Chapter.2
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呟かれた蘭の言葉に俯いていた正義が顔を上げた。彼の視線を受けて、蘭がさらに口を開く。
「どんな基準で四級、特級って分けてるのか私は知らないけど、例えばある特定の基準があって『この等級です』って言われたとしても、それは“その項目においてそう”なだけであって、私にとっては意味がないよ。仮に等級が何であっても、私には関係ないから」
「関係、ない……?」
ぽかんとする正義に、「あくまで私の主観だけどね」と誤魔化して、蘭は曖昧に微笑んだ。例え特級であろうとなかろうと、蘭がやることは変わらない。『彼』がたまたま、特級の要件を満たしていただけだ。
「(これ以上勝手に喋るのは、マズイよなぁ……)」
普段より強く脈打つ心臓をなだめる様に、蘭は静かに、ゆっくりと深く呼吸する。
「でも、一体いつ小狼君と蘭ちゃんに巧断が憑いたんだろうねぇ」
ファイが話題を変えたことに蘭はほっとした。
「そういえば、昨日の夜、夢を見たんです」
「んん? 夢?」
そんな会話をする脇で、黒鋼がヘラを使いお好み焼きの裏側を覗き込もうと試みていた。それを認識した蘭はタオの両耳をそっと抑える。何事かと顔を上げたタオに、蘭は声を出さず「うるさいのきらいでしょ」と伝えた。その唇の動きで彼女と意図とこれから起こり得る事態を察したタオはじっと大人しくしていた。
「待った――――――‼」
直後店内に響いた大きな声は小狼、黒鋼、正義の肩を大きく揺らした。その勢いで黒鋼のヘラは空を切り、彼の腕は妙な体勢のまま固まった。
彼らの席へ近付いてくる人影。胸元にそれぞれ『木之本』『月城』という名札を付けてたエプロン姿の二人は、紛うことなく店員だ。
「王様⁉ と、神官様⁉」
二人の姿を見た小狼が唐突に声を上げた。
「お……王様! どうしてここに⁉」
突然の小狼の反応に正義は混乱した様子で彼と店員を交互に見る。店員も小狼の言動に困惑しているようだ。一方、黒鋼は未だ硬直したまま多量の汗を流している。
「(なにこれシュール)」
「誰かと間違ってませんか? 俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」
「え?」
木之本の名札を付けた店員が困ったような顔のまま訂正を入れる。
「お客さん。こっちでひっくり返しますんで、そのままお待ちください」
「お、おう!」
この店ではお好み焼きの調理は店員が全て行い、客は焼き上がりを待つというスタイルだった。
店員の二人は親しげに言葉を交わしながらてきぱきと各テーブルの調理や接客に戻っていった。多少のイレギュラーに動じる様子は無い。
「王様って、前居た国の?」
「はい……」
「次元の魔女が言ってたとおりだねぇ。『知っている人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている』って」
「なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」
黒鋼とファイの間で交わされる会話、そこに含まれる内容に、正義が不思議そうに視線を向けている。
「同じだけど、同じじゃないかなぁ。小狼君の国にいた二人とはまったく別の人生を、ここで歩んでるんだから。でも、言うなれば、『根源』は同じ、かな」
「根源?」
ファイは指でハートマークを作りそれを黒鋼に示した。
「命のおおもと――。性質とかー、心とかー」
「『魂』ってことか」
両サイドの二人が自分越しに会話をしているので蘭はそっと身を屈めた。
「(頭の上で会話されてて変な感じ……。そうですその調子です、私はいないものと思ってください)」
二人の店員の姿を見ながら、小狼は自国の二人のことを想った。
店員によって仕上げられたお好みの上で鰹節が躍っている。
「小狼くーん。なくなっちゃうよ」
思考に浸る小狼にファイが声を掛けた。
箸を初めて使うであろうファイは握りしめた箸先にお好み焼きをぶすっと突き刺して食べていた。ファイの呼びかけに返事をし、小狼も割り箸を手に取った。
「いっただっきまーす!」
「あってめ! それ俺のだろうが!」
モコナが黒鋼の前にあったお好み焼きを丸ごと一枚、ヘラ二刀流で抱えるように持ち上げ食べようとしていた。黒鋼はそれを阻止すべく箸でお好み焼きを挟み、攻防戦となった。
「(ずいぶんしっかりしたお好み焼きだなぁ)二人とも行儀悪いよー」
「あの……もう一枚頼みましょうか?」
蘭は目の前の争いの被害を受けないよう体をずらして安全を確保し、ヘラで小さくカットしたお好み焼きを口へ運んだ。
「(あ、おいしい)」
出来立て熱々の美味しさに感動を覚えながら、蘭はもう一口分箸で取った。
「ふー……ふー……ふー……」
湯気の上がるお好み焼きをよく冷ます蘭。軽く唇に当て温度を確かめる。充分に温度が下がったことを確認すると、それをタオの口元に近づけた。
「はい」
〝ん〟
差し出されたお好み焼きにタオが齧り付く。
「『あーん』だー!」
「え」
一部始終を見ていたモコナがキャッキャとはしゃぎだした。一方が猫ではあるが、蘭とタオの一連のやり取りは『長く付き合いそういう行為にすっかり慣れてしまったカップルのあーん』にも見える。
「違う違うモコナ。別にそういうんじゃないから。タオが猫舌だから冷ましてただけだから」
「うふふふふ」
「ねぇ聞いてる?」
くるくる踊りながら一人盛り上がっているモコナ。蘭はこれ以上の弁明は無意味どころか逆効果にもなりかねないと判断し、諦めて食事を再開した。内心は居た堪れない気持ちになっていた。
