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昼頃に未夏姉が来るっていうから萬屋の仕事の内職で散らかった部屋を片付けていると丁度ドアチャイムが鳴る。一番玄関側に近い二朗が扉を開けに行ってその間に大急ぎで机の上を片付けてしまおうと一兄と手を動かす。その途端に二朗の悲鳴のような声が上がる。何してんだあいつは扉の解錠も出来ないのかと僕も玄関へと見に行けば予想しない現状を目の当たりにする。未夏姉が…特徴的なロングヘアをバッサリ切っていた。


「に、兄ちゃ、兄ちゃん!!」
「何だ、どうした二人と…も」


一兄も悲鳴を聞きつけて玄関に足早に来ると髪を切った未夏姉を見て驚愕の表情で絶句する。そんな取り乱したり硬直している俺らとは逆にすっかり涼し気になった未夏姉はちょっと頬をほんのり染めて「遅れちゃってごめんね」とか言い出す。一兄が口を手で押さえて壁に手をつく。二朗がすかさず一兄のフォローにまわり声を掛けながら背中を擦ってあげている。…取り敢えず何だか互いに誤解があるみたいだから未夏姉に家の中に上がってもらった。



***



まだ散らかってる部屋の残りの片付けを弟達に任せて俺はリビングで未夏とダイニングテーブル挟んで座りお互いに視線を合わせずに無言を保っていた。…というより何の一声で切り出せばいいか上手く声に出せずグルグルと頭を巡らせていると、未夏が弟達の方を向いたまま小さく「今日も暑いね」とさり気なく話し掛けてくる。このまま俺が何も言わないでいるのも失礼だし思った事を率直に聞いてみようと意を決して口を開く。


「髪切るのって…別れの予感ってどこかで聞いたんだけど」
「え」
「えっと…どこだったか… まあ、唯の…迷信だから」
「あ、そういうんじゃないの!」


身体全体でパタパタと焦った様子で手を動かし出してる未夏に俺は「じゃあ何で」と尋ねる。未夏は忙しくなく動かしていた両手を膝の上に落ち着かせて置いて俺をそろりと見上げる。あの長い髪を切ったからまるで別人みたいだった。


「たまには髪型変えてみようかなって。…一郎短い髪の娘の方がいいのかなって」
「それ…どこでそう思ったんだ」
「え と、何だろ。一郎の見てるラノベとかアニメとかの傾向で…えと…なんて言えばいいか…きