Chapter.1
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次元の魔女は彼らの願いを諮る。
「その願い、あなた達が持つもっとも価値のあるものでも払いきれるものではないわ」
小狼の顔が悔しそうに歪み、俯いた。
「けれど、あなた達三人とこの子が一緒に払うのならぎりぎりって所かしら」
侑子はちらりと蘭を見る。
彼女の言葉に小狼ははっと顔を上げた。
「なにいってんだ、てめー?」
「おーい。ちょい静かに頼むよぉ、そこの黒いの」
「黒いのじゃねー! 黒鋼だっつの‼」
“黒いの”呼ばわりされた黒鋼がファイに怒鳴る。が、ファイは耳を塞いで反対側へふいと顔を逸らした。効果はないようだ。
「(もうコントだよね、アレ。初対面で普通ああなるか? ……ヤバイにやけそう。しっかりしろ。そういうのはナシって決めたじゃないか)」
騒ぐ心を落ち着けるため、蘭は一人目を閉じた。
「あなた達四人の願いは同じなのよ」
小狼――その子飛び散った記憶を集めるために色んな世界に行きたい
黒鋼――この異世界から元の世界に行きたい
ファイ――元の世界へ戻りたくないから他の世界へ行きたい
蘭――預かっているものを返すために別の世界へ行きたい
スッと美しい紫(アメジスト)の瞳が開かれた。宿る輝きが光る。
侑子の言った蘭の願いは彼女の願いの一側面に過ぎない。願いの本質は別にある。しかしそれが他の誰かに告げられることはない。
「目的は違うけど手段は一緒。ようは違う次元、異世界に行きたいの。ひとりずつではその願い、かなえることはできないけれど、四人一緒に行くのなら、ひとつの願いに四人分の対価ってことでOKしてもいいわ」
「俺の対価ってなんだよ」
「その刀」
「なっ!」
黒鋼は手にしている抜かれたままの刀を庇うように侑子から遠ざけた。
「銀龍はぜってー渡さねぇぞっ‼」
「いいわよ。そのかわり、そのコスプレな格好でこの世界を歩きまわって、銃刀法違反で警察に捕まったりテレビに取材されたりするがいいわ」
「あ? けいさ? てれ?」
聞いたこともない単語を並べられ、黒鋼は理解が追い付いていないようだ。
「(……頭の上に“?”が見える……。マジで困惑してるじゃん。かわいそ)」
「今、あなた達がいるこの世界には、あたし以外に異世界へ人を渡らせるものはいないから」
「んなデタラメ!」
「本当だぞー」
ファイから投げかけられた一言にぴくっと反応する黒鋼。世界を渡る術を得られなくなることは、彼にとって現状最も重要なことだ。
「おい、マジかよ⁈」
黒鋼は“蘭”にそれを訊ねた。
「――! ……気の毒、だけど」
必死に冷静を装い、暴れる心臓を落ち着けるため呼吸を繰り返す。
「(なんで……ダメだよ、ファイに聞かないと)」
予期せぬ事態に蘭は気が気でなかったが、彼女の心情などお構いなしに話は進む。
「どうするの?」
そう尋ねつつも手を差し出している侑子。選択肢など初めから無かったのだ。
「くっそー! 絶対“呪”を解かせたらまた戻って来てとりかえすからな!」
黒鋼は銀龍を鞘に納め、バッと侑子に向け突き出した。銀龍はふわりと浮き、そのまま侑子の手元に浮かぶ。
次に対価を払うのは、ファイ。
「あなたの対価は、そのイレズミ」
侑子は静かにファイに告げる。己の対価を告げられたファイから一瞬笑みが消える。だがすぐにまたへらっとした笑みを見せた。
「この杖じゃダメですかねぇ」
そう言って所持している杖を指した。
「だめよ。言ったでしょ。対価はもっとも価値のあるものをって」
ファイは被っていたコートのフードを外した。彼の金の髪を雨が激しく打つ。
「仕方ない、ですねぇ」
諦めたように笑う彼の背からスゥっと模様が浮かび上がる。背中を覆うほどのイレズミが、銀龍と同様、侑子の手の上に浮かんだ。
最後は、小狼。
侑子は小狼の前に立ち、改めて問いかける。
「あなたはどう? 自分の一番大切なものをあたしに差し出して、異世界に行く方法を手に入れる?」
「はい」
「あなたの対価が何か、まだ言ってないのに?」
「はい」
「あたしが出来るのは異世界へ行く手助けだけ。その子の記憶のカケラを探すのはあなたが自分でやらなきゃならないのよ」
「……はい」
