Chapter.2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
正義が彼らを連れていったのは『風月』という店だった。複合型の商業施設内にあり、昼時ということもあり客の入りも良い。
巧断というものが存在するだけあって、人ではないモコナやタオの入店が断られるようなことは無かった。モコナは黒鋼の頭の上で耳を上下させながらはしゃいでおり、楽しそうだ。タオはと言えば、蘭の膝の上で丸まってはいるものの、店中に漂う香りにそわそわしていた。
ジュ――――――
テーブルに組み込まれた熱々の鉄板の上で五枚のそれが焼かれている。生地の焼ける匂いが食欲をそそる。
「これって……」
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから! あのあの、モダン焼きにしたんですけど、トン平焼きのほうがよかったですか?」
「(モダン焼きって聞くとモダン焼き大好きな封印の獣が出てくるよね)」
「『おこのみやき』っていうんだ、これ――」
類似した世界に居た蘭達はともかく、小狼達は全く違う発展の仕方をした世界出身。果物一つ違うのだ、このような食文化に馴染みがないのも当然である。
「えっ? お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは……。あ、外国から来たんですか? 金髪さんだし!」
「ん―――外といえばそとかなぁ」
「??」
ファイの曖昧な返答に正義はきょとんとしている。外国は外国でも、『異世界だ』などと答えるわけにもいかない。その存在が広く認知されているならばいざ知らず。
そんな彼らの会話を聞きながら、蘭は身を縮こまらせていた。
「(このボックス席、四人掛けじゃない? 仕方ないにしてもこれはしんどいって)」
彼女は左右をそれぞれ黒鋼とファイに挟まれており、その圧迫感からほとんど身動きが取れない状態だった。少し動くだけで腕が当たってしまいそうだ。席に案内されてから自然な流れでこの順で座ったのだが、なぜこうなったのか蘭には全く分からなかった。気が付いたら座っていた。今更座席の変更もできない。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするの――? 帽子かぶった人達と、ゴーグルかけた人達――」
ファイが話題を変えると、正義は困ったような顔をしながらも説明を始めた。
「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで、自分たちの巧断の強さを競ってるんです」
「で、強い方が場所の権利を得る、と」
「でも、あんな人が多い場所で戦ったら他の人に迷惑が……」
「そうだねぇ。現に正義君、危なかったもんねぇ」
無関係の者を危険に晒すのはどんな理由があれ褒められたことではない。周辺への被害も、安いものではないだろう。
「あれは僕がどんくさいからです! あの……悪いチームもあるんですけど、いいチームもあるんです! 自分のナワバリで不良とかが暴れないように見回ってくれたり、悪いことするヤツがいたらやっつけてくれたり」
「自警団みたいなものなんですね」
「さっきのチームはどうなのかなぁ」
「帽子被ってたほうは悪い奴らなんです! でも、あのゴーグルかけてたほうは違うんです! 他のチームとのバトルの時、ちょっと建物壊れたりするんで、大人の人は怒るけど、それ以外の悪いことは絶対しないし、すごくカッコいいんです! 特に、あのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で、強くて大きくて、みんな憧れてて!」
熱く語る正義は熱が入るあまり立ち上がっていた。それに気付き、顔を赤くして静かに座り直すその様子は微笑ましくある。
「憧れのひとなんだねぇ―――」
「は、はい!」
そんな正義の熱弁の間、黒鋼はお好み焼きに視線を向けていた。店員によって調理が始まった段階から釘付けになっていた。頭上でモコナが動こうがはしゃごうが。
「(気付いてないのか無視してるのか……。気付いてないわけないよなぁ。それほど興味そそられるってことね。それはちょっと分かる)」
タオの背中を撫でながら蘭も目の前のモダン焼きをぼんやり眺める。
「でも、小狼君と蘭さんにも憧れます」
「え?」
「ん?」
「特級の巧断が憑いてるなんて、すごいことだから」
「さっきのゴーグルチームのリーダーっぽいのも、そんなこと言ってたなぁ」
「それって何なんですか? 特級って」
異世界から来た者達に馴染みのないそれは、巧断の“等級”を表す言葉だという。『四級』を一番下に置き、『三級』『二級』『一級』と上がっていき、一番上に『特級』がくる。
「巧断の等級付け制度は、ずっと昔に国によって廃止されてるんですけど、やっぱり、今も一般の人たちは使ってます」
「(どういう基準で等級判断してるんだろう。見ただけで分かるもんなの?)」
「じゃあ、あのリーダーの巧断ってすごい強いんだー」
「はい。小狼君と蘭さんもそうです。強い巧断、特に特級の巧断は、本当に心が強い人にしか憑かないんです。巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を自由自在に操れるのは、強い証拠だから……。憧れます。僕のは……一番下の四級だから」
