Chapter.0
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部屋の景色が歪み、裂け、その穴から『あいつら』が現れた。
「うっそだろ⁉」
顔が引きつり眉間に皺が寄る。
ただ純粋に怖かった。こんなに展開が早いなんて思わなかった。何でこんなことになっているのか全く理解できない。意味が分からない。それに、あの武器には毒が塗ってある可能性があるとつい先ほど読んだばかりだ。あちらの目的は不明だが、穏便な話し合いなどではないことくらいは分かる。少し掠っただけでも無事では済まない。しかも、出てきた『あいつら』は一人や二人ではない。ああもう、夢なら今すぐさめて欲しい……!
「フーッ」
タオが全身の毛を逆立てて威嚇している。一瞬、頭が冷えた。
「タオ! こっち来い‼」
腕に飛び込んできたタオを抱えて部屋を飛び出した。もう夢だろうが現実だろうが、どっちでもいい。大事な家族を巻き込まれてたまるか。
このまま丸腰でもやられるだけだ。武器がいる。それも、相手の武器に劣らないだけのものが。これが一般家庭なら、そうはいかなかっただろう。だが我が家には、それに足るだけのものがある。
真剣ならば何振りもある。そして当然のことだが、その管理は厳重だ。ただ一振りだけ、すぐに手に取れる刀がある。我が家の家宝、その名を『花月』。聞くところによると妖刀、らしい。なんでも持ち主を選ぶとかで、花月に認められていない者が抜くとその場でサヨウナラ。直近の継承者は父さんらしいけど、もういない。だから今の持ち主は繰り上がって先代継承者の爺さま。でも、その爺様も今は不在。
その主不在の刀が、奥の部屋にある。何故その刀だけそんな扱いをしているのか不明だが、今はその緩さがありがたい。この状況では花月に賭けるしかない。気に入られなければ死んでしまうのだとしても、無抵抗のままやられてしまうよりずっといい。その前に一太刀でも浴びせられれば御の字。可能性がゼロでないなら、それで十分だ。
階段を駆け下り、廊下の角を滑るように曲がり、花月が置かれている筈の部屋の襖をその勢いのまま開けた。
子供の頃、妖刀と言われている花月に近づくことは許されなかった。間近で見たこともなかった。だから知らなかった。
「――……これが、『花月』……」
床の間に納められていた花月は、一目で『特別だ』と解る程だった。部屋の空気はピンと張っていて、入るのを躊躇うほど圧倒された。けれどそれは決して威圧的なものではなく、温かく、また、招かれているようにも感じる。
恐る恐る花月を手に取る。流石真剣。ズシリと手に伝わる感触。酷く重く感じた。この重さは、覚悟。簡単に他の命を奪うことのできるこれを抜く覚悟の重さだと思った。
迷う暇はない。これを抜けば、おそらく文字通り全てが決まるだろう。そう思うと、手が震えた。この刃を向けようとしている相手は、藁で出来た木偶ではない。自分の判断が、行動が、正しいかなんて分からない。それを考える時間すらないのだ。
「……タオ。お前はどこかに隠れてなさい。もし、あいつらに勝てそうもなかったら、お前だけでも逃げなさいね」
足元に座りじっとこちらを見上げるタオにそう言った。賢いタオのことだ、きっとこの言葉の意味も分かってくれるはず。
これから背負うことになるかもしれない責に腹を括り、柄と鞘を握った。
――どうか戦う力を貸して欲しい。無様にやられるなんて御免だから、だから。……頼む。
奴らが部屋に雪崩れ込んできたと同時に、花月を鞘から抜き放った。
「うっそだろ⁉」
顔が引きつり眉間に皺が寄る。
ただ純粋に怖かった。こんなに展開が早いなんて思わなかった。何でこんなことになっているのか全く理解できない。意味が分からない。それに、あの武器には毒が塗ってある可能性があるとつい先ほど読んだばかりだ。あちらの目的は不明だが、穏便な話し合いなどではないことくらいは分かる。少し掠っただけでも無事では済まない。しかも、出てきた『あいつら』は一人や二人ではない。ああもう、夢なら今すぐさめて欲しい……!
「フーッ」
タオが全身の毛を逆立てて威嚇している。一瞬、頭が冷えた。
「タオ! こっち来い‼」
腕に飛び込んできたタオを抱えて部屋を飛び出した。もう夢だろうが現実だろうが、どっちでもいい。大事な家族を巻き込まれてたまるか。
このまま丸腰でもやられるだけだ。武器がいる。それも、相手の武器に劣らないだけのものが。これが一般家庭なら、そうはいかなかっただろう。だが我が家には、それに足るだけのものがある。
真剣ならば何振りもある。そして当然のことだが、その管理は厳重だ。ただ一振りだけ、すぐに手に取れる刀がある。我が家の家宝、その名を『花月』。聞くところによると妖刀、らしい。なんでも持ち主を選ぶとかで、花月に認められていない者が抜くとその場でサヨウナラ。直近の継承者は父さんらしいけど、もういない。だから今の持ち主は繰り上がって先代継承者の爺さま。でも、その爺様も今は不在。
その主不在の刀が、奥の部屋にある。何故その刀だけそんな扱いをしているのか不明だが、今はその緩さがありがたい。この状況では花月に賭けるしかない。気に入られなければ死んでしまうのだとしても、無抵抗のままやられてしまうよりずっといい。その前に一太刀でも浴びせられれば御の字。可能性がゼロでないなら、それで十分だ。
階段を駆け下り、廊下の角を滑るように曲がり、花月が置かれている筈の部屋の襖をその勢いのまま開けた。
子供の頃、妖刀と言われている花月に近づくことは許されなかった。間近で見たこともなかった。だから知らなかった。
「――……これが、『花月』……」
床の間に納められていた花月は、一目で『特別だ』と解る程だった。部屋の空気はピンと張っていて、入るのを躊躇うほど圧倒された。けれどそれは決して威圧的なものではなく、温かく、また、招かれているようにも感じる。
恐る恐る花月を手に取る。流石真剣。ズシリと手に伝わる感触。酷く重く感じた。この重さは、覚悟。簡単に他の命を奪うことのできるこれを抜く覚悟の重さだと思った。
迷う暇はない。これを抜けば、おそらく文字通り全てが決まるだろう。そう思うと、手が震えた。この刃を向けようとしている相手は、藁で出来た木偶ではない。自分の判断が、行動が、正しいかなんて分からない。それを考える時間すらないのだ。
「……タオ。お前はどこかに隠れてなさい。もし、あいつらに勝てそうもなかったら、お前だけでも逃げなさいね」
足元に座りじっとこちらを見上げるタオにそう言った。賢いタオのことだ、きっとこの言葉の意味も分かってくれるはず。
これから背負うことになるかもしれない責に腹を括り、柄と鞘を握った。
――どうか戦う力を貸して欲しい。無様にやられるなんて御免だから、だから。……頼む。
奴らが部屋に雪崩れ込んできたと同時に、花月を鞘から抜き放った。