hpmi
春季の授業も終えて学校も夏季休暇に入り今年も萬屋の仕事尽くしなのかなと思っていたらずっと連絡のとれなかった未夏さんと連絡がつき何処か出掛けようかという話になった。前に未夏さんが話して行きたがってたステンドグラス堂に行こうかと提案してみれば了承のメールの返事が返ってくる。そうと決まったら萬屋の仕事も一日休み貰わなくちゃいけないなと前日に張り切って仕事をこなした。
出掛ける当日になると玄関で靴を選んでる俺に三郎が傍まで寄ってきて「デートじゃないんだろ」と生意気な事を聞いてくる。
「お前にはまだ早いよなこういうのは」
生意気には生意気で返してやれば三郎は俺を横に押しやって自分の靴を出すと扉を開けてそれを履いて外に出て行った。扉が閉まり足音が遠ざかっていく。ホントこういうとこ可愛くねぇ。
靴選びに時間を掛けても仕方ないとこれだと思う靴を決めて兄ちゃんに一言告げて外へと出て彼女の待ってる目的地へと向かった。
***
ステンドグラス堂は思ってたより広い展示館でもなかった。中程くらい。博物館とかと比べると結構こじんまりとしてる。レンガの洋風の建物を見上げて中へと入り入場券を買って館内への入場許可を貰う。
入って直ぐに鮮やかなこの館内の中央に位置する大きなステンドグラスかあってそれに目を奪われる。隣にいる未夏さんもその作品を見上げていて暫く言葉無く見入っていれば隣から「綺麗」と言葉が紡がれる。
「こんなに色んな色が出せるんだなぁ」
「しかも細部まで良く出来てる」
「美術品とか見るの好きなの?」
「好きだけど、知識は殆ど無いよ。行くのも見るのも…趣味というか」
見事な作品を見上げたまま呟く未夏さんの横顔を見つめていると此方に急に向いて目が合いそうになる。変に緊張してしまっている俺に未夏さんは「緊張してるの?」と心を見透かすように言う。
「えっと…そうじゃないと、いうか」
「さっきから目合わせてくれない」
「それは」
やり取りをしながら次のステンドグラスを見に歩み出す。中央の作品を囲むようにして展示されてるそれらも色彩が鮮やかで美しく細かく作り上げられている作品達を見ていく。その間も会話は続く。
「自然体じゃ難しいよね。私じゃ」
「そんな事無い、って」
「…私に話したい事あるってメールで言ってたね。それって何?」
少し暗めの通路に差し掛かり通りながら壁にずらりとあるステンドグラスの作品達を見て未夏さんとの会話がさっきから上手くいってない事に気付く。きっとずっと会ってなかったからだろうか。それともまだそういう間柄になりきれてないからか。
天使が三人いるステンドグラスの前で立ち止まる。言いたい事はちゃんとある。けど何故か上手く言葉に出来ない自分がもどかしい。それでもここで口ごもっても意味ないと決心して口を開く。
「俺…未夏姉のことが」
言葉にしようとして口元に細い指先が添えられる。その動作にいきなりで驚いたけど言葉を途中で止められて少し納得がいかない。
「ごめんね。私…そうは見えないかもしれないけど、重い病気なの」
「…ぇ」
「二ヶ月後に手術で本当は外に出ちゃ駄目なんだけど… 難しいの」
難しいと言葉にして無理して笑ってるように見える未夏姉。俺はそんな大事な事何で言ってくれなかったんだと口に出そうとして止める。
「キミに到底どうする事も出来ない問題だよ」
「俺…これからも未夏姉のこと護ってくよ…だから」
「ごめんね。分かって欲しいの」
はっきりときっぱり言い切るように言葉にしてしまう彼女に俺は感極まって涙が溢れ出てくる。ステンドグラスを見上げていた未夏姉がそれを見てハンドバッグからハンカチを取り出す。それで俺の目元を拭おうと手を伸ばす。けど触れる事なく俯く。
「…本当に難しいのか」
「難しいよ」
未夏姉が俺にハンカチをそっと手渡して微笑み掛けてくれる。儚げに。
「連れてきてくれて有難うね。話せて良かった」
この優しい笑顔がこれから先見れるかどうかが分からないなんて、今は感情が纏まらなくて悲観的に考えたくなかった。
***
家に帰ると帰りを待っていてくれていたのか兄ちゃんに一番にその事を話した。そうしたら兄ちゃんはやっぱりびっくりしていたけど沈黙の後に「手術上手くいくといいな」と呟く。
俺は鞄から小袋を取り出す。ステンドグラス堂の近くの店で購入したものだ。ステンドグラス調のネックレスだった。
「未夏さんと買ったのか?」
「ううん。…一人で買ったよ」
ネックレスを透かして見てみれば未夏さんと見た天使達がこの作品にもいるような気がした。
「俺、今日の事は忘れないよ。ずっと…覚えてる」
言葉にしてまた溢れそうな涙を堪えて彼女の明るい未来を唯願った。
(25.06.18)
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