hpmi
一週間前くらいからか乱数の奴がしつこく俺に付き纏ってきては俺に「何が欲しい?」とか何度も同じ事繰り返して聞いてくる。俺の欲しい物なんて大体決まってて率直に思いつく欲しい物の名を口にすればトキメキがねぇとか他に無いのかとか。じゃあ聞くなよって話だがこいつがここまで俺に執着するのもちゃんと意味があんのは知ってる。明日は七月七日。俺の誕生日。ついでに七夕。それに合わせて初の誕プレってやつを渡したいのだ。分かりやすいというより渡します宣言の主張が強くて逆に何が欲しいかと言われると自分の染み込んじまってる欲深な同じ言葉を返すのも申し訳無くなってくる。それでも今の俺にはこれしか思いつかなかった。俺には…ギャンブルしかない。ギャンブルが俺の核だ。
「だから言ってんだろ?俺は特に欲しいもんねぇんだって」
「あげたってどうせ賭事で使っちゃうでしょ?」
「まあ」
俺と同じペースに必死についていきながら隣で店のつけ麺を食べて懲りずに聞いてくる乱数に淡々と返事していれば乱数はついにキレたのか唸っては薬味をつけ麺のスープの中に全部入れて飲み干す。俺もラーメンのスープを飲み干す。今度は味噌辛にしよう。
カウンターの店員に「勘定」と言ってなけなしの金を渡す。乱数も急いでつけ麺を食べると勘定して外に出た俺の傍にぴったりとくっついてくる。
「いいからお金の事は忘れて!一日早いけどこれだけ受け取って!」
「あ?」
乱数からラッピングされた四角い本らしき物を渡される。頬を膨らまして両腰に手を当てて俺を見据えてくる。このサイズは子供の読むアレだ。絵本か?
ちょっとなめられた感がしてプレゼントから顔を上げてこっちも見つめ据えると乱数はプリプリ怒ったままちゃんと読んでねと言って夏用の上着を翻して背を向けると少し歩いて振り返り「誕プレだからね!」と続けて言う。
乱数がいなくなると今誕プレとやらを開けて見てしまおうと包み紙を開封する。表紙には俺と乱数と幻太郎らしきビジュアルのキャラクターが三人。タイトルは「ダイスくん」著者はストーリーが幻太郎、イラストは乱数で形としては出来てるがタイトルからして俺へのメッセージ感が丸出しでちょっと怖いが気になる。
1頁目から捲ってみる。子供向けのイラストだが文字も平仮名で二人に普通に馬鹿にされてる様な気がしてきた。
『シブヤには すくいようのない まっきの ギャンブラーがおりました』
本を閉じたくなる。一発目からディスり感半端ないというかなんつーか。一応俺の誕生日なんだぞ何だこの仕打ち。苛苛しながら頁を捲っていると辛口な言葉とは対にファンシーなカラフルなイラストがやけにプラスで苛々を募らせる。だが読んでいくうちに不思議とそこまで酷くないものにも思えてくる。二人の作る物に本気で敵意を見せてはいないが一頁目から疑ってしまっていたのがマジでまた申し訳無く思えてきた。
『けれどしっています。 このおバカなギャンブラーにも いいところがあるのを』
「ほうほう…アゲてきたな」
『メンバー想いで 人一倍真っ直ぐな信念を持つ 漢なのです』
平仮名から漢字に変換されてる。乱数のイラストもそれに合わせてリアルで本気出してきて変わっている。絵本が段々と成長してるみてぇじゃねぇか。なんか軽い感情では読めなくなってくる。短文で纒められているのに二人が俺を少しずつ認めてるみてぇなそんな感じにも似た。
ラストの頁を捲る。109の建物の後ろにかかる虹とその中で笑ってるFP三人のイラスト。そして締めくくりの幻太郎の言葉。
『乱数と幻太郎は そんな帝統の事が大好きです。これからも宜しくお願いしますね』
finと書かれた頁を閉じて俺は一息つく。絵本だが手紙の様にも捉えられる。しかもイラスト付きの文章だから読みやすい。これはディスりとかじゃなくてあいつらの特技を活かした心のこもった「贈り物」なのではないか。贈り物ってのは分かってたが読む前はここまで書かれているとは正直思わなかったんだよな。
俺は絵本を手に乱数の後を追い掛けて駆けて行く。乱数は幻太郎と合流したようで振り返って俺を見つけると驚いた顔を見せる。俺は二人に抱きつく。
「わ?!帝統、お金ならあげないよ?」
「本、サンキューな」
二人は顔を見合わせる。そして微笑むと「絵本の感想聞かせて?」と聞いてくる。それに笑い返して二人の肩を組む。
「言わせんなよ。…分かってんだろ」
俺達はまだ始まったばかりだ。FPを結成してから時は経ってるが絆はまだ他のディビより深いとは言えないのかもしれない。でもこれだけは言える。俺は二人を信じてみたい。二人とラップしてたい。もっと分かち合いたい。二人は俺達のシブヤという世界で出会ったかけがえない仲間だ。
(24.07.06)
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