Chapter.2
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意識が浮上してくる。それと共に感じる居心地の悪さに身じろいで目を開けた。
「……ん……?」
「ぷう、みたいな」
視界いっぱいの白くて丸い物体。
なるほど、居心地の悪さは胸元に乗っていたこの物体のせいであった。
「……みたいなは、いらないでしょ……」
はっきりと覚醒していない意識の中で、蘭は必死に頭を働かせ、記憶を辿り、覇気のない声で目の前の物体に突っ込みを入れた。
「(突っ込まないと泣いちゃうし、いいよね? これくらい)」
「わーい! ツっこんでくれたー!」
物体――モコナはタオルを手に持ったまま、蘭の上でくるくると踊っている。
「(喜んでる……) えーと……私のこと拭いてくれたの?」
「ふいたよー」
タオルを振ってアピールするモコナを持ち上げ、蘭は体を起こした。慣れない次元移動で頭が少しふらつくが、それ以外の不調はない。雨の雫もモコナによって拭き取られ、身体が冷えるということはなさそうだ。
「ありがとう。私の方はもう大丈夫だから、あっちの彼のお手伝いしてあげてくれる?」
「はーい!」
素直な子供のように元気な返事をして、モコナは“あっちの彼”の元へぴょーんと跳ねていった。
蘭は少しばかり乱れた衣服を整え座り直した。まだ少し頭が重い。
ぼんやりと座る彼女を心配してずっとそばで様子を見ていたタオが膝に前足を乗せる。蘭は少し目を細め、大丈夫だと答える代わりにその頭から背中にかけて優しく撫でていた。
ちらと周りの様子をうかがう限り、どうやら彼女が“知っている”時間よりも早いタイミングのようだった。
おそらくは四畳半、板張りの個所と玄関部分を含めれば六畳ほどはあるだろうか、畳敷きの一室。襖がある。部屋の中央に敷かれた布団に小狼とサクラが寝かされていた。蘭がいたのは窓の下。畳の上に直接転がっていたが、幸いにも顔に痕は付かなかったようだ。
「さくら‼」
突然の声に思わず蘭の視線がそちらへ向く。小狼が目を覚ましたのだとすぐに分かった。
「ぷう、みたいな」
モコナは小狼に蘭の時と同様に“ぷう”を行う。目覚めた直後の小狼は状況の把握も出来ず目をぱちくりさせていた。求めていた反応を返してもらえなかったモコナはしくしくと泣き出した。
「(やっぱり泣くのか。――さっきのは“正解”だったかな)」
「あ―― 目覚めたみたいだねぇ」
小狼のそばに座っていたファイが泣いているモコナをヒョイと持ち上げなだめるように頭を撫でた。
意識の覚醒した小狼はサクラの名を叫び勢いよく起き上がった。彼女は変わらず、彼の腕の中にいた。小狼はその身体をギュッと抱きしめる。
「一応拭いたんだけど。雨でぬれてたから」
「モコナも拭いた――!」
モコナがファイの膝の上でほめてーと踊る。
「寝ながらでもその子のこと絶対話さなかったんだよ。君――えっと……」
「小狼です」
「こっちは名前長いんだー。ファイでいいよー」
二人が互いに名乗りあっている最中、モコナがファイの足からぴょんと降りた。その動きを蘭は無意識のうちに目で追っていた。
「で、そっちの黒いのはなんて呼ぼうか――」
「黒いのじゃねぇ! 黒鋼だっ!」
「くろがねねー。くろちゃんとかー? くろりんとかー?」
ファイが黒鋼のあだ名を並べている間に、ぴょんぴょん跳ねていたモコナが黒鋼の胡坐にすっぽり収まった。
「うわっ おいてめっ! 何膝のってんだ!」
一連の様子をまるでコントのようだと眺めていた蘭にファイが声をかける。
「それから君は――蘭ちゃん、でいいのかなー。ほったらかしにしちゃってごめんねー。気分はどう?」
口元を覆うように巻いたストールが緩められ、蘭の素顔が彼らの前に晒される。
「気分や体調は何とも。――八代蘭といいます。私のことは好きに呼んでもらって構いません。それと、こっちの黒猫はタオ――」
そこで蘭は、三人が彼女に視線を向けたまま固まっていることに気が付いた。驚きと、困惑と、また別の感情が少しずつ混ざった表情で。
「……? 何か?」
「――ううん、なんでもないよー。よろしくねー、蘭ちゃん」
ファイはすぐにへらりとした笑顔を戻した。小狼もなんでもありませんと答え、黒鋼は何も言わなかった。
「それから――そんなに硬くならなくてもいいよー。もっと楽にしゃべってほしいなー」
「……そう? なら、そうさせてもらうけど……そっちも、好きなようにしてもらっていいから。――よろしく」
室内の全員に向け、蘭はそう言った。
