hpmi
雨の日は憂鬱だ。店の花の管理も気紛れな天候の都合で行わないとだし客数も減ってしまう。元々あまり客の少ないパッとしない店だけど誰だって雨の日が苦手だと思うし雨の日が嬉しいと感じるのは少数だと思うのだ。今日は土砂降りだ。人は殆ど来ないし傘をさしてる人も通りであまり見掛けない。そういう時期だから仕方ないかと店内で今度町内で配る花の籠を作っていたら外で雨音では無い物音がして店の扉前に移動する。扉外に誰かいる気配がして扉をそっと開けて見てみればずぶ濡れの男性が店前でしゃがみ込んでいる。大丈夫ですかと声を掛けるとその男性は俺の知り合いの山田一郎くんだという事が分かった。額に手が触れて熱があるのを悟ってこのままではいられないと一郎くんを店の中へと入れた。
店の上階にある住居で一郎くんに何とか風呂に入って貰って寝かして看病すること数時間。店はもう閉めたし花と片付けたからやる事といったら一郎くんの看病か夕飯作りかなんだけど俺はいつも近所の弁当を買って済ませているから作った事は滅多に無い。でもお粥の一つでも作ってあげた方がいいよなと台所に行こうとすると「夏実」と声を掛けられる。振り向くと一郎くんが起き上がっていた。
「店の前で倒れるからびっくりしちゃったよ」
「…わりぃな。面倒掛けて」
「気にしない。あ、俺今からお粥作ろうと思ってたんだけど久し振りだから味の調整が上手くいかなかったらごめん」
何だか元気の無い疲労気味の一郎くんに出来るだけ笑い掛けて言葉を掛けると一郎くんはやっと笑って「何でもいいよ。夏実のだったら」と言って前髪を掻き上げる。一々ドキドキしてしまう。
「何で俺の所に来ようと思ったの」
「…何でだろな。凄ぇ会いたくなった」
「分からないのに会いたくなったの?」
「あまり追求しないでくれ」
お粥を作ると言っておきながらも一郎くんの戸惑う表情が放っておけなくて傍まで寄ってしゃがむと一郎くんは俺の顔を見て綺麗なオッドアイに思わず目線を逸らしてしまいそうになる。その一瞬に一郎くんは俺の腕を掴んで引き寄せてくる。それに咄嗟に身動いで拒んでしまうと一郎くんはパッと手を離して更に我に戻るような表情をする。今、俺を抱き寄せようとしたのかキスしようとしたのか。分からないけどこの人といると何だか心がざわついてしまう。それに。
「…わりぃ」
「俺は」
上手く言えずに二人言葉が詰まってしまうと一郎くんは俯いたまま顔を掌で覆い拭う。俺はその動作を横に半ば逃げるようにして台所へと行く。行く際に一郎くんの一瞬見えた表情が何だか切なかった。
***
朝になると一郎くんは解熱剤を飲んだのもあってすっかり熱が下がった。俺に一言礼を言って外に出ようと店まで降りて扉に手を掛けようとするけど外に誰かいるのに二人気付く。その人物が左馬刻くんだと分かると扉が外から大きく開き左馬刻くんは一郎くんの手を強く掴む。
「テメェなァ!何未練たらしく通ってんだクソが!」
「クソじゃねぇよ」
「…一夜を共にしてどうだったよ」
一郎くんが左馬刻くんと目を合わす。その少し虚ろな瞳に左馬刻くんはハッと笑って「惚けてるだけで手は出せねぇか」と言う。それに一郎くんは左馬刻くんから視線を逸らして店の奥のレジ前にいる俺の方を振り返り見ようとする。けどその動作の前に左馬刻くんが一郎くんの顎を掴んで唇を重ねた。一郎くんは左馬刻くんの胸を押して退かすとここからでも分かるくらい動揺している。
「おら、帰んぞ」
左馬刻くんの手が一郎くんの腕を掴むと引っ張って店から二人出て行ってしまう。左馬刻くんの付き添い人が運転している車が店の前に停まっててそれに一郎くんを左馬刻くんが押し込めると二人を乗せて車は発進して遠ざかっていった。
「………」
この気持ちは何だろう。俺が拒んだのが全てこうなる結果だったのか。でも左馬刻くんが此方に一瞬見せた表情が勝ち誇ったもののように見えて自分のちっぽけさと虚しさと悔しさで一杯だった。
(25.07.03)
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