Chapter.2
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他へ移動しようと歩き出した一行は八百屋の前を通りかかった。
「らっしゃい! お、兄ちゃんたち、リンゴ買っていかねぇかい⁉」
店主が勧めてきた真っ赤な果実を見て小狼は立ち止った。
「それ、リンゴですか?」
「これがリンゴ以外のなんだっちゅうんだ!」
「小狼君の世界じゃこういうのじゃなかった――?」
「形はこうなんですけど、色がもっと薄い黄色で……」
同じ『リンゴ』と呼ばれる果実であっても異世界間ではその姿形が異なるらしい。小狼の知る『リンゴ』の特徴を聞いた黒鋼も会話に入って来た。
「そりゃ梨だろ」
「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって……」
「それラキの実でしょー?」
「(単語から想像するとトマトなんだよなぁ。ラキの実ってなんなんだろ)」
店先の商品を眺める蘭も心の中で一人参加していた。
「で! いるのか! いらんのか!」
リンゴ談議に花を咲かせる一行に痺れを切らした店主がずいっと割って入る。
「いるー‼」
「まいど‼」
「えっ⁉」
鶴の一声ならぬモコナの一声であっという間に購入が決まってしまった。
「(最終決定権持ってるのって実はモコナだったりするのかな)」
モコナを含めた人数分のリンゴを購入し(蘭の分はオマケされた)、来た道を少し戻り、通りの多い大きな橋の上に来た。欄干を背に通行の妨げにならないよう、そこで食べることにした。
「おいしいねー、リンゴ」
「はい」
異国のリンゴを口にした小狼は自国の物との違いに感嘆の声を漏らした。互いに全く違う文化圏から来たことを実感する。
そういえば、とファイが小狼にどうやって次元の魔女の元へ行ったのかと尋ねた。
一方でその隣で蘭はリンゴと格闘していた。
「……」
さすがに丸齧りは出来ず、どうにか解体できないかと考えたがナイフのような手ごろな道具も持ち合わせていない。ならば素手で、と軸部分の凹みに親指をかけ両手で割ろうと試みたがうまくいかない。
「(無理か……。無理だよなぁ。諦めてモコナにあげようか)」
「貸せ」
「え」
不意にリンゴを取り上げられ、反射的に目で追うとそれは黒鋼だった。彼の手によってリンゴは二つに割られ即座に蘭へ返された。
「あ、ありがとう」
予期せぬ事態に蘭は礼を伝えるのが精一杯だった。黒鋼からの反応は特にない。
リンゴの片割れを足元のタオへ渡し、蘭もその果肉を口にする。見た目も味も元いた世界の林檎と大きな差はなく、新しい品種を食べているような感覚だった。
「(びっくりしたびっくりしたびっくりした)」
蘭が内心冷や汗を流しながら食べていることなど、誰も知るよしもない。
「蘭ちゃんはー?」
「んっ⁉ ――ごめん、何の話してた?」
危うく誤嚥しそうになったが踏みとどまりファイの方へ向き直った。
「どうやって次元の魔女のところへ来たのかなーって話――」
「あぁ……。――みんなが店に来るよりももっと前に、タオと一緒にあの場所にいたんだよね。直前の記憶があやふやで、どうやって行ったのかは分からない。まぁ、私に次元移動するなんてたいそうな力ないし、誰かに移動されたんじゃないかな」
その『誰か』について、心当たりはないのだが。
蘭の足元でタオがリンゴを齧っている。
「黒りんは―――?」
「だからそれヤメろ! うちの姫に飛ばされたんだよ! 無理矢理」
「悪いことして叱られたんだー?」
ファイは黒鋼を指さし愉快そうに声を出して笑った。モコナも『しかられんぼだー』ときゃーきゃーはしゃいでいる。
「うるせーっての‼ 指さすな!」
黒鋼自身、間違っていないため否定も出来ない。
「てめぇこそどうなんだよ!」
「オレ? オレは自分であそこに行ったんだよ―――」
「ああ⁉ だったらあの魔女に頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとかできるだろ」
ファイに言葉を返しつつ肩に乗ってきたモコナに対して『何乗ってんだ!』と反応する黒鋼。そのように律儀に対応するが故に彼らに遊ばれていることを果たして本人は理解しているのか。
「無理だよ―――。オレの魔力総動員しても、一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
ファイは普段と変わらない顔でそう答えた。
〝…………。食えぬ男よな〟
「――タオ。」
じっと、ファイを観察するように見上げていたタオがぼそりと呟いた。蘭とは違い“観察によって導き出された予測”であったが、タオ自身はそれに間違いはないだろうと確信していた。極々小さなその呟きを唯一拾った蘭が、やはり小さく名を呼ぶことでそれを咎めた。
タオは食べ残したリンゴの芯を咥え、蘭の腕の中へ跳んだ。
「小狼君を送ったひとも、黒ちんを送ったひとも、蘭ちゃん達を送ったひとも、物凄い魔力の持ち主だよ。――でも、持てるすべての力を使っても、おそらく、異世界へ誰かを渡せるのは一度きり」
神妙な面持ちのファイの言葉に、小狼も、『その呼び方やめろ!』と怒っていた黒鋼も表情を変えた。
「だから、神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ。サクラちゃんの記憶の羽根を取り戻すには、色んな世界を渡り歩くしかない。それが今出来るのはあの次元の魔女だけだから」
