hpmi
転校してから都会、イケブクロを離れて数年が経った。あんなにはしゃいで回った若かった日々も今は思い出のようなものだ。私にとって似合わない言葉だけどアオハルだったのは高校二年のサッカー部のマネージャーをやっていた頃だった。そこで知り合った、というか印象的で目立っていたのは山田二郎くん。彼は…とにかく人気者だった。サッカーも好きだし上手いし何より女子がいつも彼の周りに必ずいた。あんなにモテる人学校中どこ探してもいないかなってくらい。でも彼がさり気なく言っていたけど俺より兄ちゃんの方がモテるって言ってたっけな。そりゃあイケブクロディビジョンのBBのリーダーだもの。強くて実力だってある頼れる兄なんだからそうでしょと返したら顔を少し曇らせて困った様に「俺もああなりたい」と言っていたのを覚えてる。
二郎くんに憧れや悩みがあるように私にも勿論悩みがあった。転校してあっちで上手くやっていけるかってこと。だってずっと住んでた場所を離れるんだから一人で考えるには心細くて。私の転校が決まった日の放課後にそれを二郎くんに告げたら驚いた顔したけどやわらかく笑って「頑張れよ。やってけるって」と言葉を貰ったっけな。嬉しかったけどやっぱり私自身が不器用だからどうしても新しい所は不安だった。
そして今日は転校して離れたイケブクロに戻ってきた。イケブクロにまた住むってわけじゃないけど唯見に来ただけ。街の雰囲気どんな感じになったかなとかイケブクロディビジョンのBBはどうなったかなって。ちょっと歩いたけど何となく分かった。イケブクロのてっぺんは未だにBBであること。そして二郎が前よりも皆に認知されてること。真の人気者の道をまっしぐらなんだろなって立ち寄ったスーパーの萬屋ヤマダのポスターやラップバトルで活躍した記事を本屋で見て思った。
学校の近くを歩いてみる。懐かしい。色々あったな。学校も変わってないみたいだし何もかもが思い出になっちゃうのかな。そう思えて物寂しい気がして。
段々と沈みゆく夕陽を見て前へと進んでいく街中を見下して私の時間が進んでいるようでまだ止まっている事に気付いたって。
「如月?」
声がして振り返る。さっき立ち寄ったスーパーの買い物袋を持った二郎がいた。何だ、思っていたより大人びてて背丈も変わってる。きゅと喉が一瞬詰まって二郎は私の近くまで来て笑顔を向けてくれる。
「声掛けてくれりゃあいいのに」
「うん… ごめん」
「凄ぇ雰囲気変わったじゃん。…大人の女って感じ」
いや、そうでも無いよ。二郎の方がしっかりしてる感じに見える。なんて言葉が浮かぶけど言葉には出来ないし小さく下手くそな笑みをこぼすだけ。二郎は買い物袋を置くと私が眺めていた夕陽を隣で見始める。建物の間から差し込む眩しい朱い帯に目を少し細めて「陽が落ちるな」と呟く。
「この後どうする?俺達んとこ、寄ってくか?」
「え…それって萬屋?」
「そう。あ、初めてだっけか。行くの」
初めてじゃないような気がしちゃうけど、そうだね初めてだよ。私は頷かずに首を横に振る。
「また戻るんか、あっちに」
「うん。でも…またここに来てもいい?」
「いいぜ。何時でも来いよ。…待ってっから」
待ってる。その言葉でさっきまでの不安がすっと落ち着いてくる。ここ、イケブクロに未練があった訳じゃない。出て行く為に何か心の整理が必要だっただけなんだ。でももう大丈夫だと思う。私はもう前へと進まなくちゃ。彼等みたいに。
(24.10.16)
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