。何で動物病院で自分が手当てを受けてるんだろうなんてこと、今は気にしない。傷自体は大したことないので、消毒して絆創膏貼って終わり。
傷は私の顔面にダイブしてきた猫君の後ろ足に引っ掻かれて付いたらしい。その猫君は今ケージに入れられている。すんごい機嫌悪そうなのがよく分かる。危うくあのモフモフの腹毛で窒息しそうになったことは、とりあえず置いておこう。
「いやぁ~、ホントごめん。女の子の顔に傷つけちゃうなんてさ」
「いえ、大丈夫です。大した傷じゃないですし。――ずいぶん、元気がいいようで」
「そーなんだよ。元気有り余っててオレたちの言うことなんて聞きやしなくて。暴れられちゃってこの有り様」
今居る処置室の中を見回せば、一体どれほどの騒ぎだったのかが簡単に想像できる。あの猫君は相当跳ねまわったと思われる。
「散々暴れた上に逃げようとしてさぁ。君がいてくれて助かったよ、マジで」
私はストッパーだったわけですか、そうですか。
「ほらゼブラ、ちゃんと謝れって」
「………………」
ゼブラという名前らしい猫君は先生を睨み付けプイっとそっぽを向いてしまった。
「……嫌われてるんですか?」
「ははっ。そーなんだわこれが。オレってば盛大に嫌われちゃってさ。おかげで何するにも大仕事なんだよねぇ―――――――――」
長くなりそうな先生の話を右から左へ聞き流して、不機嫌な背中をしている猫君を観察してみる。体はかなり大きい。トリコよりももう一回り大きいかも。……首の骨折れなくて良かった。毛は赤っぽくて長いけど、長さはバラバラ。手入れはあんまりされてない感じ。あと、全身傷だらけ。相当やんちゃみたいだね。――……あ。左側の口の端に縫い目がある……。痛くないのかな……。
それにしても、何でゼブラって名前なんだろう。猫なのに。体の模様も、傷も含めてどっちかっていえば虎っぽい。変わってるなぁ。
「なんでゼブラって名前なんだろうって、思ってる?」
「貴方エスパー? ……すいません、思いました」
「あはは。正直だねぇ。まぁ、あいつの名前は、あいつ自身の名前だから。あんまり気にしないでやってくれる?」
「? はぁ、分かりました……?」
先生の言い回しに若干の違和感を覚えながらも、それ以上追及するつもりもなかったので、流した。
「ところで、今日の用事は?」
「あ、そうだった。買い物に来たんですけど、お店の方に誰もいないからこっち覗いたんでした」
「そりゃ悪かったねぇ。お詫びと言っちゃなんだけど、ちょっと値引きしてあげよう」
「やった。ありがとうございます」
ちょっとえさ代が並じゃなかったからすっごくありがたい。
「君んちの猫たちは元気?」
「ええ、毎日元気に遊んでますよ。つい先日、もう一匹増えたんですけどね」
「また? よっぽど好かれてるんだねぇ」
「そーなんですかねぇ。コマツたちは触らせてくれるんですけど、その新顔のココは触られるの嫌いみたいで」
ガシャァンッ
「っ⁉」
「あーらら」
ビックリしたぁ。ゼブラがケージの柵に体当たりしたらしい。急にどうしたの。
「大丈夫大丈夫。あんまり気にしなくていいよ。あいつが勝手に反応してるだけだから」
「……え、そう、ですか……?」
なんか、すんごい食い付いてきてるように見えるんですけど。私なんか変なこと言ったかな。
「―――そうだっ」
先生はいいこと思いついた! とばかりにパチンと指を鳴らした。
「あいつ、君んとこで預かってもらえない?」
「え?」
「いやぁ、一応名目上オレが保護してることになってるんだけどさ、あんな感じだろ? うちの設備もいくつかやられちまってるし、かといって外に出すわけにもいかないし。あいつも君んちが気になるみたいだし、預かってくれると助かるんだけど」
……何言ってんの?この人。今の話を聞く限り、『獣医でも手におえないやんちゃ猫を一般人に押し付ける』みたいな感じだよね。とんでもないこと言い出すな。