手の中のリンゴを見つめる小狼。脳裏に浮かぶのは幼い日の笑顔。
「……さくら」
「らっしゃい! お、兄ちゃんたち、リンゴ買っていかねぇかい⁉」
店主が勧めてきた真っ赤な果実を見て小狼は立ち止った。
「それ、リンゴですか?」
「これがリンゴ以外のなんだっちゅうんだ!」
「小狼君の世界じゃこういうのじゃなかった――?」
「形はこうなんですけど、色がもっと薄い黄色で……」
同じ『リンゴ』と呼ばれる果実であっても異世界間ではその姿形が異なるらしい。小狼の知る『リンゴ』の特徴を聞いた黒鋼も会話に入って来た。
「そりゃ梨だろ」
「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって……」
「それラキの実でしょー?」
「(単語から想像するとトマトなんだよなぁ。ラキの実ってなんなんだろ)」
店先の商品を眺める蘭も心の中で一人参加していた。
「で! いるのか! いらんのか!」
リンゴ談議に花を咲かせる一行に痺れを切らした店主がずいっと割って入る。
「いるー‼」
「まいど‼」
「えっ⁉」
鶴の一声ならぬモコナの一声であっという間に購入が決まってしまった。
「(最終決定権持ってるのって実はモコナだったりするのかな)」
モコナを含めた人数分のリンゴを購入し(蘭の分はオマケされた)、来た道を少し戻り、通りの多い大きな橋の上に来た。欄干を背に通行の妨げにならないよう、そこで食べることにした。
「おいしいねー、リンゴ」
「はい」
異国のリンゴを口にした小狼は自国の物との違いに感嘆の声を漏らした。互いに全く違う文化圏から来たことを実感する。
そういえば、とファイが小狼にどうやって次元の魔女の元へ行ったのかと尋ねた。
一方でその隣で蘭はリンゴと格闘していた。
「……」
さすがに丸齧りは出来ず、どうにか解体できないかと考えたがナイフのような手ごろな道具も持ち合わせていない。ならば素手で、と軸部分の凹みに親指をかけ両手で割ろうと試みたがうまくいかない。
「(無理か……。無理だよなぁ。諦めてモコナにあげようか)」
「貸せ」
「え」
不意にリンゴを取り上げられ、反射的に目で追うとそれは黒鋼だった。彼の手によってリンゴは二つに割られ即座に蘭へ返された。
「あ、ありがとう」
予期せぬ事態に蘭は礼を伝えるのが精一杯だった。黒鋼からの反応は特にない。
リンゴの片割れを足元のタオへ渡し、蘭もその果肉を口にする。見た目も味も元いた世界の林檎と大きな差はなく、新しい品種を食べているような感覚だった。
「(びっくりしたびっくりしたびっくりした)」
蘭が内心冷や汗を流しながら食べていることなど、誰も知るよしもない。
「蘭ちゃんはー?」
「んっ⁉ ――ごめん、何の話してた?」
危うく誤嚥しそうになったが踏みとどまりファイの方へ向き直った。
「どうやって次元の魔女のところへ来たのかなーって話――」
「あぁ……。――みんなが店に来るよりももっと前に、タオと一緒にあの場所にいたんだよね。直前の記憶があやふやで、どうやって行ったのかは分からない。まぁ、私に次元移動するなんてたいそうな力ないし、誰かに移動されたんじゃないかな」
その『誰か』について、心当たりはないのだが。
蘭の足元でタオがリンゴを齧っている。
「黒りんは―――?」
「だからそれヤメろ! うちの姫に飛ばされたんだよ! 無理矢理」
「悪いことして叱られたんだー?」
ファイは黒鋼を指さし愉快そうに声を出して笑った。モコナも『しかられんぼだー』ときゃーきゃーはしゃいでいる。
「うるせーっての‼ 指さすな!」
黒鋼自身、間違っていないため否定も出来ない。
「てめぇこそどうなんだよ!」
「オレ? オレは自分であそこに行ったんだよ―――」
「ああ⁉ だったらあの魔女に頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとかできるだろ」
ファイに言葉を返しつつ肩に乗ってきたモコナに対して『何乗ってんだ!』と反応する黒鋼。そのように律儀に対応するが故に彼らに遊ばれていることを果たして本人は理解しているのか。
「無理だよ―――。オレの魔力総動員しても、一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
ファイは普段と変わらない顔でそう答えた。
〝…………。食えぬ男よな〟
「――タオ。」
じっと、ファイを観察するように見上げていたタオがぼそりと呟いた。蘭とは違い“観察によって導き出された予測”であったが、タオ自身はそれに間違いはないだろうと確信していた。極々小さなその呟きを唯一拾った蘭が、やはり小さく名を呼ぶことでそれを咎めた。
タオは食べ残したリンゴの芯を咥え、蘭の腕の中へ跳んだ。
「小狼君を送ったひとも、黒ちんを送ったひとも、蘭ちゃん達を送ったひとも、物凄い魔力の持ち主だよ。――でも、持てるすべての力を使っても、おそらく、異世界へ誰かを渡せるのは一度きり」
神妙な面持ちのファイの言葉に、小狼も、『その呼び方やめろ!』と怒っていた黒鋼も表情を変えた。
「だから、神官さんは小狼君を魔女さんのところに送ったんだよ。サクラちゃんの記憶の羽根を取り戻すには、色んな世界を渡り歩くしかない。それが今出来るのはあの次元の魔女だけだから」
手の中のリンゴを見つめる小狼。脳裏に浮かぶのは幼い日の笑顔。
「……さくら」