Chapter.2
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住宅地の様相だった下宿屋周辺から少し歩いただけで周囲の様子はがらりと変わった。様々な形、高さのビルに商業施設の看板が数多く見える。行き交う人も多く、まさに繁華街といった雰囲気だ。一際通りの多い橋の上から見る景色に、蘭は何処となく既視感を覚える。
「にぎやかだねー」
「ひと、いっぱーい!」
「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだ――。小狼君はこういうの見たことあるー?」
「ないです」
「蘭ちゃんはー?」
「私たちがいた世界も、人が特に多い町はこんな感じだったよ」
“こんな感じ”どころか、ほぼ同様の主要都市があったくらいである。
「黒たんは――?」
「ねぇよ! んでもって妙な呼び方するな‼」
くるりと振り向いたファイが黒鋼に問う。呼び名が癇に障ったらしくがなる黒鋼だが、問いに答えている辺り律儀である。
すれ違う女子高校生と思われる二人組が、小狼の頭の上のモコナを見てくすくす笑っている。
「まっしろー」
「まるいー」
他にも女性や子供の視線が向いているようだった。
「笑われてっぞ、おめぇ」
「モコナ、もてもてっ!」
「モテてねぇよっ!」
てへっ、と照れながら喜んでいるモコナに黒鋼が突っ込みを入れる。
実際、マスコット的な外見をしているモコナへの視線は少なくなかったが、それとは別の視線も彼らは感じていた。
行き交う人の波を眺める蘭。ただ立ち止まり周囲に目を向けているだけの姿に、時々、すれ違う男性がちらりと視線を向ける。嵐から借りたワンピースは白いブラウス調の身ごろに胸の下で切り替えした紫色のマキシ丈スカートで、落ち着いたデザインをしている。さらに髪はハーフアップにし、結った束は団子にまとめていた。幼さの残る顔立ちで、それでいて大人びだ雰囲気を纏う彼女は目を引いた。彼女に同行する彼らも、思わず見入ってしまうほどに。
三人の視線を確認したタオは蘭の肩からするりと降り、彼らへ近づく。蘭はその背中を何も言わずに見送った。それをいいことに、タオは黒鋼の肩にひょいと飛び乗った。
「何乗ってんだ」
〝何を見ていたお前達〟
黒鋼の発言を全て無視し、三人を見下ろすような目を向ける。
「――何のことー?」
〝とぼけるな。我が気付かんとでも思ったか。不躾に見るな、減る〟
「バレちゃったかー」
おどけるファイに、謝罪する小狼、黒鋼は無言だった。
〝お前たちが何を思っているのかは知らんが――〟
フンと鼻を鳴らしオッドアイの形が歪む。わざと力を込めて黒鋼の肩を蹴り地面に降りたタオは三人を――特にファイと黒鋼を――睨むように見た。
〝簡単に触れられると思うな〟
刺すような冷気を帯びた視線に一瞬空気が固まった。小狼はきょとんとした顔で驚いており、ファイの顔からは笑みが消え、黒鋼の眉間の皺が深くなった。その様子にタオはくつくつと喉を鳴らし、蘭の元へと戻っていった。
「何しに行ったの」
飛び付いてくるタオを抱き留めながら蘭が訊ねる。
〝なに、大したことではない。少しばかり釘を刺しただけだ〟
「……釘?」
〝――お前は時々、危機感と注意力が足りないな〟
「え、うそ」
〝お前の努力を否定するわけではない。お前の目が届かない場合は我が代わる。心配するな〟
「……ん、そっか……。じゃあ、よろしく」
タオは身体を伸ばし、鼻先をトンと蘭の頬へ当てる。
〝勝手な動きをしたのは謝ろう。今の身体ではできることが限られる故、己で確認する他無いのがもどかしい。お前にとって不都合になり得るのなら止めてくれ〟
「うん、まぁ、タオのこと信じてるから。いつも想ってくれてるのは、ちゃんと分かってる。ありがとう」
タオを肩に上げた蘭はその身体にそっと頬を寄せた。
