Chapter.2
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互いの名を確認しあったところで、目下の問題はサクラであろう。彼女の身体は氷のように冷え切っていた。あまり時間がない。
蘭は静かに、じっと周囲の様子に気を巡らせていた。あくまでも何もないかのように、周りに悟られないように、気配を探る。
「(……“持ってる”んだから、“コレ”が羽根の波動か。なるほどこれは強力だ。――今ならよくわかる)」
「うわっ‼」
蘭が一人思案していると、ファイがいきなり小狼の腰元をまさぐり始めた。
「なにしてんだ、てめぇ」
「…………」
その様子を目撃してしまった黒鋼と蘭は少々引き気味だ。
「(……うー……ん。間近で見るといっそうアブナイ絵面だな、これ)」
しばらく小狼の外套の中を探っていたファイがスッと一枚の羽根を取り出した。
「これ。記憶のカケラだねぇ、その子の」
紋様の入った美しい羽根。それが一つだけ、小狼に引っかかっていたという。
「(……うまいな)」
羽根はファイの手を離れサクラの中へ消えていった。
「体が……暖かくなった」
腕の中のぬくもりに小狼はほっと安堵した。
「今の羽根がなかったら、ちょっと危なかったね――――」
「おれの服に偶然引っかかってたから……」
「この世に偶然なんてない」
静かな部屋にファイの声が通る。
「――ってあの魔女さんが言ってたでしょー。だからね、この羽根も君がきっと無意識に捕まえたんだよ。その子を助けるために」
そう、偶然などではないのだ。
「――なんてねー。よくわかんないんだけどねー。ねー蘭ちゃん?」
真面目に話していたかと思えば、またすぐにへらりと笑う。
「(……ほんと、困ったもんだなこの人は)……なんで私に振るの?」
「なんとなくー?」
ファイの変わり身に他の二人は困惑気味だ。
「けどこれからはどうやって探そうかねー、羽根。もう服にはくっついてないみたいだしねぇ」
「は――いはいはいっ。モコナ分かる!」
ファイの腕をよじ登ったモコナが元気よく手を上げた。
「今の羽根、すごく強い波動を出してる。だから、近くなったら分かる。波動をキャッチしたら――」
小狼の膝に飛び移ったモコがくるくると上機嫌に回転し、
「モコナこんな感じに」
めきょ
「なる」
「げっ!」
「――。」
モコナの糸のような目が大きく開かれ、先程までの姿とはまるで異なる印象の外見になった。黒鋼は驚きのあまり声を上げ、最も近くで目の当たりにした小狼は固まってしまっている。蘭も驚きはしたが、わずかに肩を揺らすだけにとどめた。ファイだけは変わらず笑顔で、驚いているのかの判断は付かない。
「(……直で見ると分かっててもちょっと怖いな、めきょ。)」
「だったらいけるかもしれないねー。近くになればモコナが感知してくれるなら」
羽根探しに光明が差す脇で、先程の“めきょ”が相当の衝撃だったらしい黒鋼は壁に手をつき胸を押さえている。モコナのあの、可愛らしさからは些か離れた表情を前触れもなく見たのであれば、心拍の上昇も否めない。
「……大丈夫?」
あまりの様子に蘭は思わずそっと声をかけた。
「……ああ」
「――そう」
彼の様子から大事なしと判断したらしい蘭はふっと目元を緩めた。黒鋼は少し目を見開いていたが、すぐに視線をそらした蘭はそれに気付いていない。
近くに羽根があったら教えて欲しいと頼む小狼に、モコナはまかしとけ! と力強くポスッと胸であろう場所を叩いた。
「……ありがとう」
「おまえらが羽根を探そうが探すまいが勝手だがな」
不意に黒鋼が口を開き、全員が彼の方へ視線を向けた。
「俺にゃぁ関係ねぇぞ。俺は、自分がいた世界に帰る、それだけが目的だ。おまえ達の事情に首を突っ込むつもりも、手伝うつもりも、全くねぇ」
そんな黒鋼の言葉に小狼は真剣な表情で頷いた。
「はい。これはおれの問題だから。迷惑かけないように気を付けます」
その反応は想定外だったらしい黒鋼は驚いた表所を見せた。
