Chapter.1
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身支度を整えた蘭は庭へ向かい廊下を歩く。
天気雨だった空はいつの間にか雲が覆い、雫も本格的に降り出していた。
庭にはすでに侑子と四月一日が立っていた。
「遅くなってすみません」
「大丈夫よ。間に合って良かったわね」
「ええ、本当に」
「蘭ちゃん、その恰好……」
四月一日は蘭の姿に驚いた。普段の彼女は髪を結い袴を着用しており、今のように髪を下した洋装の出で立ちを見るのは初めてだった。
「そっか、こういう服装見せるの初めてだっけ。変じゃない?」
「変じゃないよ! 似合ってると思う」
「ありがと」
蘭は柔らかく笑み、首に巻いたストールで口元を隠した。彼女の肩にタオが飛び乗る。
静かに深呼をし、侑子の後方で『彼ら』の到着を待った。
じきにキィィィイ、と耳に障る高音が辺りに響いた。
「……来たわ」
侑子が見上げた空が歪み、捻じれ、垂れるように降りてきた。それが弾けると、少女を抱きかかえた少年が現れる。
「あなたが……次元の魔女ですか⁈」
少年が必死の様子で侑子に問う。
「そうとも呼ばれているわね」
「さくらを、助けてください!」
一層強く訴える彼の腕の中の少女からは生気が感じられない。
「その子の名前はさくら(サクラ)というのね」
「はい」
「あなたは?」
「小狼です」
彼の心情を考えれば、冷静さを失ていてもおかしくはないが、しかし小狼は侑子からの問いにしっかりと返答する。
瞼を閉じたまま全く動かないサクラの額に侑子が手をかざす。
「この子は、大切なものをなくしたのね」
「……はい」
「そして……それはいろんな世界(セカイ)に飛び散ってしまった」
侑子は続けて、このままではサクラは死ぬと告げた。その言葉に、小狼はきつく目を閉じ、サクラを強く抱きしめる。
「――――」
その様子を蘭とタオは黙って見つめていた。だがその理由は、双方異なる。
タオはただただ状況を見ているだけだ。しかし蘭は、この状況を『知っている』。これから起こることも、その先も。彼女はただ、その通りになって欲しいと願い、その為に、口を開かず立っている。
「四月一日。宝物庫に行って来て。取って来て欲しいものがあるの」
「は、はいっ!」
四月一日がマルとモロに手を引かれ、屋敷の中へ向かう。その背中へ視線を向けながら、蘭にわずかながら寂しさが沸く。『分かって』いたとしても、いざ別れが近いと思うと哀しくなるものだった。
「(……あ)」
――キイィィィィィ
「……来たわね」
小狼の時と同様に、彼の左右の空間がそれぞれ下と上から歪曲し、青年が二人現れた。二人の姿は対照的で、言うなれば黒と白。体勢も態度も対局で――。
「てめぇ、誰だ?」
「貴方が次元の魔女ですかー?」
しかし発言のタイミングだけは、ぴたりと一致した。
「(こうも見事にカブるもんかね)」
どちらも意図していなかった状況に、男たちは互いに視線を向ける。片方は睨み、片方は驚いていた。
「先に名乗りなさいな」
侑子は淡々と二人を促す。
「俺ぁ黒鋼。つか、ここどこだよ」
黒鋼は周囲にそびえるビルを妙な建物、と不思議そうに見上げる。
「日本よ」
「ああ? 俺がいた国も日本だぜ」
「それとは違う日本」
侑子が簡易な説明を伝えるが、彼には何のことかさっぱり分からないと言う。
「(普通に考えてそうだよね。突然そう言われても理解できるわけない)」
侑子はもう一人と向き合う。
「あなたは……」
「セレス国の魔術師(ウィザード)、ファイ・D・フローライトです――」
ファイは、スッと恭しく一礼した。
「(紳士的、いや、王子様的、か?)」
「ここがどこだか知ってる?」
「え―― 相応の対価を払えば願いを叶えてくれる所だと」
「その通りよ。さて、あなた達がここに来たということは、何か願いがあるということ」
「元いた所へ今すぐ帰せ」
「元いた所にだけは帰りたくありません」
再び重なった二人の声。しかしその内容はものの見事に正反対だった。それが気に入らなかったのか黒鋼がファイをギロっと睨んだ。睨まれた当のファイは特に気にした様子はないが。
「それはまた難題ね、二人とも。いいえ“四人”とも、かしら」
