hpmi
不思議な体験をしたと濃く感じるのは大体は夢の中だ。夢というのはその人の思考から記憶を辿って現れるものだと勝手に思っている。中でも未来を見る夢というのは特に自分が見たい夢の一つで誰でも普通に考えつくものだ。だが一番厄介なのは記憶を辿って形になる悪夢というやつだ。自分はどちらかというと夢見の悪い方では無いと思っていたがそうでは無かったようで。夢を夢と感じる感覚は中々分からないものだが今見てる夢は確実に俺に良いものを見せるものとは言い難いものだった。
海底の中で一人、何もない暗い深海に一人でいる。そこに漂うようにいて夢だというのにリアルに息苦しさがあった。それは孤独でいる不安感かそれとも何かがこれから来るという恐怖からか、分からないが俺は自分が何処にいるのかどうなっているのか前も後ろも分からない状況で自分の心の中で戦っている。
不意に兄の事が頭に浮かんだ。そうしたら声が聞こえてきたのだ。嘲笑うような声だった。そこで自分に対して言ってるものでは無い事が分かった。それが唯、怖かった。
(手が)
差し伸べられる。何処からか現れた光の帯の掌に俺は手を重ねようとして。でも何故だがその手を引っ込めた。得体の知れない神々しささえあるその手に縋り付く事すら止めて。寧ろその方に行っては駄目だと俺の心の中が警告している。
「!!」
意識が現実に戻ってくる。まだ覚束ない思考。現実に戻る事が出来て心から安堵してしまっている。髪を掻き上げて荒い息と変に汗ばんでる首元を撫ぜて枕元の充電中のスマホを手に取る。着信メールが二つ。二つとも乱数からで午前三時と七時のメールだった。こんな時間に乱数も徹夜でデザイン作りの締め切り間近だなと理解しててメール文を開いて見てみる。
『幻太郎起きてる?変な時間にごめんね』
『おはよ!今から電話してもいーい?』
メールの内容は何時もと変わらないものなのに今は凄く癒しの効果があって自分がさっきまで見ていた世界から脱出出来て本当に良かったと思える程何処か満たされていた。でも今から電話か。もう三十分程経っているが出るだろうか。そう思いながら、いいですよと返信すると乱数は本当に直ぐに出てしまった。
「おはよ。まだ目冴えてないでしょ」
「そうですね、多少は」
「今日何の日か知ってる?誰かさんのお誕生日なんだけど」
「はて…誰でしょうね」
乱数の小さく笑う声が聞こえて俺は汗で少し濡れた着心地の悪い不快な寝着の上から手で触れて吐息のような声を出すと「幻太郎」と紡ぐ声。
「お誕生日おめでとう。好きだよ」
誕生日のワードを聞いて壁のカレンダーを見ようと思ったが部屋の中が暗くて文字が見えずスマホを耳から離して画面上の時刻と日付を見る。…そうか四月に入ったのだ。今日は俺の誕生日だ。
「エイプリルフールでもこれはマジだからね」
「…それは嬉しい限りですね」
「幻太郎?」
「はい」
「やっぱり直に会いに行くよ。何時行ってもいい?」
今から来て下さい、と言葉にしてしまってからじゃ遅かった。なのに流れで心に忠実に即座に言ってしまうと乱数は向こう側で驚いているのか息を詰める音。それにこれはまずいなと感じて「嘘です」と訂正すると乱数は笑い出す。
「行くよ。待っててね」
そのまま言い残して通話が切れると静寂がまた訪れる。あの温かみのある声が起きた瞬間聞けた事に安心しているのか何なのか、自分がどうしてこんなに不安で仕方ないのかも分からずに目元が濡れていて泣いているのに気付きさっきまでの恐怖が消え失せていた。
(25.03.31~04.01)
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