「あはははは――――。真面目なんだねぇ、小狼くんー」
「ちっ」
肩透かしを食らった黒鋼は小さく舌打ちをした。
「そっちはどうなんだ」
「んん?」
「そのガキ、手伝ってやるってか?」
「ん――そうだねぇ」
話を振られたファイは思案する素振りを見せる。
「とりあえず、オレは元いた世界に戻らないことが一番大事なことだからなぁ。ま、命に関わらない程度のことならやるよー。他にやることもないし。蘭ちゃんはー?」
「え?」
「小狼君の羽根探しのお手伝い」
「――そう、だね。私の願いはすぐに叶うものでもないし、“私にできる範囲”でなら、手伝わせてもらおうかな」
大したことはできないと思うけど。と付け足して少し困ったように笑う蘭。彼女は正直気が気でなった。“遅い”のだ。
〝ところで。我はそろそろ喋っても良いのか〟
「!」
「あー……」
モコナを除く三人が蘭の方を見た。正確には、蘭の隣を。驚きを隠せない小狼が彼女の側に座るタオを指さす。
「あの、今……」
「えーっと……驚かせたよね、ごめん。いつ説明しようかと思ってたんだけど……」
唐突に第三者の声が聞こえてきたものだから、驚くのも無理はない。
「今ので分かったと思うけど、タオは只の猫じゃなくて……護衛獣?」
蘭が隣の黒猫に尋ねると、タオは所謂エジプト座りで尾を揺らす。
〝ああ、その認識で構わん〟
フスン、とタオが息を吐く音が聞こえた。
「まぁ詳しく話そうとすると長くなるから、また機会があればゆっくり話すよ。――とりあえず、貴方達への害は無い筈だから」
「……分かりました」
護衛獣というには随分と大きな態度について三者思うところはあったが、この場で追及する者はいなかった。
「よう!」
カチャッと音を立て扉が開き、一組の男女が部屋に入ってきた。二人の姿を見た蘭はほっと胸をなでおろした。
「目ぇ覚めたか! んな警戒せんでええって。侑子さんとこから来たんやろ」
「ゆうこさん?」
「あの魔女の姉ちゃんのことや。次元の魔女とか極東の魔女とか色々呼ばれとるな」
男女はそれぞれ茶菓子と湯飲みを乗せたお盆を持っていたが、女性は盆を男性に預け、押し入れから掛け布団を取り出し小狼に手渡した。
「これを」
「あ! ありがとうございます」
小狼はさっそく受け取った布団をサクの身体にかける。
男女は“有栖川空汰”、“嵐”と名乗った。空汰は嵐について「わいの愛する奥さん、ハニーやから。そこんとこ心に刻みまくっといてくれ」と付け足していたが、当の嵐はそれを全く意に介さず無視し、彼に預けていた盆を取り上げ皆に湯飲みを配っていた。その間も空汰は彼女と結婚できた幸せを一人噛みしめている。
「つーわけで。ハニーに手ぇ出したら、ぶっ殺すでっ」
語尾にハートを付ける勢いで、にこやかに黒鋼の両肩にぽんと手を置いた。
「なんで俺だけにいうんだよ‼」
「ノリやノリ」
ノリは命や! と笑う空汰と共にモコナも飛び跳ねて踊っている。
「でも本気やぞ!」
そう言って振り向いた彼はこれ以上ないようないい笑顔で親指を立てていた。
「出さねぇっつの‼」
ひとしきり賑やかし、さて、と空汰は本題に移る。
「とりあえずあの魔女の姉ちゃんにこれ、あずかって来たんやな」
空汰はモコナを掌に乗せ、指をさす。しゅたっと手を上げたモコナが自身のフルネームを名乗る。空汰が略称で呼んでもいいかと簡単なやり取りをした。
「事情はそこの兄ちゃんらに聞いた。主に金髪の方やけどな。黒い方は愛想無いな。ほんま」
それに対する二人からの反論はなく、想像に難くない。当時の様子を想像しながら、あのタイミングで目が覚めたのは良かったかもしれない、と蘭は思った。
「取りあえず兄ちゃんら、プチラッキーやったな」
「えーっと、どの辺が―――?」
「モコナは次に行く世界を選ばれへんねやろ?それが、一番最初の世界がココやなんて幸せ以外の何もんでもないでー」
空汰は座る彼らの間を抜け窓辺に移動した。窓の傍に座る蘭は座る位置をずらし、窓の前の空間を開ける。
