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イケブクロ内を車で周回して行うクリスマスリサイタルのイベント当日。俺の知人の朱義さんの運転で俺達を乗せたデコトラックは次の停車ポイントまで移動する。車は停車し休憩が終わったら歌うのを再開しようと水筒から家で作って持ってきた温かいスープを出して飲んで暖まる。隣でずっと車の運転をしてきた朱義さんに「すんません。運転してもらっちゃって」と伝えて朱義さんの分のスープを手渡せばそれを受け取って「別に気にすんな」と返事してくれる。
「それより今年のクリスマスは中々印象深いものになりそうだな」
「そうッスね。朱上さんも楽しめてますか?」
「楽しいぜ。お前達がいてくれるからな」
車内は暖房が効いてるが少し肌寒く冷たくなった手を擦り合わせる俺の手に朱義さんが持ってきたアイテムのホッカイロでそっと俺の手を包み込む掌。それにお互い笑い合っていると扉が開いて外にいた三郎が顔を出す。小声で「一兄ちょっと」と俺を呼んでいて何かあったのか外に出る。出た途端に目の前に今この場にいるのには有り得ない人物がいた。左馬刻。コートの両ポケットに手を突っ込み興味が無さそうなフリして俺らのBBのトラックを見つめている。左馬刻の追っかけがついてきたのかそれともブクロの人が単に左馬刻の登場に喜んでいるのか女子の高い声が周囲から上がっている。左馬刻の方のMTCもクリスマスリサイタルを今年はやるようだが今日は周回の日じゃねぇみたいだな。
「おい」
「んだよ。ブクロに何の用だ」
「これ、テメェんとこのスピーカーか?」
「あ?そうだよ何か文句あるか」
リサイタルではヒプノシスマイクを使う所と使わない所があるから車に備え付けてあるヒプノシスマイクと同じデザインのスピーカーも重要になってくる。左馬刻は俺等の使用してる車全体をチラと見てから特注したスピーカーを少し興味がありそうに見つめている。興味というよりもしかしたら唯の冷やかしかもしれないが。
「冷やかしに来たんならどっか行けよ」
「イカしてんな」
「…あ?」
吹かしてた煙草の吸い殻を持ってきた携帯灰皿でもみ消して入れている動作を見ながら左馬刻のいきなりの発言に戸惑う。でも声のトーンと言葉からしてこれは冷やかしとかじゃねぇって理解出来て俺は思わず自然にニヤけてしまう。それに左馬刻は俺を見てでかい舌打ちをする。
「何だよ、もう一回言えよバカとき」
「言うかよ!テメェんとこは音がでけぇんだよ!妨害してんじゃねェ!」
「やっぱり冷やかしに来たんだよ兄ちゃん!ブクロから出て行け狂犬!」
「お前に言われたくねぇわ」
左馬刻も舌打ちしたが横で聞いていたのか会話に入ってきた二郎もわざとらしく舌打ちする。再びポケットに手を突っ込んで視線を逸らして左馬刻は背を向けるがまた立ち止まって少しだけ振り返る。
「一々良い声しやがってクソ郎が」
「あ?」
「何でもねェよ!客待たしてんじゃねェ!何の為のリサイタルだ」
今度こそ去ってやると言いたげな背中が向いて左馬刻は女子の追っかけを引き連れていなくなってしまった。左馬刻がいなくなると嵐が去ったような静けさが戻ってくる。けど二郎は左馬刻の態度に未だに「アイツ何がしたかったんだ」と苛々しながら文句を呟く。この後のリサイタルで二郎の機嫌が悪いままだと三兄弟で全力で歌えねぇから俺は三郎と一緒に二郎を宥める為に車の中に戻る。
二郎の苛立ちが直りスープを大人しく飲んでいる横で車の中にずっといた朱義さんが「何か良い事あったか」と聞いてくる。それに俺は誤魔化すように笑ってみせる。
「敵わねぇなぁ」
「え?」
「此方の話だ」
運転席へと座る朱義さんの小さな声がここまで聞こえたような気がしたが何でもないと逆に誤魔化された。俺の笑い方を見て嬉しい感情が朱義さんに悟られたと何となく分かった。
(24.12.15)
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