Chapter.0
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気が付けば、随分渡時間が経っていたらしい。ふと気づいて窓に目をやると、外はすっかり暗くなってしまっていた。読み終えたコミック二十冊が積み上がり、うっかり崩してしまいそうだ。タオは変わらず足の上に居たが、どうやら寝ていたらしい。もぞりと身じろいでこっちを見上げてきた。
時間を忘れて何かに没頭するなんて、何時ぶりだろう。久しぶりのせいか、疲労感がある。でもそれは、嫌なものではなくて。
ああ、やっぱり好きだ。
改めて自覚する。影を潜めていた感情がぶり返してきた。解っている、頭では。ただ、これだけはどうしようもないのだ。他のどの作品やキャラクターを見ても、こうはならない。かっこいい、かわいい、すきだな、と思うだけ。ドラマや映画を観るのと変わらない。
なのに、どうして『彼』だけは……。実在などしないのだと思うと、苦しくて、哀しくなる。
胸が痛い。
ズクズクとこみ上げてくる鈍い痛みが気持ち悪い。ありえない、気のせいだと自分に言い聞かせて思考から遠ざける。そしてまた、自己嫌悪するのだ。
「にゃぁーぉ」
ハッとして視線を落とすと、タオが身体を伸ばして鼻先を顔に近付けてくるところだった。ひくひくと動くヒゲが頬を掠め、鼻をぴとりと押し付けられる。
「ん、くすぐったいって」
思わず笑いながらタオの背中を撫でる。
時々、こちらの感情を読み取っているような行動をするタオに驚く。落ち込んでいれば今のように慰めるような行動を、悩んでいればぴたりと寄り添って話を聞いてくれる。
「……うん、大丈夫だから」
大丈夫。こうやって、タオが引き戻してくれるから。
「夕飯の用意しようかな」
漫画を巻数通りに本棚へ戻す。薄く埃の積もった棚板を軽く払った。全てを仕舞い終わり、台所へ行こうと振り向いた。
「…………あ?」
振り向いた視界にあったのは、そこにあるはずのないもので。
「なんで…?」
室内に浮かぶ物体。白くてふわふわしていて、ピンクの模様が入っている。そのデザインには、見覚えがある。
「なんで……サクラの羽根……?」
嘘だ、あり得ない。あるはずがない。アレがここに在るわけがない。だって、だってコレが存在したら……。
十数枚はある『記憶のカケラ』。重力に逆らって空間に浮いているそれに、無意識に手が伸びた。思考が追い付かない。心臓が騒がしい。あり得ない考えが頭を駆け抜ける。不安と期待で震える手が、羽根の一枚に触れた瞬間、羽根が強く発光した。
「っ⁉」
部屋にあった全ての羽根がこちらに向かって一斉に飛んできた。あまりに突然のことで避けることもできず、咄嗟に顔を庇うのが精一杯だった。何が起きたのか認識できないまま恐る恐る目を開けた時、部屋の中に羽根は一枚も無かった。
幻覚。白昼夢。ただの気のせい。それで良かったはずなのに、頭の中に浮かんだ答えはそれではなかった。
羽根を、躰に取り込んでしまった。
何の証拠もない。そんな実感もない。なのに、それだけが妙に確信的だった。
「……こ、れ……。マズ、イんじゃないか……? 仮に、仮にこれが本物だとして、サクラのモノなわけで、それも記憶で、その上あの数だぞ? 一つであれなのに。え? どうするの? ……狙われる? てか何で体に入った⁉」
状況を整理すればするほど冷静でいられなくなった。一度深呼吸して、試しに頬を思い切り抓ってみた。これが現実であると伝えてきた痛みは心にも突き刺さった。
「な、んで……。それじゃぁ……」
脳のキャパシティが限界寸前の中、どうにかして冷静になろうとしていた、その時。
ぐにゃり。
と空間が歪んだ。
時間を忘れて何かに没頭するなんて、何時ぶりだろう。久しぶりのせいか、疲労感がある。でもそれは、嫌なものではなくて。
ああ、やっぱり好きだ。
改めて自覚する。影を潜めていた感情がぶり返してきた。解っている、頭では。ただ、これだけはどうしようもないのだ。他のどの作品やキャラクターを見ても、こうはならない。かっこいい、かわいい、すきだな、と思うだけ。ドラマや映画を観るのと変わらない。
なのに、どうして『彼』だけは……。実在などしないのだと思うと、苦しくて、哀しくなる。
胸が痛い。
ズクズクとこみ上げてくる鈍い痛みが気持ち悪い。ありえない、気のせいだと自分に言い聞かせて思考から遠ざける。そしてまた、自己嫌悪するのだ。
「にゃぁーぉ」
ハッとして視線を落とすと、タオが身体を伸ばして鼻先を顔に近付けてくるところだった。ひくひくと動くヒゲが頬を掠め、鼻をぴとりと押し付けられる。
「ん、くすぐったいって」
思わず笑いながらタオの背中を撫でる。
時々、こちらの感情を読み取っているような行動をするタオに驚く。落ち込んでいれば今のように慰めるような行動を、悩んでいればぴたりと寄り添って話を聞いてくれる。
「……うん、大丈夫だから」
大丈夫。こうやって、タオが引き戻してくれるから。
「夕飯の用意しようかな」
漫画を巻数通りに本棚へ戻す。薄く埃の積もった棚板を軽く払った。全てを仕舞い終わり、台所へ行こうと振り向いた。
「…………あ?」
振り向いた視界にあったのは、そこにあるはずのないもので。
「なんで…?」
室内に浮かぶ物体。白くてふわふわしていて、ピンクの模様が入っている。そのデザインには、見覚えがある。
「なんで……サクラの羽根……?」
嘘だ、あり得ない。あるはずがない。アレがここに在るわけがない。だって、だってコレが存在したら……。
十数枚はある『記憶のカケラ』。重力に逆らって空間に浮いているそれに、無意識に手が伸びた。思考が追い付かない。心臓が騒がしい。あり得ない考えが頭を駆け抜ける。不安と期待で震える手が、羽根の一枚に触れた瞬間、羽根が強く発光した。
「っ⁉」
部屋にあった全ての羽根がこちらに向かって一斉に飛んできた。あまりに突然のことで避けることもできず、咄嗟に顔を庇うのが精一杯だった。何が起きたのか認識できないまま恐る恐る目を開けた時、部屋の中に羽根は一枚も無かった。
幻覚。白昼夢。ただの気のせい。それで良かったはずなのに、頭の中に浮かんだ答えはそれではなかった。
羽根を、躰に取り込んでしまった。
何の証拠もない。そんな実感もない。なのに、それだけが妙に確信的だった。
「……こ、れ……。マズ、イんじゃないか……? 仮に、仮にこれが本物だとして、サクラのモノなわけで、それも記憶で、その上あの数だぞ? 一つであれなのに。え? どうするの? ……狙われる? てか何で体に入った⁉」
状況を整理すればするほど冷静でいられなくなった。一度深呼吸して、試しに頬を思い切り抓ってみた。これが現実であると伝えてきた痛みは心にも突き刺さった。
「な、んで……。それじゃぁ……」
脳のキャパシティが限界寸前の中、どうにかして冷静になろうとしていた、その時。
ぐにゃり。
と空間が歪んだ。