「ここは」
ガラッと開けられた窓の外。そこは――。
「阪神共和国やからな」
ネオン輝く色鮮やかな街並みだった。
蘭は静かに、じっと周囲の様子に気を巡らせていた。あくまでも何もないかのように、周りに悟られないように、気配を探る。
「(……“持ってる”んだから、“コレ”が羽根の波動か。なるほどこれは強力だ。――今ならよくわかる)」
「うわっ‼」
蘭が一人思案していると、ファイがいきなり小狼の腰元をまさぐり始めた。
「なにしてんだ、てめぇ」
「…………」
その様子を目撃してしまった黒鋼と蘭は少々引き気味だ。
「(……うー……ん。間近で見るといっそうアブナイ絵面だな、これ)」
しばらく小狼の外套の中を探っていたファイがスッと一枚の羽根を取り出した。
「これ。記憶のカケラだねぇ、その子の」
紋様の入った美しい羽根。それが一つだけ、小狼に引っかかっていたという。
「(……うまいな)」
羽根はファイの手を離れサクラの中へ消えていった。
「体が……暖かくなった」
腕の中のぬくもりに小狼はほっと安堵した。
「今の羽根がなかったら、ちょっと危なかったね――――」
「おれの服に偶然引っかかってたから……」
「この世に偶然なんてない」
静かな部屋にファイの声が通る。
「――ってあの魔女さんが言ってたでしょー。だからね、この羽根も君がきっと無意識に捕まえたんだよ。その子を助けるために」
そう、偶然などではないのだ。
「――なんてねー。よくわかんないんだけどねー。ねー蘭ちゃん?」
真面目に話していたかと思えば、またすぐにへらりと笑う。
「(……ほんと、困ったもんだなこの人は)……なんで私に振るの?」
「なんとなくー?」
ファイの変わり身に他の二人は困惑気味だ。
「けどこれからはどうやって探そうかねー、羽根。もう服にはくっついてないみたいだしねぇ」
「は――いはいはいっ。モコナ分かる!」
ファイの腕をよじ登ったモコナが元気よく手を上げた。
「今の羽根、すごく強い波動を出してる。だから、近くなったら分かる。波動をキャッチしたら――」
小狼の膝に飛び移ったモコがくるくると上機嫌に回転し、
「モコナこんな感じに」
めきょ
「なる」
「げっ!」
「――。」
モコナの糸のような目が大きく開かれ、先程までの姿とはまるで異なる印象の外見になった。黒鋼は驚きのあまり声を上げ、最も近くで目の当たりにした小狼は固まってしまっている。蘭も驚きはしたが、わずかに肩を揺らすだけにとどめた。ファイだけは変わらず笑顔で、驚いているのかの判断は付かない。
「(……直で見ると分かっててもちょっと怖いな、めきょ。)」
「だったらいけるかもしれないねー。近くになればモコナが感知してくれるなら」
羽根探しに光明が差す脇で、先程の“めきょ”が相当の衝撃だったらしい黒鋼は壁に手をつき胸を押さえている。モコナのあの、可愛らしさからは些か離れた表情を前触れもなく見たのであれば、心拍の上昇も否めない。
「……大丈夫?」
あまりの様子に蘭は思わずそっと声をかけた。
「……ああ」
「――そう」
彼の様子から大事なしと判断したらしい蘭はふっと目元を緩めた。黒鋼は少し目を見開いていたが、すぐに視線をそらした蘭はそれに気付いていない。
近くに羽根があったら教えて欲しいと頼む小狼に、モコナはまかしとけ! と力強くポスッと胸であろう場所を叩いた。
「……ありがとう」
「おまえらが羽根を探そうが探すまいが勝手だがな」
不意に黒鋼が口を開き、全員が彼の方へ視線を向けた。
「俺にゃぁ関係ねぇぞ。俺は、自分がいた世界に帰る、それだけが目的だ。おまえ達の事情に首を突っ込むつもりも、手伝うつもりも、全くねぇ」
そんな黒鋼の言葉に小狼は真剣な表情で頷いた。
「はい。これはおれの問題だから。迷惑かけないように気を付けます」
その反応は想定外だったらしい黒鋼は驚いた表所を見せた。
「あはははは――――。真面目なんだねぇ、小狼くんー」
「ちっ」
肩透かしを食らった黒鋼は小さく舌打ちをした。