その場に居合わせる男性陣はどうしたものかとそれぞれが対応に困っていた。タオは終始何も言わなかった。
「どんな基準で四級、特級って分けてるのか私は知らないけど、例えばある特定の基準があって『この等級です』って言われたとしても、それは“その項目においてそう”なだけであって、私にとっては意味がないよ。仮に等級が何であっても、私には関係ないから」
「関係、ない……?」
ぽかんとする正義に、「あくまで私の主観だけどね」と誤魔化して、蘭は曖昧に微笑んだ。例え特級であろうとなかろうと、蘭がやることは変わらない。『彼』がたまたま、特級の要件を満たしていただけだ。
「(これ以上勝手に喋るのは、マズイよなぁ……)」
普段より強く脈打つ心臓をなだめる様に、蘭は静かに、ゆっくりと深く呼吸する。
「でも、一体いつ小狼君と蘭ちゃんに巧断が憑いたんだろうねぇ」
ファイが話題を変えたことに蘭はほっとした。
「そういえば、昨日の夜、夢を見たんです」
「んん? 夢?」
そんな会話をする脇で、黒鋼がヘラを使いお好み焼きの裏側を覗き込もうと試みていた。それを認識した蘭はタオの両耳をそっと抑える。何事かと顔を上げたタオに、蘭は声を出さず「うるさいのきらいでしょ」と伝えた。その唇の動きで彼女と意図とこれから起こり得る事態を察したタオはじっと大人しくしていた。
「待った――――――‼」
直後店内に響いた大きな声は小狼、黒鋼、正義の肩を大きく揺らした。その勢いで黒鋼のヘラは空を切り、彼の腕は妙な体勢のまま固まった。
彼らの席へ近付いてくる人影。胸元にそれぞれ『木之本』『月城』という名札を付けてたエプロン姿の二人は、紛うことなく店員だ。
「王様⁉ と、神官様⁉」
二人の姿を見た小狼が唐突に声を上げた。
「お……王様! どうしてここに⁉」
突然の小狼の反応に正義は混乱した様子で彼と店員を交互に見る。店員も小狼の言動に困惑しているようだ。一方、黒鋼は未だ硬直したまま多量の汗を流している。
「(なにこれシュール)」
「誰かと間違ってませんか? 俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」
「え?」
木之本の名札を付けた店員が困ったような顔のまま訂正を入れる。
「お客さん。こっちでひっくり返しますんで、そのままお待ちください」
「お、おう!」
この店ではお好み焼きの調理は店員が全て行い、客は焼き上がりを待つというスタイルだった。
店員の二人は親しげに言葉を交わしながらてきぱきと各テーブルの調理や接客に戻っていった。多少のイレギュラーに動じる様子は無い。
「王様って、前居た国の?」
「はい……」
「次元の魔女が言ってたとおりだねぇ。『知っている人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている』って」
「なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」
黒鋼とファイの間で交わされる会話、そこに含まれる内容に、正義が不思議そうに視線を向けている。
「同じだけど、同じじゃないかなぁ。小狼君の国にいた二人とはまったく別の人生を、ここで歩んでるんだから。でも、言うなれば、『根源』は同じ、かな」
「根源?」
ファイは指でハートマークを作りそれを黒鋼に示した。
「命のおおもと――。性質とかー、心とかー」
「『魂』ってことか」
両サイドの二人が自分越しに会話をしているので蘭はそっと身を屈めた。
「(頭の上で会話されてて変な感じ……。そうですその調子です、私はいないものと思ってください)」
二人の店員の姿を見ながら、小狼は自国の二人のことを想った。
店員によって仕上げられたお好みの上で鰹節が躍っている。
「小狼くーん。なくなっちゃうよ」
思考に浸る小狼にファイが声を掛けた。
箸を初めて使うであろうファイは握りしめた箸先にお好み焼きをぶすっと突き刺して食べていた。ファイの呼びかけに返事をし、小狼も割り箸を手に取った。
「いっただっきまーす!」
「あってめ! それ俺のだろうが!」
モコナが黒鋼の前にあったお好み焼きを丸ごと一枚、ヘラ二刀流で抱えるように持ち上げ食べようとしていた。黒鋼はそれを阻止すべく箸でお好み焼きを挟み、攻防戦となった。
「(ずいぶんしっかりしたお好み焼きだなぁ)二人とも行儀悪いよー」
「あの……もう一枚頼みましょうか?」
蘭は目の前の争いの被害を受けないよう体をずらして安全を確保し、ヘラで小さくカットしたお好み焼きを口へ運んだ。
「(あ、おいしい)」
出来立て熱々の美味しさに感動を覚えながら、蘭はもう一口分箸で取った。
「ふー……ふー……ふー……」
湯気の上がるお好み焼きをよく冷ます蘭。軽く唇に当て温度を確かめる。充分に温度が下がったことを確認すると、それをタオの口元に近づけた。
「はい」
〝ん〟
差し出されたお好み焼きにタオが齧り付く。
「『あーん』だー!」
「え」
一部始終を見ていたモコナがキャッキャとはしゃぎだした。一方が猫ではあるが、蘭とタオの一連のやり取りは『長く付き合いそういう行為にすっかり慣れてしまったカップルのあーん』にも見える。
「違う違うモコナ。別にそういうんじゃないから。タオが猫舌だから冷ましてただけだから」
「うふふふふ」
「ねぇ聞いてる?」
くるくる踊りながら一人盛り上がっているモコナ。蘭はこれ以上の弁明は無意味どころか逆効果にもなりかねないと判断し、諦めて食事を再開した。内心は居た堪れない気持ちになっていた。
その場に居合わせる男性陣はどうしたものかとそれぞれが対応に困っていた。タオは終始何も言わなかった。