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仏堂の長廊下の掃除を終えて自室へと戻ろうと階段を上ろうとすると通り掛かった見習い坊主に獄達が来てる事を知らされる。あいつらとは新年の顔合わせはまだだったからここらで会って話して丁度良いからラップバトルの修行でも軽くやってやろうと獄達が待つ部屋へと行く。部屋の前に来れば獄と十四はいるのだがもう一人意外な客が来ていた。拙僧の知り合いの矢紫で片付けておいた机を広げてその上で何かをやっている。その様子を何も言わず見下ろしていると集中して作業をしていた十四が顔を上げて拙僧に気付き「あ!空却さん!」と相変わらずの声調で話し掛けてくる。


「空却さんもどうッスか?お習字」
「…どこから引っ張り出してきたんだその半紙と習字セット」
「矢紫くんが持ってきてくれたんスよ。今年の抱負とか書かないかって」


静かに墨字を書いていた矢紫が筆を硯に置いて拙僧の方を見上げる。にんまりと笑って「あけおめ」と誰よりも先に新年の挨拶をしてくる。それに十四もやっと気付いたのか挨拶を慌てて続けて言う。拙僧も獄も挨拶を交わすと十四と獄の間に移動し二人が書いてる文字を見る。それに首を捻る。


「あ?」
「も、文字が汚いとか言わないで下さいッス」
「違ぇよ。書いてる内容が意味分かんねぇんだ」
「え。でも…」


墨のついた筆を持ったまま思い切り振り返ろうとする十四から一旦離れる。それに本気でとぼけてる十四に呆れたように溜息をつく。意味分かんねぇも何も全部片仮名で「ナイトメアローズセレナーデ」とか言葉を紙一杯に書いている。習字中も無意識のうちにもう一人の方の十四にモード切り替わるってどうなんだよ。十四の事を分かってきたような気でいたが此奴はまだまだ謎が多いなと思いつつ隣の獄を見る。獄は書き終わった紙を退かして次の紙に違う文字を書こうとしている。


「お前が一番アウトだろ」
「は?何でだよ」
「金、ウィスキーって。金に酒ってとこが既にリアルな私欲なんだよ」
「そんなに言うんなら空却も何か書けって」


獄と十四の文字に文句をつけていると静かに聞いていた矢紫が顔を上げて口を挟んでくる。拙僧はそれに「やらねぇ」と言い切って立ち上がり三人が習字してる部屋から出て行く。廊下に出て一息ついていると矢紫が部屋から出て傍まで寄って来る。隣に立つ矢紫は手摺に凭れ掛かってこの場のまだ寒く冷たい気温に手を擦り合わせ白い息を吐く。


「空却の書いてるとこ見たかったな」
「それが目当てで習字道具持ってきたのは見え見えだ」
「へへ。やっぱりお見通しか」
「大体何だよ。抱負が“入賞”って。コンクールでも出んのか」
「うん。習字のね。もうすぐあんだけど…空却達に会って精神統一しようかなってのも理由なんだよな」


そんな事だろうとは思ったが。習字のコンクールか。習字に小学の頃からのめり込んでるって聞いたがここまで上の世界を目指そうとするのは見た目半端そうな此奴の事だから有り得ないと思ってた。けど…やるんだな。何かに挑戦する事は良い事だ。


「入賞なんてケチくせぇ事言ってねぇで優勝してこい」
「優勝?結構厳しい世界なんだけど…」
「山頂が高けりゃ登り甲斐がある。途中でこの程度で良いなんて甘い考えしてるなら今直ぐ止めろ」
「じゃあ俺がもし優勝したら」


付き合ってくれる?と紡がれた言葉に隣で寒そうにしてた矢紫と目を見合わせる。少し真剣そうな表情をしてる此奴に拙僧は視線を真下の庭園に戻す。


「もし、じゃ認めねぇ」
「きっびしいなぁ!」


ヘラヘラ笑う矢紫。此奴も相変わらずだけどコンクール前で色々と緊張してて拙僧や十四達と会って和んで一息つきたかったのも分かるような気がした。


「矢紫の書く字、好きだ」


小さく消え入りそうな声で呟くと矢紫はパッと顔を明るくさせ拙僧に隙あらば抱きつこうとしてくる。それからするりと抜け出て拙僧は十四達のいる部屋へと戻って行った。


(25.01.22)


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