「そっちはどうなんだ」
「んん?」
「そのガキ、手伝ってやるってか?」
「ん――そうだねぇ」
話を振られたファイは思案する素振りを見せる。
「とりあえず、オレは元いた世界に戻らないことが一番大事なことだからなぁ。ま、命に関わらない程度のことならやるよー。他にやることもないし。蘭ちゃんはー?」
「え?」
「小狼君の羽根探しのお手伝い」
「――そう、だね。私の願いはすぐに叶うものでもないし、“私にできる範囲”でなら、手伝わせてもらおうかな」
大したことはできないと思うけど。と付け足して少し困ったように笑う蘭。彼女は正直気が気でなった。“遅い”のだ。
〝ところで。我はそろそろ喋っても良いのか〟
「!」
「あー……」
モコナを除く三人が蘭の方を見た。正確には、蘭の隣を。驚きを隠せない小狼が彼女の側に座るタオを指さす。
「あの、今……」
「えーっと……驚かせたよね、ごめん。いつ説明しようかと思ってたんだけど……」
唐突に第三者の声が聞こえてきたものだから、驚くのも無理はない。
「今ので分かったと思うけど、タオは只の猫じゃなくて……護衛獣?」
蘭が隣の黒猫に尋ねると、タオは所謂エジプト座りで尾を揺らす。
〝ああ、その認識で構わん〟
フスン、とタオが息を吐く音が聞こえた。
「まぁ詳しく話そうとすると長くなるから、また機会があればゆっくり話すよ。――とりあえず、貴方達への害は無い筈だから」
「……分かりました」
護衛獣というには随分と大きな態度について三者思うところはあったが、この場で追及する者はいなかった。
「よう!」
カチャッと音を立て扉が開き、一組の男女が部屋に入ってきた。二人の姿を見た蘭はほっと胸をなでおろした。
「目ぇ覚めたか! んな警戒せんでええって。侑子さんとこから来たんやろ」
「ゆうこさん?」
「あの魔女の姉ちゃんのことや。次元の魔女とか極東の魔女とか色々呼ばれとるな」
男女はそれぞれ茶菓子と湯飲みを乗せたお盆を持っていたが、女性は盆を男性に預け、押し入れから掛け布団を取り出し小狼に手渡した。
「これを」
「あ! ありがとうございます」
小狼はさっそく受け取った布団をサクの身体にかける。
男女は“有栖川空汰”、“嵐”と名乗った。空汰は嵐について「わいの愛する奥さん、ハニーやから。そこんとこ心に刻みまくっといてくれ」と付け足していたが、当の嵐はそれを全く意に介さず無視し、彼に預けていた盆を取り上げ皆に湯飲みを配っていた。その間も空汰は彼女と結婚できた幸せを一人噛みしめている。
「つーわけで。ハニーに手ぇ出したら、ぶっ殺すでっ」
語尾にハートを付ける勢いで、にこやかに黒鋼の両肩にぽんと手を置いた。
「なんで俺だけにいうんだよ‼」
「ノリやノリ」
ノリは命や! と笑う空汰と共にモコナも飛び跳ねて踊っている。
「でも本気やぞ!」
そう言って振り向いた彼はこれ以上ないようないい笑顔で親指を立てていた。
「出さねぇっつの‼」
ひとしきり賑やかし、さて、と空汰は本題に移る。
「とりあえずあの魔女の姉ちゃんにこれ、あずかって来たんやな」
空汰はモコナを掌に乗せ、指をさす。しゅたっと手を上げたモコナが自身のフルネームを名乗る。空汰が略称で呼んでもいいかと簡単なやり取りをした。
「事情はそこの兄ちゃんらに聞いた。主に金髪の方やけどな。黒い方は愛想無いな。ほんま」
それに対する二人からの反論はなく、想像に難くない。当時の様子を想像しながら、あのタイミングで目が覚めたのは良かったかもしれない、と蘭は思った。
「取りあえず兄ちゃんら、プチラッキーやったな」
「えーっと、どの辺が―――?」
「モコナは次に行く世界を選ばれへんねやろ?それが、一番最初の世界がココやなんて幸せ以外の何もんでもないでー」
空汰は座る彼らの間を抜け窓辺に移動した。窓の傍に座る蘭は座る位置をずらし、窓の前の空間を開ける。
「ここは」
ガラッと開けられた窓の外。そこは――。
「阪神共和国やからな」
ネオン輝く色鮮やかな街並みだった。