Chapter.2
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若干の鼻を啜る音と共に巧断が現れた。尾を含めた全長が大人五、六人分はありそうな大型の巧断だった。
「(なんだっけこれ。カブトガニだっけ、カブトエビだっけ。……あ、カニか)」
蘭は冷静に巧断の形状を観察していた。彼女の言うようにカブトガニに酷似した姿をしているが、腹部の構造が異なっていたことは幸いだった。
彼女の傍ではファイとモコナが「でっかいね――」と見たままの感想を述べていた。
〝……美味そうだな〟
先程までとは違う意味で鋭い視線を向けるタオがぼそりと呟いた。その瞳はキラキラと輝いている。
「は⁉ やめてよ?」
なかなかに恐ろしいこと言うタオを蘭は真剣に止めに入る。
「おれはそんなつもりはありません!」
小狼は誤解を解こうと声を上げるが、巧断は彼らに向けて尾を鞭のようにしならせながら回転し、背後の太い柱を抉った。遠巻きに様子を見ていた人々も慌てて逃げだした。
「小狼、話そうとしても無駄っぽいよ」
最も近くに居た小狼と蘭は咄嗟に身を屈め難を逃れた。辺りに粉塵が舞う。
「聞く耳持たないって感じだね」
好戦的な相手に、笑んだ表情のまま身構えたファイを、黒鋼が手で制した。
「ちょっと退屈してたんだよ。俺が相手してやらぁ」
楽しそうに笑みを浮かべながら小狼の前に出た。
「(……ひゅーぅ)」
「黒鋼、さっきまで楽しんでた――。退屈なんてしてないしてない」
「満喫してたよねぇ、阪神共和国を」
「うるせぇぞそこ!」
茶々を入れられた黒鋼がファイとモコナに吼える。事実、彼はつい先程までショーウィンドウを覗いたりと退屈そうには見えなかったので致し方ない。
「けど黒鋼さん、刀をあの人に……」
彼の刀は次元の魔女へ対価として差し出された。あの攻撃的な巧断と丸腰で対峙することになる。
「ありゃ破魔刀だ。特別のな。俺がいた日本国にいる魔物を切るにゃ必要だが、巧断は『魔物』じゃねぇだろ」
『魔物』でないならば、『破魔刀』は必要ない。
「お前の巧断は何級だ⁉」
「へっ、知らねぇし興味ねぇ。ごちゃごちゃ言ってねぇで掛かって来いよ」
黒鋼が怯む様子は全くない。
「小狼く――――ん!」
逃げる人々の波に逆らって、正義が走って戻って来た。
「正義くん、あれ知ってる――?」
「この界隈を狙ってるチームです! ここは笙悟さんのチームのナワバリだから!」
あれだけ目立つ格好をしているのだ、周辺では有名なのだろう。
「あのひと、強いのかなぁ」
「一級の巧断を付けてるんです! 本人はああだけど、巧断の動きはすごく素早くて」
「(正義君、なかなか言うねキミ)」
「それに!」
「くらえ! おれの一級巧断の攻撃を‼」
蟹鍋旋回!
巧断は黒鋼目掛け尾で薙ぎ払った。バク転で距離を取った黒鋼は難を逃れたが、背後の柱がスパッと切れてしまった。
「切れた⁉」
「あの巧断は体の一部を刃物みたいに尖らせることができるんです!」
「(もう動く凶器だよね)」
〝食いにくそうだな〟
「だから食べちゃダメだって」
食べることを諦めていなかったタオが真剣な声で呟いた。
「いけいけー!」
巧断は容赦なく黒鋼に攻撃を仕掛ける。背中の刺や尾が周囲に当たり、床や柱に傷が付く。
「派手に壊してくれちゃって……。直す人のことも考えて欲しいよね」
繰り出される攻撃を、黒鋼は次々と躱していた。巧断は再び尾を振り回し、彼の足元を狙う。
「危ない!」
咄嗟に飛び出そうとする小狼をファイが肩を掴んで止めた。
「手、出すと怒ると思うよ――。黒たんは」
「そうそう。それに、心配しなくても大丈夫でしょ」
だからここで見ていようよ。揺らがない瞳で、蘭は真っ直ぐに黒鋼を見ていた。
蟹道落‼
巧断の刺が瞬時に巨大化し黒鋼目掛け突き立てられた。周囲の床や柱諸共彼を吹き飛ばした。
「黒鋼さん!」
「巧断はどうした! 見せられないような弱いヤツなのか⁉」
瓦礫が音を立てて崩れる。辺りには土埃が舞い上がった。
「うるせぇ」
瓦礫の山の中から黒鋼の姿が現れた。その身体の至る所に傷ができていた。
「ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ」
「おれの巧断は一級巧断の中でも、特別カタイんだぁ!」
明らかな優勢に気を良くしているのだろう、リーダーが誇らしげに声を張り上げている。それをさらにチームメンバーたちが「ナイスですリーダー」と持ち上げる。
「(……。何で今このタイミングで思い出すかなぁ。よりにもよって赤い河童の下ネタとか)」
