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ディビジョン毎に各地でデコトラックに乗ってリサイタルライヴを催すというイベントの開催が決まり十二月に入ってからそれは行われた。俺達シンジュクディビジョン代表の麻天狼は一度頂点に立った事があるのもあってかイベント前のリサイタル情報もファンの皆の耳に素早く届いていた。ファンも多く集まってくれて車で周る度に声援を掛けてくれる。それは殆ど寂雷先生や一二三へのものだけどこういうのにはもう慣れっこだったから俺は特別に休暇を貰った今を唯、謳歌する事にする。
シンジュク内を周って二周目に突入しようという時に休憩が入り車はとある施設前に停車する。そこは一二三が予め提案していたファンの娘達へ自分の料理を振る舞う為の調理場が用意されていた。この企画を考えたのは一二三だけど最初は勇気いんなぁとか言ってたのがSNSでやってみたいと呟いた途端に物凄い速さで拡散し企画は通る事になったのだ。調理場までしっかり用意して貰って一二三の奴はやっぱり緊張してるみたいだけど今はジャケット着てるし…心配無いだろな。
列を成して一二三の料理を待ってるファンの娘達は一二三から料理を受け取る際に話し掛けている。
「凄いね一二三〜!一二三の料理食べられて幸せだよ!」
「此方こそ。子猫ちゃん達に食べて貰えて嬉しい限りだよ」
「一二三、私達この後も次の停車ポイントで待ってるからね!」
「皆でリサイタル楽しもうね!」
優しいファンの娘達の声に一二三は感動してるのか感謝の言葉を掛けている。今最初に話し掛けたファンの娘は一二三の呟きに逸早く気付いて拡散した麻天狼のファンのインフルエンサーだったと思う。自分の顔をSNSに載せているから何となく分かる。まあなんというかこういう状況を前にすると俺のさっき決めた自分なりのリサイタル休暇の心得も揺らいで崩れていくというか。改めて一二三の人気者振りには驚かされる。
ファンの娘達に料理を配るのを寂雷先生と交代して俺は一二三と二人で調理場の裏方で昼食も兼ねている自分らが作った料理を食べ始める。
「良かったな沢山集まってくれて」
「うん。レシピも料理も作った甲斐があったよな」
「ほぼ一二三と先生の二人で麻天狼が確立してるようなもんだよな。前から何となく分かってたけど…俺ってホントに使えないよな」
「何言ってんだよ独歩!独歩だってその…その」
一二三は俺のフォローに回ろうとしているのか言葉を探すけど上手く言葉に出来ないのか上向いて唸り出す。俺は笑って「無理すんなよ」と言うと一二三は眉を下げて「してないし」と返してくる。脚を伸ばしてリラックスした状態で二人分の白い息が上る。
「結成してもう何年か過ぎたけど俺達の良さもっと出したいよな〜」
「そうだな二人の良さを」
「だーかーらー!独歩も入れて三人の良さだよ!勝手に話から離脱すんなよな!」
離脱、か。確かに俺の代わりなんてその辺に一杯いるようなものだ。って、そんな事を話してるんじゃなかったな。惑う俺に一二三の意思の見える瞳が俺を射止める。一二三自身の光が強過ぎるんだよな毎度の事だけど。一二三の良さも先生の良さももう見つかってるようなものじゃないか。俯く俺に一二三は溜息をついて俺の背をポンポンと慰めるように撫でる。
すると料理を待っていたファンの列の中に飴村乱数くんがいるのに気付く。飴村くんは自分の順番が来ると料理を受け取る際に何かを手渡している。そして直ぐにどっかに行ってしまった。俺と一二三は何があったのか気になるので先生の傍へと行ってみると先生の手には先生のMCネームがプリントされた棒付きキャンディーがあった。
「お?!何これ凄!」
「麻天狼の…一部のファンの娘達の間で出回ってる食品グッズの一つだそうです」
「凄い綺麗にプリントされてますね」
「でも何で他ディビの飴村がこれ渡して来た感じ?」
寂雷先生のMCネームの「ill-DOC」の文字がプリントされたキャンディーをジッと見つめている先生。そして料理を配るのを再開しながら飴村くんとの交わされた内容を話し出す。
「そのキャンディーはシブヤで出回ってたそうですよ」
「え。マジか」
「それってその、飴村くんは怒ってたって事ですか」
「いえ。違うでしょう」
「?」
料理をよそってる先生のどこか嬉しげな横顔を見て一二三はいまいち分からないのか「え?どういう意味?」と聞いている。俺は今の先生の表情で何となく分かるような気がして色々なファンがいるなぁと思った。
(24.12.09)
実際の公式様、原作者様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。政治組織の方の創作物の悪用、持ち出しはお止め下さい。作り話です。
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