……別に、今更もう一匹増えたところで大した影響はないだろうけど、心配なことはある。
「預かるのは別にいいんですけど、今家にいる猫たちも個性が強いので、反発しないか心配です。喧嘩とかされると、私止める自信ないです」
「その辺はたぶん大丈夫。そこまで深刻な喧嘩はしないと思うよ。ね、ゼブラ」
「………………」
睨んでる睨んでる。よっぽど先生のこと嫌いなんだな。
「――分かりました。とりあえず様子も見てみないと決められませんけど……。あとはホンニンさえよければ。」
ケージの側でしゃがんで、聞いてみる。
「ウチにくる?」
「…………」
訝しげにこちらを見上げてくるが、威嚇される様子はない。耳がぴょこぴょこ動いてるのが可愛いな。反応を待っていると、ケージをガジガジ噛み始めた。それはもう、噛み切らんとする勢いで。……この子の行動、ちょっとビックリする。
「行きたいってさー。もうちょっと分かりやすい返事すればいいのに」
あ、今のそういう意思表示だったんだ。ただ外に出たいのかと思った。
「じゃ、交渉成立ってことで。注意事項説明するねー」
のんきなことを言いながら、多分連れて帰るようであろうキャリーをいそいそと用意し始める先生。完全に私に丸投げする気だよね、あれ。
「よく食べるから、量は多めで。でもほっとくと際限なく食べるから気を付けて。心配してる相性と喧嘩の件だけど、そんなに気にしなくて大丈夫だ。 コマツ君とは絶対しないだろうし、ほかも、深刻な怪我するほどの喧嘩はしないはずだから。な、ゼブラ。」
「…………」
この子は、“無言は肯定”タイプだろうか。分っかんないなぁ。
「あとは、そうだな、偽りなく、素直に、正直に接してやってくれ」
「? なんですかそれ」
「――というか、こいつ嘘が嫌いでねぇ。嘘ついた相手には噛みついたり引っ掻いたりするんだよね、それも容赦なく。 まぁ、気に入らない相手にもするんだけど。おかげでオレの腕は生傷だらけ」
ほら、と袖を捲って見せてくれた腕には新しい引っ掻き傷やら噛まれた跡が無数にあった。
「それと、特別耳がいいからあんまり大きな音も嫌いだよな? ――隠し事もしない方がいいねぇ、ばれるし。それも『嘘』だと判断されたら面倒だし。ま、君なら大丈夫だと思うけど。あいつ、あれで以外に優しいからさ」
最後の方は、ぼそぼそと耳打ちされた。多分近くに居ても意識しなきゃ聞こえないレベル。
「ヴヴヴヴ――――ッ」
「ほら、余計なこと言うなって怒ってる」
最後の一言が気に入らなかったらしく、こちらに向けて唸り声を上げるゼブラ。聞こえたんだ、ホントに耳良いんだね。それとも態度が気に入らないパターンかな。……もしくは両方か。なるほど、素直ではないけど悪い子ではなさそうだ。
「大体なんとなく分かりました。……あの、ただ純粋な興味なんですけど、一つ聞いていいですか?」
「ん? 何?」
「何でこの子だけ、ここで保護してるんです? 他にはそういう子、いませんよね」
「………………」
……え、何、何で急に黙るの。
「えっと、あの……」
「口は禍の元だ」
「……はぁ。」
急に真面目な顔になった。つまるところ、答える気はないってことかな。
「口が裂けても言えないことだってあるわけで。 けどそこを端折っちゃうと意味わかんない話になるしだからって話せないし。つまり今オレの口からは何も言えないってことで。いつかなんか流れ的になんとなくわかる日が来るんじゃないのかな。まぁオレがここで保護してたのは古い知り合いに頼まれてってか脅されて?」
結局喋ったよこの人。しかも一息で。理由もなんか物騒だった。私このまま預かっていいのかな、すごく心配。もう生暖かい視線を向けるしかできない。いろんな意味で。
ふとゼブラの方を見ると、心底呆れたような目で先生を見ていた。その様子に苦笑しながらあの子が家に来た場合を想像してみた。不思議と、悪いイメージは湧いてこなかった。