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十二時になったら一二三と出掛ける約束をしていた。でもついさっきSMSメールで「遅れる」と一文を貰って、予定していた時間をずらす事になってしまった。一二三の仕事は接客業だし後輩指導もあったりと忙しい。それは分かっているけど今のメール文で仕事の事は一切何も説明で書かれていなかった。もしかしたら私以外の女の子と会っているのかななんてこんな状況でも悪くとって考えてしまう私の心。どうしようもない。彼を信じていないようで。
十五時を差し掛かった所でインターホンが鳴る。一二三かと思って玄関に駆け寄って扉を開けると金髪の彼ではなく赤毛の男の人。独歩くんだ。でもどうしてこんな時間に私の家に独歩くん?不思議に思っているとちょっと伝えづらそうに彼は説明してくれる。独歩くんは今日は非番で一二三は明日の新人歓迎パーティーについての前日打ち合わせがあるとかでどうしても遅くなってしまうから代わりに一二三が来るまで様子見に来たとの事だった。そうか仕事かって納得がいって独歩くんを取り敢えず中に通してあげる。独歩くんの手に持ってる紙袋に目がいってしまって「これは?」と聞いてみる。


「これ…一二三が作ったデニッシュなんですけど。よかったら食べて下さい」
「一二三が?」
「あ、俺にじゃないです!小夜さんの為にって前日に作ってたものなんです!でも遅くなるから先に食べてて欲しいって…」


持ってきてくれたのだから多分そうなのだろうけど。それにしても私が彼を疑ってると思ってるのか凄い焦り様である。独歩くんらしいけど何時も色んな人に恐縮そうに話すのが癖なのかなって思ってしまって少し笑ってしまう。そこが彼らしくていい所ではあるのだろう。でも一二三と同居してて何時も美味しい料理を作ってもらってて羨ましいなとはやっぱり考える。このデニッシュは私の為だろうけど彼は毎日作って貰っているのだ、特等席で。
二人でリビングのテーブル席に座って彼が何もせずに私だけが食べてるだけなのもこっちも気にかかってしまうから独歩くんにも食べるよう促せば独歩くんは何故かすみませんと謝ってミートデニッシュを齧る。
そのままお互い無言が続いて喋る話題も特に見つからずおどおどし始める彼に私は小さく笑みかける。隈のついた瞳を丸くされる。


「リラックス…しよ?」
「そ、そうですね。リラックス…すみません」
「すみませんはいらないって」
「あ…はい…すみ…あ、また言っちゃった」


へへと苦笑いしてこめかみを掻く仕草をとる姿を前に彼ってあまり対人慣れしてないみたいだけど落ち着きが無くて見てる分には面白い。私も笑ってミートデニッシュを食べ終えてチェリーデニッシュに手を付けようとすると電話が鳴り出す。時計を確認する。この時間帯はあまり良くないものだと直ぐに勘が働く。独歩くんは一二三からだと思ったのか「出ますか?」と聞いてくる。


「やめた方がいい。これは」
「え」


ブツと電話コールが切れる。はあと溜息を零すと独歩くんはしんと静まってしまい少し青ざめていた。何で独歩くんがそんな顔してるの。自分の事のように。
お互い間が出来ると今度はインターホンが鳴る。ビクと彼の肩が跳ね上がる。私は玄関に駆け寄る。扉を解錠すると一二三の姿。口元を緩ませて思い切り抱きつく。


「?!一二三に抱」
「小夜ちゃん、遅くなってごめん」
「え?… え?」


一二三と抱きついたまま玄関に続いてついて来た独歩くんの混乱してる様子を見る。独歩くんは一二三が私に触れるのを平気なのを克服したのを今知ってかなり驚いていた。一二三は私をよしよしと腕の中におさめて笑顔を向ける。


「独歩、助かった!マジであんがと」
「あ…ああ」


私も「ありがとうございました」とちゃんと伝える。そうすれば彼は少しフリーズした後にやっと理解して自分の事のように微笑ましそうに笑うのだった。




(24.06.30)


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