hpmi
親の反対を押し切ってこのショコラティエの仕事に就いて都会に上京してきたのは俺にとって本当に良かったのか。心の片隅には親の俺の思い切った夢語りを聞いた時のどうでも良さ気な勝手にしろとでも言いた気な表情が今でも忘れられない。決してこの道が苦じゃなかったとは言い難いけど良い事だって悪い事だって同じくらいあった。修行して店をシンジュクに出してそこで出会った人達や修行中に得たかけがけない仲間達。その人達に支えられて今の俺がいる。だからこそ続けられている。そして何より俺の心がショコラティエであり続けたいと叫んでいた。
香り高いカカオ豆から作ったホットチョコレートドリンクを俺の店の常連客にサービスで今日も提供する。飴村乱数、シブヤで彼を殆ど知らない者はいない。シブヤディビジョンの「FlingPosse」のリーダーでシブヤの人気者。ついこの前は見事決勝戦を勝ち抜き優勝を果たし今は新しく会社を起業しようと考えてるとか。よくここに話に来る客の中でも乱とはよく話す方だ。乱は自分の事も話すし、俺の事も聞いてくる。少し話した印象としては人気者になるのが頷ける程の人を見る洞察力がある事で、頭が回りこの人にはこう言うのがベストだとちゃんと一人一人見ている子だった。
乱はドリンク飲みながらシブヤでのここ最近の出来事を語る。
「でね、帝統と幻太郎ってばボクがデザインしてる服とか最初はあーでもないこーでもないって適当に言ってたのに今ではデザイン案途中の所から描いたスケブ広げて指摘してくるようになったんだ。ここはもっとこうした方が良いとかこれは却下とかはっきり言っちゃうんだもん」
「会社を立ち上げるとなると真剣にやってかないとだろ?だからだよ。金が掛かるからな、何でも」
「前は好きなよーに好きな時に考えて二人に着て貰ってたまにシブヤに出てオネーさん達に見てもらう程度だったのに」
「趣味とは違うって事だよ。乱はエンプティキャンディで元からデザイナーやってるけどさ」
カップに口つけて中から見える外のめかし込んでる女性らを目で追ってる乱を見て俺は奥でチョコ作りをしていた新人と一言言葉を交わして新人は出来たばかりのチョコをショーウィンドウに置いていく。その動作を前に新作のチョコも見つめていた乱はどうやら気になってるようだった。
「凄いね。チョコっていっても泰雅の作るのはどれも統一性が無いっていうか」
「褒めてんのかそれ」
「褒めてるよ。だって、色んな味やチョコレートデザインを作り出せるって事でしょ。それって凄い事だよ」
ドリンクを飲み終えたのかご馳走様とカップを静かに置いてペーパーで口を拭う乱。隣にいる新人から新作チョコの一つを取るように言う。新人は乱を見て丁度トレーに置いていた一つを皿によそってくれるとそれを俺は乱の手元に寄せる。
「パッションガナッシュ。情熱のチョコレート」
「食べてもいーの?」
頷くと乱は出したばかりのチョコを一口齧る。中から違うチョコの赤い層が出てきたのに驚いているようで更に真ん中の層の味に不思議そうな表情を見せる。それに「これ作んのめちゃくちゃ手間が掛かるんだ」と話す。そして他のより値段高めだろと言うと乱は残りのチョコ半欠けを見て勿体ないと感じたのか口に入れるのを戸惑っている。それに溶けるからちゃんと食べろよと言えば乱は残りも口に入れる。味わって食べてる乱を眺め来店してきた客の接客を始める新人を見守り続けていると乱は鞄の中から手作りの包箱を取り出す。
「ボクも作ってきたんだ。良かったら食べてー」
「ふ」
「え。なに、しょぼいからって…」
「違うよ。同じのをディビメンバーの仲間二人と神宮寺寂雷にもあげたんだろなって」
乱の眉が下がる。そんで続けて小さな声で「寂雷」と名を呟く。俺はそれに笑みながら包みを受け取る。
「義理でも嬉しいぜ」
「義理じゃ…」
「無理すんなって」
ちょっと目を泳がせてる乱に笑みを零して頭を撫でてやれば乱は困ったような表情をして立ち上がる。
「今年も店に寄ってくれて有難うな」
「…うん」
「誕生日おめでとう。後でケーキ焼くよ。チョコケーキ」
じゃまた後で、と伝えれば今の今までいた客と入れ替わりで新たに客が入って来る。乱は俺をもう一度見つめ返して店から出て行き、その姿がガラス窓から見えなくなるまで目で追って仕事を再開した。
(25.02.12)
実際の公式様、原作者様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。政治組織の勝手な創作物の悪用、持ち出しはお止め下さい。