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学校で同学年で友人の如月が萬屋ヤマダの事務所に来ると聞いて事務所前で待っていると如月がいるのに気付いて駆け寄る。つい最近卒業式を終えて学舎から巣立った俺達はここ暫くはメールでやり取りし合っていたが如月が会いたいと言ってきて会う事になった。
如月を中に通してやろうとすると車が停まっているのに気付く。その車の運転席から顔を覗かせて会釈する俺等より歳上の男の人。如月に誰かと聞くと兄だそうだった。
「今から海行かないか?」
「え。海?」
「前から行きたかったんだ。ジロちゃんと」
ワン!と車から犬が乗っていたのか後席から此方も顔を覗かせて一声吠える。如月のとこの犬か。犬種はゴールデンレトリバーかな。俺は事務所の外に出てきた兄ちゃんの方に振り向く。兄ちゃんは笑顔で「今日ですよね。連れて行ってやって下さい」と伝える。兄ちゃんには事前に話していたようで如月兄と兄ちゃんが少し話してから如月は車に俺を押し込む。車の中へ入ると犬が俺の上に乗っかってきて匂いを嗅いでくる。擽ったくて身を捩る。そうして車は発進して兄ちゃんが手を振るのを見送り隣に座ってる如月に何故海に行く事にしたのか兄ちゃんに言って俺に言わなかったのかを尋ねてみる。
「ジロちゃんに言ってもよかったんだけどほら、前日に楽しみ過ぎて風邪引くと思って」
「おい」
「冗談。…あ、海に行こうと思ったのは本当だから」
ちなみにお泊まりとかじゃないからねと付け加えて言う如月。俺は膝の上のゴロゴロと転がって人懐こい身を寄せてくる犬の頭を撫でてやる。名前は?と如月に聞く。
「ジロウ」
「おい、冗談だろ…」
「はは!ミヤマルって呼んでる」
何処かの武士みたいな名前だなと思いながら車は高速に入る。ETCレーンを通って直に加速する車。朝早かったからちょっと眠くて目を擦ると如月は「まだ全然着かないからちょっと寝れば?」と気遣ってくれる。俺は言葉に甘えて目を瞑ろうとするとワンと耳元で吠えられ目を開ける。一気に目が覚醒して如月が笑い出す。これじゃあ眠れないな。まあ人の車に乗せて貰っておいて眠るのも気が引けるし。
車は高速車道を駆け抜け車内ではアップテンポの音楽がかかってる。如月が俺の手を握ってくる。声を出しそうになったが当の本人は悪戯っぽく笑っていてその手が頰に上ってきてぐいと掴まれて引き寄せられるとキスされそうになる。けど前から咳払いがして手が緩んで俺は如月から離れる。
「お前のその癖は何とかならないのか」
「兄貴は運転してろよ」
「誰の為に海まで走らせてると思ってる」
如月兄と如月のやり取りを初めて聞いて俺は一人硬直してしまう。如月と学生時代は何時もこうだった。如月が隙あらば俺にアプローチしてきてそれに軽く受け流す日々。でも卒業した今は少しくらいならそのスキンシップも受けてもいいのかもしれないと思ったが、やっぱり人前なので難しかった。
そうしてトイレ休憩や昼食も途中挟みながら目的地の海までやっと着くと車扉を開けて大人しかったミヤマルが先に出て俺も如月も砂浜を歩く。穏やかな海では人が殆どおらず、もう少し先の方ではカップルや家族が楽しそうにはしゃいでいるのが分かる。如月兄は少し寝ると言って全く海には出ずに車内で休み始める。ミヤマルが嬉しそうに砂浜を駆け回り足跡をつけていき波が直ぐにその足跡を上書きしていく。俺は暫く如月と何を話すでも無く、歩いたり立ち止まって海を眺めていたりする。
如月は学校では生徒会長をやっていた。忙しそうな規則正しい生活を送っていたようだがそれが終わった今ではどういう心境なのか。聞いてみようと口を開くが躊躇ってしまう。
「二郎」
いきなり名前呼びされて動揺してしまう。何時もはジロちゃん呼びだから。何を話し出すんだろうと向き合うと如月は笑って「留学するんだ」と言い出す。それに少し考えて俺なりの感想を口にする。
「それは、自分がやりたいから行くのか?」
「ああ。…親とも話し合って決めたんだ。結果的に俺が進むべき道は俺の未来に繋がってるから」
まだ若い方なのに今から如月の未来計画はしっかり立ててあるようだった。自分の為なら、それで丸く収まってしまうのだろうか。ずっと家族と自分との関係で留学について悩んでいたのは何となく知っていたから。如月は海風で靡く前髪を抑えてはにかんで笑む。
「だから、絶対またいつか何処かで会おうな…二郎」
俺を見た如月の表情はどこか前に進む決心と切なさを含んでいた。海猫が頭上を横切り飛んで鳴く。如月の元に駆け寄ってきたミヤマルを撫でて如月は今度何時見れるか分からない笑顔を俺に向けるのだった。
(25.04.03)
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