彼らとの交流の仕方を悩んでいた蘭にとってこれはありがたいことだった。これで、気を張らなければいけないことが一つ減る。
「……ん……?」
「ぷう、みたいな」
視界いっぱいの白くて丸い物体。
なるほど、居心地の悪さは胸元に乗っていたこの物体のせいであった。
「……みたいなは、いらないでしょ……」
はっきりと覚醒していない意識の中で、蘭は必死に頭を働かせ、記憶を辿り、覇気のない声で目の前の物体に突っ込みを入れた。
「(突っ込まないと泣いちゃうし、いいよね? これくらい)」
「わーい! ツっこんでくれたー!」
物体――モコナはタオルを手に持ったまま、蘭の上でくるくると踊っている。
「(喜んでる……) えーと……私のこと拭いてくれたの?」
「ふいたよー」
タオルを振ってアピールするモコナを持ち上げ、蘭は体を起こした。慣れない次元移動で頭が少しふらつくが、それ以外の不調はない。雨の雫もモコナによって拭き取られ、身体が冷えるということはなさそうだ。
「ありがとう。私の方はもう大丈夫だから、あっちの彼のお手伝いしてあげてくれる?」
「はーい!」
素直な子供のように元気な返事をして、モコナは“あっちの彼”の元へぴょーんと跳ねていった。
蘭は少しばかり乱れた衣服を整え座り直した。まだ少し頭が重い。
ぼんやりと座る彼女を心配してずっとそばで様子を見ていたタオが膝に前足を乗せる。蘭は少し目を細め、大丈夫だと答える代わりにその頭から背中にかけて優しく撫でていた。
ちらと周りの様子をうかがう限り、どうやら彼女が“知っている”時間よりも早いタイミングのようだった。
おそらくは四畳半、板張りの個所と玄関部分を含めれば六畳ほどはあるだろうか、畳敷きの一室。襖がある。部屋の中央に敷かれた布団に小狼とサクラが寝かされていた。蘭がいたのは窓の下。畳の上に直接転がっていたが、幸いにも顔に痕は付かなかったようだ。
「さくら‼」
突然の声に思わず蘭の視線がそちらへ向く。小狼が目を覚ましたのだとすぐに分かった。
「ぷう、みたいな」
モコナは小狼に蘭の時と同様に“ぷう”を行う。目覚めた直後の小狼は状況の把握も出来ず目をぱちくりさせていた。求めていた反応を返してもらえなかったモコナはしくしくと泣き出した。
「(やっぱり泣くのか。――さっきのは“正解”だったかな)」
「あ―― 目覚めたみたいだねぇ」
小狼のそばに座っていたファイが泣いているモコナをヒョイと持ち上げなだめるように頭を撫でた。
意識の覚醒した小狼はサクラの名を叫び勢いよく起き上がった。彼女は変わらず、彼の腕の中にいた。小狼はその身体をギュッと抱きしめる。
「一応拭いたんだけど。雨でぬれてたから」
「モコナも拭いた――!」
モコナがファイの膝の上でほめてーと踊る。
「寝ながらでもその子のこと絶対話さなかったんだよ。君――えっと……」
「小狼です」
「こっちは名前長いんだー。ファイでいいよー」
二人が互いに名乗りあっている最中、モコナがファイの足からぴょんと降りた。その動きを蘭は無意識のうちに目で追っていた。
「で、そっちの黒いのはなんて呼ぼうか――」
「黒いのじゃねぇ! 黒鋼だっ!」
「くろがねねー。くろちゃんとかー? くろりんとかー?」
ファイが黒鋼のあだ名を並べている間に、ぴょんぴょん跳ねていたモコナが黒鋼の胡坐にすっぽり収まった。
「うわっ おいてめっ! 何膝のってんだ!」
一連の様子をまるでコントのようだと眺めていた蘭にファイが声をかける。
「それから君は――蘭ちゃん、でいいのかなー。ほったらかしにしちゃってごめんねー。気分はどう?」
口元を覆うように巻いたストールが緩められ、蘭の素顔が彼らの前に晒される。
「気分や体調は何とも。――八代蘭といいます。私のことは好きに呼んでもらって構いません。それと、こっちの黒猫はタオ――」
そこで蘭は、三人が彼女に視線を向けたまま固まっていることに気が付いた。驚きと、困惑と、また別の感情が少しずつ混ざった表情で。
「……? 何か?」
「――ううん、なんでもないよー。よろしくねー、蘭ちゃん」
ファイはすぐにへらりとした笑顔を戻した。小狼もなんでもありませんと答え、黒鋼は何も言わなかった。
「それから――そんなに硬くならなくてもいいよー。もっと楽にしゃべってほしいなー」
「……そう? なら、そうさせてもらうけど……そっちも、好きなようにしてもらっていいから。――よろしく」
室内の全員に向け、蘭はそう言った。
彼らとの交流の仕方を悩んでいた蘭にとってこれはありがたいことだった。これで、気を張らなければいけないことが一つ減る。