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駅のホームに帝統の声が響き渡る。道行く人が脚を止めて奇行に目をやっているがその予想のつかない行動に一番振り回されるのは同メンバーの私達だろう。それに素直に「おかしな人と思われて同一で見られてしまうのでやめて下さい」と伝えれば帝統は三人で分けて持っていた筈の今回の目的であるサイン会に使用する私の執筆した本の入った袋を一旦ドサリと下に置く。
「こら。丁重に扱いなさい」
「くっそぉ、何で俺だけぇ」
「そんなに言うんなら乱数のトランクケースを持ってあげたらどうですか」
「ああ?てか乱数のトランク何が入ってんだよ」
「えーと、今日の午後に着ていく服でしょ。あと明日の朝昼夕…」
乱数のトランクの中身が少しだけ公開されて聞いていた帝統の苛々が上限に達すると乱数のトランクを試しにか持ち上げてみる。けれど持ち上がらず帝統はきっぱりと「無理だな」と言い切る。乱数はそんな帝統を横に退かすと手に持ってたパンフレットを開いて駅構内を見渡す。私もパンフレットを覗き見ている傍で帝統は一人除け者にされたかのように不貞腐れながら紙袋の中の本を覗き見始める。
「これ全部サイン会に使う本だよな?」
「ええ。でもこれは既にサインの他にメッセージも書いてあるのですよ」
「返信レターの特別枠みたいなのか?」
「ボクなんか幻太郎にサイン頼むと乱数にはあげませんとか言ってくれないんだもん」
口内で転がしくわえていた飴が小さくなってきたのかガリと音が聞こえる。確かに乱数に毎回本を出す度に本にサインを書いてとせがまれるが一切書かずに毎度断っている。それを根に持っているのか今、帝統の前でも言ってきたのだろう。溜息をついて「身近だからといって」と言葉を切り出す。
「サインを何時でも書くというわけにはいかないですからね」
「幻太郎のそーゆー所ケチっぽくて」
「ケチとかではありません。手紙を下さった方にサインを書く事で心からの感謝を込めているのですよ」
乱数の表情が曇る。最後の飴玉の粒が噛み砕かれる音。帝統でもその不機嫌さが分かったのか乱数に話し掛けようとしているが乱数は荷物を引き摺るようにして先を歩き出す。待てよーと帝統がその後に続き私もその後ろについて歩みを進めた。
***
サイン会を無事終えてサイン会の主催者に指定されたホテルに着くと今日宿泊する部屋へと向かう。そこが二人部屋と一人部屋で別れる事を現地で知って取り敢えずは私が一人部屋になって帝統と乱数は二人部屋という事に決まる。賑やかなずっとポーカーをやりたがってた二人に合わせて流れてそうしたのだがいつも側にある騒がしさが無くなると部屋の中はすっかり静寂に包まれる。何もしてないのも時間の無駄なのでトランクケースの中の服を整頓していれば乱数が部屋の中に入って来る。帝統とポーカーをしていた筈なのだが聞けば帝統は疲れて寝たとのこと。乱数は俺の寝るベッドに腰掛けて脚をプラプラとさせている。
「一人で部屋にいてもつまらないんだもん」
「つまらないと申しましても…ソファーで寝るわけにもいかないでしょうし。小生は明日もありますからこのままもう寝ますよ」
「幻太郎と一緒じゃなきゃヤダ」
何処でも我儘を言う子だなと思いつつもその子供っぽい所が彼の持ち味なのだとはちゃんと分かっている。すると扉が開いて帝統が部屋の中に入って来る。どうやら起きたようで二人共、扉はノックしないらしく堂々と部屋の中に入って来てしまう。帝統はボサボサの髪を搔きながら欠伸を一つしている。
「俺がここで寝るぜ」
「え、でも」
「気にすんな。部屋があるだけでも贅沢だからな」
そう言って帝統は乱数の隣に寝そべってグウグウといびきをかいて寝てしまう。仕方なく二人で一人部屋の外へと出て二人部屋へと移動すれば扉を乱数が閉めた途端に私に抱きついてくる。腰回りに手が回ってぎゅと抱き寄せられて小動物が構って欲しそうにしてるのをイメージしてしまう。
「寝着姿初めて見たー」
「…そうでしたかね」
「ねぇ幻太郎。昼間はごめんね」
抱きついたまま甘えるように見上げてくる蒼の瞳に行き場を無くしてややその視線から逸らしがちになってしまう。
「いえ、私もサインにあんなに深く考えた事無かったので」
「そう…だよ…ね」
「…もしかして眠いのですか」
乱数のウトウトとした目を見て睡魔に襲われながらも器用な甘え方だなと思い笑ってしまう。抱きつくというよりかは寄り掛かってる乱数の頭を撫でてやる。多分もうはっきりと此方からの言葉は届かないだろう。
「今度、私からの心込めたサインを送らせて下さい」
その時が来たら、是非。…なんて夢の中へ入っていく彼に夢見させても今は意味など無いのかもしれなかった。
(25.03.06)
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