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春季になると桜の開花に合わせて桜並木の側では祭りでよく見かける出店などが出される。そこで屋台の一つを手伝って欲しいと萬屋に依頼がきて張り切って早朝から赴いたものの思っていたより出店してる屋台の店が多く、人の活気や多さに驚いていると依頼主の男性は今年は賑やかになるみたいだから頑張ろうなと声を掛けてくれる。俺らの担当してる店はタコ焼き屋で一度本場のタコ焼作りを目の前にした事があるからか何とかなるんじゃないかと意気込んで自分達の店となる屋台に入る。だがタコ焼き器の台を前にして立ち、そこから見える前方の屋台が同じタコ焼き屋であるのに気付きそこにいる屋台主を見てみれば左馬刻だった。偶然というのも今までの此奴との遭遇率を考えればあまりおかしくなく、左馬刻の傍にはヤクザの師弟が二人。どうも左馬刻達のシマで夏祭りで何時も出してる面子もいるらしくそれがすぐ見える位置にいるというのに気付いて二人目を見合わせる。俺が声を出すよりも先に二郎がマジかよと呟く。左馬刻は俺らを見て台上に片腕を置いて少し身を乗り出し寄り掛かって不適に笑む。


「タコ焼き屋ってんでどこのライバル出店かと思いきやお前らかよ」
「それは此方の台詞だ」
「タコ焼きの何たるかも知らねぇでこの春祭りに出るたぁ良い度胸だな」


やはりというか予想通りの反応と言葉が返ってくる。小馬鹿にされているのは分かる。分かるがここで何時ものように突っかかって返してたんじゃ埒が明かないし開店までの時間が無駄になる。俺はそれ以上左馬刻と言い合いでバトルするのは止めてタコ焼き作りのセッティングに取り掛かる。二郎と三郎が心配そうに手を動かしながら此方を伺っている。


「兄ちゃん、俺ら…大丈夫かな」
「大丈夫だ。タコ焼き作りはやった事はあるから作り方の知識が無いわけじゃない」


そうだ、そもそも依頼主の男性も俺のタコ焼き作りを見たことがあるからわざわざ依頼して来てくれたんだ。ここで弱気になってちゃいけない。予め用意してきたタコ焼きの具材や一式をしっかり用意してスタンバイしているとぞろぞろと客が集まり出す。頃合いを見計らってタコ焼きを作り始めると近くのクレープ屋から俺らの方に顔を覗かせに来た客がほぼ出来上がってるタコ焼きをチラと見て買うのかなと思ったが向かいの左馬刻の所も気になるようで覗いて結局そっちの方に行ってしまう。それが続きに続いて次第に左馬刻の方の店に客列が出来始める。


「何だよ…これじゃあ」
「一兄…」


弟達の表情が心配気なものへ変化していき俺は気を取られて焦げそうになったりタイミングを失い冷めきってしまいそうになるタコ焼きを見て一度考える。左馬刻の人気度もあるのだろうがあいつの作るタコ焼きが熟練の腕によるものだというのが一番の問題だった。熟してきた数が違う。手際の良さや出来上がりの品がありのままによく見える屋台では此奴と競っても勝ち目が無いのは分かっている。
人が落ち着いてきた所で買われる事無く冷めたタコ焼きを見下ろしてる俺に「おい」と左馬刻から声が掛かる。


「今更逃げらんねェぞ。どうする」
「………」


逃げるつもりは無い。けど逃げたくもなる程の実力の差を思い知ってしまっただけだ。これがラップなら、なんて甘い考えが過るが今はタコ焼き勝負だ。ここで折れるわけにはいかないのに。思い悩んでる俺にまた次の客波が押し寄せる。半ばトラウマになりつつある客の素っ気なさを更に味わう事になるだろうと構えていると俺らの屋台の前に一人の女性が来て「下さい」と一言注文してくれる。顔を上げて客の顔を見れば俺の知り合いの未夏だった。すると屋台でタコ焼きを売っていた左馬刻が何故か機嫌を悪くし始める。


「んでそっち行くんだよ。手前の女だからって理由か?」
「そうじゃないの。一郎の作ったタコ焼きが食べたいだけ」
「あ?!」
「ちょっと?アンタの彼女も此処にいるんですけど?隣の芝は青いってやつやめてよね」


どうやら未夏と未夏の姉の左馬刻の彼女の未実さんと二人で来たようで未実さんは左馬刻の店に行ったが未夏が俺の方に来たのが気に食わないようだった。俺はタコ焼きを未夏に手渡すと未夏は優しく微笑む。


「勝負じゃないって思えば、楽しく作れるでしょ?」
「……」
「頑張ってね」


手を振って未夏は未実さんを連れて他の屋台の周回に行く。左馬刻は未実さんが言ってたように一人でも俺らの方に客が興味を示して取られた事に腹を立てているようだったが左馬刻自身もそれくらいで大人気無いとは思っているのか自分の店のタコ焼き作りに集中する。
一息ついて手を止めて並木道の桜を見る。こんなに綺麗に立派に咲けているのに俺らが火花を散らしていたら台無しだと思い俺は数少ない注文してくれた客の接客を始めた。



(25.04.07)


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