hpmi


ここの所仕事が立て込んでいてそれを全て片付けて寄った森の中は都会の喧騒は無く静かな穏やかな時間が流れている。ここで日々のストレスから解放されて彼とずっと過ごせたらいいのに。…なんて夢見心地な感情だけがあって現実としては私は何の変哲もない営業マン。彼はヨコハマ代表の人気ラッパーMTCの一人。こんな雲泥の差がある関係に先はあるのかと不安になる時が多々ある。彼に私が相応しいのか彼にとって私は唯のお荷物なんじゃないか。他人からの見られ方や環境のせいにしてはどこかで自分の無力さを受け入れられない。何て私は酷いんだろう。弱いんだろう。分かっているのにどうして変われないんだろう。それはもっと別の…私を蝕むもう一つの自分にも関係しているように思えた。それが全部の根源とは言えないけど。見えない枷がある。

森の小道を歩いていた私を待ち構えていたのか男達数人に囲まれる。そして「お前、朔莉々那だな」と私のフルネームを声に出してくる。それだけで嫌な予感が的中してそうですなんて答えることなく睨み付ける。一番近くにいた男が私の腕を引っ掴む。


「来いよ」


その手を振り払おうと抵抗をする。この人達は私の家繋がりで何か用があって私の目の前にいるのだ。それも良くない意味で。如何にも柄の悪そうなチンピラ達に誰もついていかないし警戒しかない。捕まえた所から力が込められて痛さで身を捩り声が出そうになると、木と木の間から理鶯さんが現れる。男達がマイクを取り出す。私を掴んでいた男もマイクで戦うのに気がいって、私の手を解放しその間に逃げろと伝えようとしているのか「行け!」と理鶯さんが呼びかける。
少し進んで直ぐに振り返る。理鶯さんの周囲にいる男達は倍に数が増えていた。


「小官に用があるのだろう?」
「さあ。それはどうだろな。お前かもしれねぇし、女かもしれねぇ」


ケラケラと笑う男達。これは、多分だけどコイツらが今ここにいるのは私に関係しているからだろう。きっと理鶯さんの所に向かう途中で何とかして理鶯さんに助けを求めた場合逃げられるのを見越してラッパー達を雇ってかき集めたのだ。
まだそれが理解出来てない理鶯さんは少し片眉を上げて振り返り立ち止まってる私を見つめてくる。私の、もう一つの姿の方を知ってしまえば彼とのお付き合いはどうなるのか。何となく悟られた気がした。
理鶯さんとチンピラ達が衝突する。彼に逃げろと言われたがそうする事もせず隠れて戦闘を見ていた。その間も自分の無力さと彼にとっての迷惑な重荷だと再認識してしまう。
彼はワンバース毎に何人もの男を一度に纏めて倒していき最後の一人になると男はヒイヒイ喚きながら逃げ去って行った。そこまで時間も掛けずに全員いなくなったけど彼が無傷だったわけじゃない。彼も傷を負ってしまっていて胸を手で押さえてよろめき近くの木に寄り掛かろうと手をつく。彼の元に駆け寄る。


「理鶯さん!」
「莉々那」
「ごめんなさい私…」


ハンカチを取り出して理鶯さんの顔の傷と汗を拭おうとすると理鶯さんが私の頰に掌を添える。柔柔と撫でる優しい手付きに透き通る蒼瞳で私を映す。これが彼を不幸にしてしまうかもしれない女の姿…だと思い知る。
私は彼の手の上に手で触れてゆっくりとはがすと瞳に涙を溜めて彼から目を逸らす。


「無事…か」


理鶯さんの声も震えていた。私とこれから先の未来のビジョンが薄れて見えてこない事に対してか私に失望してか。どちらにせよ私と彼が進む道は獣道しか残されてなかった。



(24.08.28)




実際の公式様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。



20/100ページ