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空却の誕生日の一ヶ月前の事、何気なくを装って何が欲しい?と聞いてみたらパワースポットに行きたいなんて言い出した。空却の事だからそんなんだろうなとは思っていたが考えてみるとパワースポットってどういう所だろうかと疑問が浮かぶ。それだけじゃさすがに分からないし伝わらないから詳しく何処だと更に聞き出そうとすれば風船ガムを膨らましながら「滝」と言った。 


「わぁ~!凄いッスねぇ〜。マイナスイオン感じるッス!」


空却の行きたがってた滝のある側の駐車場に車を停めると本当にパワースポットなのか観光客で賑わっていた。遠出して長旅走ってきた車から出るなり十四は開放感に満たされたのか大きく伸びをして外の空気を目一杯吸い込む。一方、十四の片側から出た空却が車扉を乱雑に閉める。


「おいおい、これ借り物の車なんだぜ」
「デリケートに閉めただろが」
「どこがだ」
「あ!あっちに滝があるみたいッスよ!」


十四はテンション高めで俺の腕に腕を絡ませると「こっちこっち」と先導し出す。その後をついて来る空却は風船ガムを相変わらず噛みながら特にここに来た感動や感想を一言も発する事無く滝の見えるスポットまで三人で向かう。はしゃいでスマホで写真を撮り出す十四。空却といえばやっぱり滝を見てはいるが何もさっきから発しない。旅疲れか?と思って大丈夫かと尋ねる。


「何がだよ」
「言ってたパワースポットってここだよな?」
「ああ。間違いないぜ」
「さっきから何も言わねぇから…腹でも痛いのかと思って」


空却は手摺に凭れていた手を離すとチラと俺を見上げてくる。…特に具合が悪いとかではなさそうだ。なら何だどうしてそんな反応が薄い。いや、しみじみ鑑賞する形っていうのもあるが隣で十四がはしゃぎまくってるから余計なのか。
滝を見ていた空却が場所変えするのか観光客から離れた位置に移動して行く。人気のない道へと逸れるとそこには山奥にある如何にもな長階段があった。その段を空却は躊躇なく降りて行く。十四がええ?!と苦言を出す。


「ここ、降りるんスか!」
「待っててもいいぞ」
「い、行きます!一人にしないで」


先に降りて行った空却について行き三人で延々に続く階段を降りて行く。昔作られた感があって段に苔がついてて滑り落ちそうになる。注意して一段一段降りて行けば辿りついたそこはさっきの滝が更によく見える隠れスポットだった。十四が涼し気な水気が直ぐ近くで感じられるようになり嬉しそうな声を出してスマホをまた出し動画を撮りだす。その横で俺は滝を間近に見て口元に笑みを浮かばせている空却を見る。もしかしてさっきの大勢の観光客が気になっていたのかもしれない。


「獄、お前よぉ」
「ん?」
「最近仕事尽くめだろ」
「あ、ああ…まあな」
「たまにはこういう所来てリフレッシュすんのもイイもんだぜ」


思いもしなかった言葉が返ってきて少し戸惑う。こ何時自分が見たいからここに来たわけじゃないのか。俺にリフレッシュしてもらいたいとかそんな理由かよ。
滝を見上げる空却の赤髪を後ろから掻き撫でる。振り返るその顔を見て暫く目線を合わせると口元が笑み俺もそれにつられて笑んでしまう。


「明日からまたハードワークか?」
「ピークは過ぎそうだから、あともうちょいって所だな」
「…そうかよ」


何か言いたいんだろうがはっきりとは口に出さない。それに俺は何となくこいつは俺を気遣う感情の他に俺との時間を作りたかったからパワースポットのあるこの場所で会いたかったからかもしれないと思ってしまった。
近くに売店があったのかそこの品のぬいぐるみキーホルダーが気になってるらしい十四が俺を呼ぶ。仕方ねぇから行ってやろうとすると、空却に呼び止められる。


「連れて来てくれて……ありがとな」


滝の水飛沫音であまり聞こえなかったが口の動きで何となく分かった。俺は笑って頷く。
今日はこの後特に何処かに寄る事も無いがこいつにとってささやかな特別な日になってほしいと思った。



(24.08.21)


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