hpmi


書斎に幻太郎が籠もってから結構な時間が経った。途中で休まないかと帝統が声を掛けようとしていたのを咄嗟に止める。今、彼の持続してる集中力を途切れさせるのは何となく良くないと思ったからだ。それに帝統もちゃんと理解してくれたのか頷いて居間でテレビを観に戻って行った。僕はそのまま暫く書斎の扉横に腰掛けて本を読んだり携帯をいじったりしていた。それから数十分程して扉が開く。出てきた彼を見上げると扉のすぐ横で待ち構えていた僕に幻太郎は一瞬ぎょとするが和服の袖を重ねて僕を穏やかな目で見下ろす。


「執筆終わった?」
「いえ、まだですが…一度編集者に会って話をつけてからの方がいいかと」
「ふぅん」


読んでた本を閉じる。立ち上がると中に入ってもいいかと聞く。幻太郎は喉が乾いたから水を一杯飲んできたらまた戻って来るから先に入ってて下さいと扉を入りやすいように開けてくれる。言われた通り中に入れば床に積み上がった資料や棚にはびっしりと本がある。その資料やコレクションを眺めながら仕事中の机上に目を落とす。出来上がり具合は詳しくは分からなかったけど途中でやりかけてるようだった。
中に幻太郎が戻って来る。机の前に座ってる僕の傍に来ると机の上の自分の書いた原稿用紙やPCを見て微笑する。そして書き途中の箇所を指でなぞる。


「ここにとある描写をどうしても入れたいのですが…担当してる編集者が認めてくれないんですよ」
「え。何で?だってこの文は幻太郎が書いてるものでしょ?」
「ですがあっちにもあっちの都合があるのでしょう。書き手が良くても編集側と読み手の理解が得られない。本の作成とはそういうものですよ」
「じゃあ書かない方に譲るの?」
「ここの描写を外してしまうと…私の中の作風が根底から崩れてしまう。どうしても、作風だけは壊したくない」


本の執筆から編集、出版までの道のりは長いけど出来上がるその間に色んな人が協力して製作する事になるから一人の都合で考えちゃいけないんだろうなって。デザインもそうだけど何かを作る人の葛藤が分かるから特に。でも上手くいかない、押し通らない事だってある。難しいけどね。でもそこをやりくりして何とか最後まで形にしなくちゃ。
僕は幻太郎の座ってた座布団から退いてそこに座り戻る幻太郎に出来るだけ優しく笑み掛ける。


「幻太郎の小説、ボクも今の作品のイメージが消えちゃうなら賛成はしたくないけど」
「…でもそれじゃあ形としては成り立たない」
「うん。だから…ちょっと工夫して書いてみればいいんじゃないかな。幻太郎らしい納得のいく形にしてさ」


一端にアドバイスってわけじゃないけど幻太郎は真剣に考えててそして小さく頷くと「もうちょっと頑張ってみます」と言って机に向かう。


「ボク、幻太郎の書く小説好きだよ。元気出るもんね」


そう言い残して僕の言葉に振り返ろうとする幻太郎にじゃあまた後でと部屋の外に出て扉を閉める。扉の横で僕の読んでた本を手に立ってる帝統がペラペラと中を捲る。


「何時もこんな難しそうな本読んでんだなー。そりゃあーいうリリックも出るわけか」
「幻太郎らしいリリックと文章だよ」
「リーチきまるといいんだけどな」


帝統は何でもそっちの方向の用語に変えちゃうなぁって思わず笑ってしまう。その言葉の返しに一緒に笑ってそれで「俺は乱数と幻太郎の作るもの好きだぜ。ユニークだからな」と言ってくるものだから出会う前と比べて随分と可愛気がある人物になったなぁって嬉しくなった。


(25.01.26)



実際の公式様、原作者様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。政治組織の創作物の持ち出し、悪用はお止め下さい。




55/100ページ