黒猫君との距離がちょっと縮まってから一夜明け、このままさらに仲良くなりたいところだが残念。今日も仕事があるのです。でもいいもんね、帰ってきたら遊んでやるんだから。
　などとひとり意気込んで部屋を出たら廊下にいた黒猫君と遭遇。早起きだねー、なんて声をかけたらばっちり目が合った。また距離とられちゃうかとも思ったけど、そんな様子もないし、意を決して抱っこしてみた。抱っこというよりは、持ち上げる、の方が表現的に正しいかも。まあとにかく、めちゃくちゃ緊張してるみたいで筋肉強張ってたけど、成功した。また一歩前進した気がして、朝からテンション上がるわ！
　黒猫君を抱っこしながら、今後のことを考えた。仮に、この子がこれからもウチに居てくれるのなら、名前を考えなければならない。サニーの時のように太腿の上で足踏みされたら溜まったもんじゃない。軽くトラウマになってる。だからってわけじゃないけど、この子の意志を確認したかった。この子も漏れなく、こちらの言葉は分かっていると思う。それに、何がよくて何が悪いのかも、きっと分かってる。昨日の様子を見ていて、それらはほぼ確信していた。
「―――ねぇ、」
　呼びかけると、パッとこっちを見た。やっぱり、呼ばれたって分かるんだ。
「キミは、ウチに居てくれるの？」
「……」
「別にね、無理やり閉じ込めたりする気はないんだ。キミが他へ行きたいなら、もちろん行ってもらって構わないんだけど。でも個人的には、居てくれると、嬉しいかな。　―――ここに、居て欲しいと思ってる」
「！」
「――んっ⁉」
　腕の中でじっとしていた黒猫君が、急に体を伸ばした。前脚を私の肩の下にかけて、じぃっと顔を覗いてくる。なんだなんだ。どうしたの。不思議そうな顔してこっちを見る黒猫君。別に変なこと言ってないと思うんだけど。昨日も似たようなこと言ったよ。でも明らかに、今言ったことに反応してるよね。今私なんて言った？
　　ここに、居て欲しいと思ってる
　……これか？　何でこれに反応して……。…………。まさか、此処(指示語)→ここ→ココ(なんか固有名詞)だと思った？　自分の名前呼ばれたと思ったの？　え、いやまさかそんなこと……。あ、もしかして前に誰かにそう呼ばれたことがあるとか、そういう感じ？　だったらあり得るかも。
「……ココ？」
「！　にゃー」
　試しに名前として呼んでみた。案の定返事のようなものが返ってきた。
「名前、ココがいいの？」
「にゃー」
　再度確認しても、同じような返事が来る。
　ココ、ココか……。
　黒猫君を見ながら頭の中で復唱してみる。うん、音の響きがこの子に合ってる気がする。ホンニンもいいって言ってるみたいだし。
「それじゃあ、今日からキミの名前はココだよ」
「にゃー」
　ココは一度だけだけど、頭を擦り付けてきた。おお……！　これは心を開いてくれてるととってもいいかな、いいよね！
「好きなだけ、ウチに居るといいよ」
　よろしくねー、なんて声をかけると、ココはまたにゃーと返事をしてくれた。