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三連休を使って行われるサッカー部の強化合宿に参加し当日になる。合宿場に向かうバスの中で一時間程過ごして隣席に座る東雲を見れば、目を閉じていてどうやら朝方だというのに眠ってしまったようだった。俺等の席の横の席からポッキーチョコの箱がまわってきてそれを受け取って一本頂くと、ポッキーを渡してくれた友人が東雲が眠った事に気付く。


「眠っちゃった感じ?」
「これからハードな合宿が始まるから休める時にって事だろ」


膝掛けに使っていた毛布を東雲に掛けてやる。東雲の奴はマイペースだがちゃんとやる事全てが無駄な事は無くて。だから今も休む時は休むやる時はやるというスイッチの切り替えが出来ているんだろう。一眠りして起きたらやる事のノルマがあるのは皆分かっているしバスの中でずっと騒いでいる部員達とは違うって事なんだろうな。
持ってきていたイヤホンを耳に入れる。自分の好きな曲を流しながら俺もうたた寝を始めた。



***



合宿一日目のプランは思っていた通りのハードさだった。ほぼ筋トレでボールに触れる時間が無いような一日だったけど明日からは思い切り特別な広いコートでボールを扱える。そう思うと今日の大変さはどこ吹く風なのかもしれない。
夕食時間になり宿に戻って来れば宿主の人達が大量におかずやご飯を作ってくれていた。素朴な家庭料理で好みな物が沢山あって何杯でも飯が進むけど隣の彼はその比じゃなかった。東雲は俺の倍は食べて誰よりもおかずとご飯をおかわりしに行った。それに単純に驚いていると食べる事に集中していた東雲が此方を不思議そうに向く。俺は自分の皿の上の唐揚げを分けてやる。


「いっぱい食って力つけろ」
「ふ」
「あ?何」
「だってさ、ジロちゃんと東雲。親子みたいで」


俺と東雲の向かいの席に座ってた友人は俺等が親子みたいなのがツボだったらしく茶碗を手に笑いを堪えている。それに東雲は食べる手を止めて友人を細目で見据える。何となくだが東雲が言いたい事は分かっていた。でもそれをきょとんとしている友人に教えてやる事などせず俺は小さく笑って食事を再開した。

合宿の部屋決めは初めから決まっていた。東雲と同部屋で、気の合わない先輩とじゃなくて良かったなんてちょっと安心して二人で風呂に入って部屋に帰ってきた頃にはもう眠る支度をする。さっき廊下で朝からバカ騒ぎしている先輩部員達が先生に叱られていたけどそういうのをしないのが東雲だ。俺は恋バナで駄弁らないかと誘われたが少しテンションの高い先輩とその手の話をするのは面倒だったので断って自席に戻って明日も早いし床につく事にした。布団が既に敷いてあってそれに東雲と二人で横になると歯磨きも終えて眠る準備万全な東雲の横顔を見る。薄暗い室内のぼんやりと点いている天井の就寝モードの灯りから東雲へと視線を戻す。


「もう寝たか?」


東雲がもぞと動いて俺の方に視線を向けているのに気付いて俺も彼の方へと向き顔はよく見えないが身体を隣り合わせにする。


「さっきのダチの言葉だけど」
「………」
「親子じゃ不満?」


返事が返ってこない。それは予想していたけどきっとあまりこれといって何時ものように表情を見せないのだろうけど暗闇の中だとお互いの顔が見えなくて寂しくもあり、普段言えない事を言いたい事を言えた。


「あの状況で付き合ってる事言えないじゃん。分かってるだろ」
「…そうだけど」


仰向けになると川の音が聞こえる。眠るには丁度良いくらいのチルな自然音。


「東雲といると好きなサッカー心から楽しめるんだ」
「………」
「上手い奴が傍にいると自分もこうなりたいって思うつーか」
「大袈裟だ」
「東雲がサッカーしてるとこ見てるのも一緒に側でボール追い掛けるのも好きだ」
「俺は?」


思いもよらない言葉が、思いもよらないタイミングで出てきた。それに俺は一瞬どう返していいか上手く言えず言葉に詰まってしまう。何でこういう時に言えないのか、自分が分からなくなるけど。柔く笑む。それに東雲も特にこれ以上追求しない雰囲気になる。


「明日はもっとハードになるらしい。頑張ろうぜ」


頑張ろうと言葉を掛ければ、東雲の俺への言葉はそこで途切れた。静かな寝息が聞こえてくる。
月を覆っていた雲が動き月明かりが東雲の横顔を照らす。その顔立ちを見つめながら「こんなに好きなのにな」と誰に言う事もなく消え入りそうな声で呟いた。




(25.04.24)



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