蘭は状況を弁えず現れる己の自由すぎる思考に頭を抱えたくなった。誤魔化すように軽く頭を振った。
攻撃を避けるばかりだった黒鋼だったが、巧断の弱点を把握していた。
「あ――、刀がありゃ手っ取り早く……」
その時、黒鋼の背後に水を纏った大きく青い竜が現れた。
「(――綺麗だし、迫力あるな、セレス……)」
「なに⁉ おまえ、夢の中に出てきた……」
龍はその姿を大きく変え、一振りの大剣の形と成った。
「使えってか? なんだ、おまえも、暴れてぇのかよ」
黒鋼は目の前の竜の大剣を手に構えを取る。
「そ……それがおまえの巧断か! どうせ見かけ倒しだろ! こっちは、次は必殺技だぞ」
蟹喰砲台‼
一級巧断の甲羅に生える刺という刺が長く伸び、まるでモーニングスターのような形状で黒鋼へ向かって突っ込んでいく。
「(――見かけ倒し、ね。まぁ、確かに、立派な剣があってもそれを扱えなければそうなるかもね)」
万が一にもそんなことはあり得ないが、あのリーダーはそれを知らない。
「どんだけ体が硬かろうが、刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」
破魔 竜王刃
その言葉通り、巧断は中央の継ぎ目を境に真っ二つに切られた。
「ぐああああああ‼」
巧断が切られた直後、パンク集団のリーダーは胸元を押さえ苦しんだ。巧断が受けたダメージはついているものと共有される様だ。
「おれのくだんがああああ」
「だいじょうぶっすか⁉」
「しっかり‼」
後ろへばたり倒れたリーダーに駆け寄るチームメンバーたち。リーダーはゼェゼェ息も絶え絶えに黒鋼を指さした。
「も……もう、チームつくってんじゃねぇか。おまえ『シャオラン』のチームなんだろ!」
瓦礫の上で剣を背に担ぐ黒鋼。
「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ生涯、ただ一人にしか仕えねぇ」
彼の誓いは揺るがない。
「知世姫にしかな」
「(なんだっけこれ。カブトガニだっけ、カブトエビだっけ。……あ、カニか)」
蘭は冷静に巧断の形状を観察していた。彼女の言うようにカブトガニに酷似した姿をしているが、腹部の構造が異なっていたことは幸いだった。
彼女の傍ではファイとモコナが「でっかいね――」と見たままの感想を述べていた。
〝……美味そうだな〟
先程までとは違う意味で鋭い視線を向けるタオがぼそりと呟いた。その瞳はキラキラと輝いている。
「は⁉ やめてよ?」
なかなかに恐ろしいこと言うタオを蘭は真剣に止めに入る。
「おれはそんなつもりはありません!」
小狼は誤解を解こうと声を上げるが、巧断は彼らに向けて尾を鞭のようにしならせながら回転し、背後の太い柱を抉った。遠巻きに様子を見ていた人々も慌てて逃げだした。
「小狼、話そうとしても無駄っぽいよ」
最も近くに居た小狼と蘭は咄嗟に身を屈め難を逃れた。辺りに粉塵が舞う。
「聞く耳持たないって感じだね」
好戦的な相手に、笑んだ表情のまま身構えたファイを、黒鋼が手で制した。
「ちょっと退屈してたんだよ。俺が相手してやらぁ」
楽しそうに笑みを浮かべながら小狼の前に出た。
「(……ひゅーぅ)」
「黒鋼、さっきまで楽しんでた――。退屈なんてしてないしてない」
「満喫してたよねぇ、阪神共和国を」
「うるせぇぞそこ!」
茶々を入れられた黒鋼がファイとモコナに吼える。事実、彼はつい先程までショーウィンドウを覗いたりと退屈そうには見えなかったので致し方ない。
「けど黒鋼さん、刀をあの人に……」
彼の刀は次元の魔女へ対価として差し出された。あの攻撃的な巧断と丸腰で対峙することになる。
「ありゃ破魔刀だ。特別のな。俺がいた日本国にいる魔物を切るにゃ必要だが、巧断は『魔物』じゃねぇだろ」
『魔物』でないならば、『破魔刀』は必要ない。
「お前の巧断は何級だ⁉」
「へっ、知らねぇし興味ねぇ。ごちゃごちゃ言ってねぇで掛かって来いよ」
黒鋼が怯む様子は全くない。
「小狼く――――ん!」
逃げる人々の波に逆らって、正義が走って戻って来た。
「正義くん、あれ知ってる――?」
「この界隈を狙ってるチームです! ここは笙悟さんのチームのナワバリだから!」
あれだけ目立つ格好をしているのだ、周辺では有名なのだろう。
「あのひと、強いのかなぁ」
「一級の巧断を付けてるんです! 本人はああだけど、巧断の動きはすごく素早くて」
「(正義君、なかなか言うねキミ)」
「それに!」
「くらえ! おれの一級巧断の攻撃を‼」
蟹鍋旋回!