はっきりと答えた小狼の瞳は、揺るぎないものだった。
「……いい覚悟だわ」
「その願い、あなた達が持つもっとも価値のあるものでも払いきれるものではないわ」
小狼の顔が悔しそうに歪み、俯いた。
「けれど、あなた達三人とこの子が一緒に払うのならぎりぎりって所かしら」
侑子はちらりと蘭を見る。
彼女の言葉に小狼ははっと顔を上げた。
「なにいってんだ、てめー?」
「おーい。ちょい静かに頼むよぉ、そこの黒いの」
「黒いのじゃねー! 黒鋼だっつの‼」
“黒いの”呼ばわりされた黒鋼がファイに怒鳴る。が、ファイは耳を塞いで反対側へふいと顔を逸らした。効果はないようだ。
「(もうコントだよね、アレ。初対面で普通ああなるか? ……ヤバイにやけそう。しっかりしろ。そういうのはナシって決めたじゃないか)」
騒ぐ心を落ち着けるため、蘭は一人目を閉じた。
「あなた達四人の願いは同じなのよ」
小狼――その子飛び散った記憶を集めるために色んな世界に行きたい
黒鋼――この異世界から元の世界に行きたい
ファイ――元の世界へ戻りたくないから他の世界へ行きたい
蘭――預かっているものを返すために別の世界へ行きたい
スッと美しい紫(アメジスト)の瞳が開かれた。宿る輝きが光る。
侑子の言った蘭の願いは彼女の願いの一側面に過ぎない。願いの本質は別にある。しかしそれが他の誰かに告げられることはない。
「目的は違うけど手段は一緒。ようは違う次元、異世界に行きたいの。ひとりずつではその願い、かなえることはできないけれど、四人一緒に行くのなら、ひとつの願いに四人分の対価ってことでOKしてもいいわ」
「俺の対価ってなんだよ」
「その刀」
「なっ!」
黒鋼は手にしている抜かれたままの刀を庇うように侑子から遠ざけた。
「銀龍はぜってー渡さねぇぞっ‼」
「いいわよ。そのかわり、そのコスプレな格好でこの世界を歩きまわって、銃刀法違反で警察に捕まったりテレビに取材されたりするがいいわ」
「あ? けいさ? てれ?」
聞いたこともない単語を並べられ、黒鋼は理解が追い付いていないようだ。
「(……頭の上に“?”が見える……。マジで困惑してるじゃん。かわいそ)」
「今、あなた達がいるこの世界には、あたし以外に異世界へ人を渡らせるものはいないから」
「んなデタラメ!」
「本当だぞー」
ファイから投げかけられた一言にぴくっと反応する黒鋼。世界を渡る術を得られなくなることは、彼にとって現状最も重要なことだ。
「おい、マジかよ⁈」
黒鋼は“蘭”にそれを訊ねた。
「――! ……気の毒、だけど」
必死に冷静を装い、暴れる心臓を落ち着けるため呼吸を繰り返す。
「(なんで……ダメだよ、ファイに聞かないと)」
予期せぬ事態に蘭は気が気でなかったが、彼女の心情などお構いなしに話は進む。
「どうするの?」
そう尋ねつつも手を差し出している侑子。選択肢など初めから無かったのだ。
「くっそー! 絶対“呪”を解かせたらまた戻って来てとりかえすからな!」
黒鋼は銀龍を鞘に納め、バッと侑子に向け突き出した。銀龍はふわりと浮き、そのまま侑子の手元に浮かぶ。
次に対価を払うのは、ファイ。
「あなたの対価は、そのイレズミ」
侑子は静かにファイに告げる。己の対価を告げられたファイから一瞬笑みが消える。だがすぐにまたへらっとした笑みを見せた。
「この杖じゃダメですかねぇ」
そう言って所持している杖を指した。
「だめよ。言ったでしょ。対価はもっとも価値のあるものをって」
ファイは被っていたコートのフードを外した。彼の金の髪を雨が激しく打つ。
「仕方ない、ですねぇ」
諦めたように笑う彼の背からスゥっと模様が浮かび上がる。背中を覆うほどのイレズミが、銀龍と同様、侑子の手の上に浮かんだ。
最後は、小狼。
侑子は小狼の前に立ち、改めて問いかける。
「あなたはどう? 自分の一番大切なものをあたしに差し出して、異世界に行く方法を手に入れる?」
「はい」
「あなたの対価が何か、まだ言ってないのに?」
「はい」
「あたしが出来るのは異世界へ行く手助けだけ。その子の記憶のカケラを探すのはあなたが自分でやらなきゃならないのよ」
「……はい」
はっきりと答えた小狼の瞳は、揺るぎないものだった。
「……いい覚悟だわ」