先程、タオから宣戦布告ともとれる言葉を突き付けられた者たちがそれぞれ何を思ったか。それは本人しか知らない。
一部始終を見ていたモコナは楽しそうにそわそわしていた。
「にぎやかだねー」
「ひと、いっぱーい!」
「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだ――。小狼君はこういうの見たことあるー?」
「ないです」
「蘭ちゃんはー?」
「私たちがいた世界も、人が特に多い町はこんな感じだったよ」
“こんな感じ”どころか、ほぼ同様の主要都市があったくらいである。
「黒たんは――?」
「ねぇよ! んでもって妙な呼び方するな‼」
くるりと振り向いたファイが黒鋼に問う。呼び名が癇に障ったらしくがなる黒鋼だが、問いに答えている辺り律儀である。
すれ違う女子高校生と思われる二人組が、小狼の頭の上のモコナを見てくすくす笑っている。
「まっしろー」
「まるいー」
他にも女性や子供の視線が向いているようだった。
「笑われてっぞ、おめぇ」
「モコナ、もてもてっ!」
「モテてねぇよっ!」
てへっ、と照れながら喜んでいるモコナに黒鋼が突っ込みを入れる。
実際、マスコット的な外見をしているモコナへの視線は少なくなかったが、それとは別の視線も彼らは感じていた。
行き交う人の波を眺める蘭。ただ立ち止まり周囲に目を向けているだけの姿に、時々、すれ違う男性がちらりと視線を向ける。嵐から借りたワンピースは白いブラウス調の身ごろに胸の下で切り替えした紫色のマキシ丈スカートで、落ち着いたデザインをしている。さらに髪はハーフアップにし、結った束は団子にまとめていた。幼さの残る顔立ちで、それでいて大人びだ雰囲気を纏う彼女は目を引いた。彼女に同行する彼らも、思わず見入ってしまうほどに。
三人の視線を確認したタオは蘭の肩からするりと降り、彼らへ近づく。蘭はその背中を何も言わずに見送った。それをいいことに、タオは黒鋼の肩にひょいと飛び乗った。
「何乗ってんだ」
〝何を見ていたお前達〟
黒鋼の発言を全て無視し、三人を見下ろすような目を向ける。
「――何のことー?」
〝とぼけるな。我が気付かんとでも思ったか。不躾に見るな、減る〟
「バレちゃったかー」
おどけるファイに、謝罪する小狼、黒鋼は無言だった。
〝お前たちが何を思っているのかは知らんが――〟
フンと鼻を鳴らしオッドアイの形が歪む。わざと力を込めて黒鋼の肩を蹴り地面に降りたタオは三人を――特にファイと黒鋼を――睨むように見た。
〝簡単に触れられると思うな〟
刺すような冷気を帯びた視線に一瞬空気が固まった。小狼はきょとんとした顔で驚いており、ファイの顔からは笑みが消え、黒鋼の眉間の皺が深くなった。その様子にタオはくつくつと喉を鳴らし、蘭の元へと戻っていった。
「何しに行ったの」
飛び付いてくるタオを抱き留めながら蘭が訊ねる。
〝なに、大したことではない。少しばかり釘を刺しただけだ〟
「……釘?」
〝――お前は時々、危機感と注意力が足りないな〟
「え、うそ」
〝お前の努力を否定するわけではない。お前の目が届かない場合は我が代わる。心配するな〟
「……ん、そっか……。じゃあ、よろしく」
タオは身体を伸ばし、鼻先をトンと蘭の頬へ当てる。
〝勝手な動きをしたのは謝ろう。今の身体ではできることが限られる故、己で確認する他無いのがもどかしい。お前にとって不都合になり得るのなら止めてくれ〟
「うん、まぁ、タオのこと信じてるから。いつも想ってくれてるのは、ちゃんと分かってる。ありがとう」
タオを肩に上げた蘭はその身体にそっと頬を寄せた。
先程、タオから宣戦布告ともとれる言葉を突き付けられた者たちがそれぞれ何を思ったか。それは本人しか知らない。
一部始終を見ていたモコナは楽しそうにそわそわしていた。