巧断は黒鋼目掛け尾で薙ぎ払った。バク転で距離を取った黒鋼は難を逃れたが、背後の柱がスパッと切れてしまった。
「切れた⁉」
「あの巧断は体の一部を刃物みたいに尖らせることができるんです!」
「(もう動く凶器だよね)」
〝食いにくそうだな〟
「だから食べちゃダメだって」
食べることを諦めていなかったタオが真剣な声で呟いた。
「いけいけー!」
巧断は容赦なく黒鋼に攻撃を仕掛ける。背中の刺や尾が周囲に当たり、床や柱に傷が付く。
「派手に壊してくれちゃって……。直す人のことも考えて欲しいよね」
繰り出される攻撃を、黒鋼は次々と躱していた。巧断は再び尾を振り回し、彼の足元を狙う。
「危ない!」
咄嗟に飛び出そうとする小狼をファイが肩を掴んで止めた。
「手、出すと怒ると思うよ――。黒たんは」
「そうそう。それに、心配しなくても大丈夫でしょ」
だからここで見ていようよ。揺らがない瞳で、蘭は真っ直ぐに黒鋼を見ていた。
蟹道落‼
巧断の刺が瞬時に巨大化し黒鋼目掛け突き立てられた。周囲の床や柱諸共彼を吹き飛ばした。
「黒鋼さん!」
「巧断はどうした! 見せられないような弱いヤツなのか⁉」
瓦礫が音を立てて崩れる。辺りには土埃が舞い上がった。
「うるせぇ」
瓦礫の山の中から黒鋼の姿が現れた。その身体の至る所に傷ができていた。
「ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ」
「おれの巧断は一級巧断の中でも、特別カタイんだぁ!」
明らかな優勢に気を良くしているのだろう、リーダーが誇らしげに声を張り上げている。それをさらにチームメンバーたちが「ナイスですリーダー」と持ち上げる。
「(……。何で今このタイミングで思い出すかなぁ。よりにもよって赤い河童の下ネタとか)」
蘭は状況を弁えず現れる己の自由すぎる思考に頭を抱えたくなった。誤魔化すように軽く頭を振った。
攻撃を避けるばかりだった黒鋼だったが、巧断の弱点を把握していた。
「あ――、刀がありゃ手っ取り早く……」
その時、黒鋼の背後に水を纏った大きく青い竜が現れた。
「(――綺麗だし、迫力あるな、セレス……)」
「なに⁉ おまえ、夢の中に出てきた……」
龍はその姿を大きく変え、一振りの大剣の形と成った。
「使えってか? なんだ、おまえも、暴れてぇのかよ」
黒鋼は目の前の竜の大剣を手に構えを取る。
「そ……それがおまえの巧断か! どうせ見かけ倒しだろ! こっちは、次は必殺技だぞ」
蟹喰砲台‼
一級巧断の甲羅に生える刺という刺が長く伸び、まるでモーニングスターのような形状で黒鋼へ向かって突っ込んでいく。
「(――見かけ倒し、ね。まぁ、確かに、立派な剣があってもそれを扱えなければそうなるかもね)」
万が一にもそんなことはあり得ないが、あのリーダーはそれを知らない。
「どんだけ体が硬かろうが、刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」
破魔 竜王刃
その言葉通り、巧断は中央の継ぎ目を境に真っ二つに切られた。
「ぐああああああ‼」
巧断が切られた直後、パンク集団のリーダーは胸元を押さえ苦しんだ。巧断が受けたダメージはついているものと共有される様だ。
「おれのくだんがああああ」
「だいじょうぶっすか⁉」
「しっかり‼」
後ろへばたり倒れたリーダーに駆け寄るチームメンバーたち。リーダーはゼェゼェ息も絶え絶えに黒鋼を指さした。
「も……もう、チームつくってんじゃねぇか。おまえ『シャオラン』のチームなんだろ!」
瓦礫の上で剣を背に担ぐ黒鋼。
「誰の傘下にも入らねぇよ。俺ぁ生涯、ただ一人にしか仕えねぇ」
彼の誓いは揺るがない。
「知世姫にしかな」