「……」
侑子の言葉に、蘭はわずかに眉を寄せた。分かってはいたが、これは『違う』のだ。
天気雨だった空はいつの間にか雲が覆い、雫も本格的に降り出していた。
庭にはすでに侑子と四月一日が立っていた。
「遅くなってすみません」
「大丈夫よ。間に合って良かったわね」
「ええ、本当に」
「蘭ちゃん、その恰好……」
四月一日は蘭の姿に驚いた。普段の彼女は髪を結い袴を着用しており、今のように髪を下した洋装の出で立ちを見るのは初めてだった。
「そっか、こういう服装見せるの初めてだっけ。変じゃない?」
「変じゃないよ! 似合ってると思う」
「ありがと」
蘭は柔らかく笑み、首に巻いたストールで口元を隠した。彼女の肩にタオが飛び乗る。
静かに深呼をし、侑子の後方で『彼ら』の到着を待った。
じきにキィィィイ、と耳に障る高音が辺りに響いた。
「……来たわ」
侑子が見上げた空が歪み、捻じれ、垂れるように降りてきた。それが弾けると、少女を抱きかかえた少年が現れる。
「あなたが……次元の魔女ですか⁈」
少年が必死の様子で侑子に問う。
「そうとも呼ばれているわね」
「さくらを、助けてください!」
一層強く訴える彼の腕の中の少女からは生気が感じられない。
「その子の名前はさくら(サクラ)というのね」
「はい」
「あなたは?」
「小狼です」
彼の心情を考えれば、冷静さを失ていてもおかしくはないが、しかし小狼は侑子からの問いにしっかりと返答する。
瞼を閉じたまま全く動かないサクラの額に侑子が手をかざす。
「この子は、大切なものをなくしたのね」
「……はい」
「そして……それはいろんな世界(セカイ)に飛び散ってしまった」
侑子は続けて、このままではサクラは死ぬと告げた。その言葉に、小狼はきつく目を閉じ、サクラを強く抱きしめる。
「――――」
その様子を蘭とタオは黙って見つめていた。だがその理由は、双方異なる。
タオはただただ状況を見ているだけだ。しかし蘭は、この状況を『知っている』。これから起こることも、その先も。彼女はただ、その通りになって欲しいと願い、その為に、口を開かず立っている。
「四月一日。宝物庫に行って来て。取って来て欲しいものがあるの」
「は、はいっ!」
四月一日がマルとモロに手を引かれ、屋敷の中へ向かう。その背中へ視線を向けながら、蘭にわずかながら寂しさが沸く。『分かって』いたとしても、いざ別れが近いと思うと哀しくなるものだった。
「(……あ)」
――キイィィィィィ
「……来たわね」
小狼の時と同様に、彼の左右の空間がそれぞれ下と上から歪曲し、青年が二人現れた。二人の姿は対照的で、言うなれば黒と白。体勢も態度も対局で――。
「てめぇ、誰だ?」
「貴方が次元の魔女ですかー?」
しかし発言のタイミングだけは、ぴたりと一致した。
「(こうも見事にカブるもんかね)」
どちらも意図していなかった状況に、男たちは互いに視線を向ける。片方は睨み、片方は驚いていた。
「先に名乗りなさいな」
侑子は淡々と二人を促す。
「俺ぁ黒鋼。つか、ここどこだよ」
黒鋼は周囲にそびえるビルを妙な建物、と不思議そうに見上げる。
「日本よ」
「ああ? 俺がいた国も日本だぜ」
「それとは違う日本」
侑子が簡易な説明を伝えるが、彼には何のことかさっぱり分からないと言う。
「(普通に考えてそうだよね。突然そう言われても理解できるわけない)」
侑子はもう一人と向き合う。
「あなたは……」
「セレス国の魔術師(ウィザード)、ファイ・D・フローライトです――」
ファイは、スッと恭しく一礼した。
「(紳士的、いや、王子様的、か?)」
「ここがどこだか知ってる?」
「え―― 相応の対価を払えば願いを叶えてくれる所だと」
「その通りよ。さて、あなた達がここに来たということは、何か願いがあるということ」
「元いた所へ今すぐ帰せ」
「元いた所にだけは帰りたくありません」
再び重なった二人の声。しかしその内容はものの見事に正反対だった。それが気に入らなかったのか黒鋼がファイをギロっと睨んだ。睨まれた当のファイは特に気にした様子はないが。
「それはまた難題ね、二人とも。いいえ“四人”とも、かしら」
「……」
侑子の言葉に、蘭はわずかに眉を寄せた。分かってはいたが、これは『違う』のだ。