『一番下』という劣等感が、正義に強い巧断が憑く者へ強い憧れを抱かせる。
「……あんまり関係ないと思うけどなぁ」
「え?」
巧断というものが存在するだけあって、人ではないモコナやタオの入店が断られるようなことは無かった。モコナは黒鋼の頭の上で耳を上下させながらはしゃいでおり、楽しそうだ。タオはと言えば、蘭の膝の上で丸まってはいるものの、店中に漂う香りにそわそわしていた。
ジュ――――――
テーブルに組み込まれた熱々の鉄板の上で五枚のそれが焼かれている。生地の焼ける匂いが食欲をそそる。
「これって……」
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから! あのあの、モダン焼きにしたんですけど、トン平焼きのほうがよかったですか?」
「(モダン焼きって聞くとモダン焼き大好きな封印の獣が出てくるよね)」
「『おこのみやき』っていうんだ、これ――」
類似した世界に居た蘭達はともかく、小狼達は全く違う発展の仕方をした世界出身。果物一つ違うのだ、このような食文化に馴染みがないのも当然である。
「えっ? お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは……。あ、外国から来たんですか? 金髪さんだし!」
「ん―――外といえばそとかなぁ」
「??」
ファイの曖昧な返答に正義はきょとんとしている。外国は外国でも、『異世界だ』などと答えるわけにもいかない。その存在が広く認知されているならばいざ知らず。
そんな彼らの会話を聞きながら、蘭は身を縮こまらせていた。
「(このボックス席、四人掛けじゃない? 仕方ないにしてもこれはしんどいって)」
彼女は左右をそれぞれ黒鋼とファイに挟まれており、その圧迫感からほとんど身動きが取れない状態だった。少し動くだけで腕が当たってしまいそうだ。席に案内されてから自然な流れでこの順で座ったのだが、なぜこうなったのか蘭には全く分からなかった。気が付いたら座っていた。今更座席の変更もできない。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするの――? 帽子かぶった人達と、ゴーグルかけた人達――」
ファイが話題を変えると、正義は困ったような顔をしながらも説明を始めた。
「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで、自分たちの巧断の強さを競ってるんです」
「で、強い方が場所の権利を得る、と」
「でも、あんな人が多い場所で戦ったら他の人に迷惑が……」
「そうだねぇ。現に正義君、危なかったもんねぇ」
無関係の者を危険に晒すのはどんな理由があれ褒められたことではない。周辺への被害も、安いものではないだろう。
「あれは僕がどんくさいからです! あの……悪いチームもあるんですけど、いいチームもあるんです! 自分のナワバリで不良とかが暴れないように見回ってくれたり、悪いことするヤツがいたらやっつけてくれたり」
「自警団みたいなものなんですね」
「さっきのチームはどうなのかなぁ」
「帽子被ってたほうは悪い奴らなんです! でも、あのゴーグルかけてたほうは違うんです! 他のチームとのバトルの時、ちょっと建物壊れたりするんで、大人の人は怒るけど、それ以外の悪いことは絶対しないし、すごくカッコいいんです! 特に、あのリーダーの笙悟さんの巧断は特級で、強くて大きくて、みんな憧れてて!」
熱く語る正義は熱が入るあまり立ち上がっていた。それに気付き、顔を赤くして静かに座り直すその様子は微笑ましくある。
「憧れのひとなんだねぇ―――」
「は、はい!」
そんな正義の熱弁の間、黒鋼はお好み焼きに視線を向けていた。店員によって調理が始まった段階から釘付けになっていた。頭上でモコナが動こうがはしゃごうが。
「(気付いてないのか無視してるのか……。気付いてないわけないよなぁ。それほど興味そそられるってことね。それはちょっと分かる)」
タオの背中を撫でながら蘭も目の前のモダン焼きをぼんやり眺める。
「でも、小狼君と蘭さんにも憧れます」
「え?」
「ん?」
「特級の巧断が憑いてるなんて、すごいことだから」
「さっきのゴーグルチームのリーダーっぽいのも、そんなこと言ってたなぁ」
「それって何なんですか? 特級って」
異世界から来た者達に馴染みのないそれは、巧断の“等級”を表す言葉だという。『四級』を一番下に置き、『三級』『二級』『一級』と上がっていき、一番上に『特級』がくる。
「巧断の等級付け制度は、ずっと昔に国によって廃止されてるんですけど、やっぱり、今も一般の人たちは使ってます」
「(どういう基準で等級判断してるんだろう。見ただけで分かるもんなの?)」
「じゃあ、あのリーダーの巧断ってすごい強いんだー」
「はい。小狼君と蘭さんもそうです。強い巧断、特に特級の巧断は、本当に心が強い人にしか憑かないんです。巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を自由自在に操れるのは、強い証拠だから……。憧れます。僕のは……一番下の四級だから」
『一番下』という劣等感が、正義に強い巧断が憑く者へ強い憧れを抱かせる。
「……あんまり関係ないと思うけどなぁ」
「え?」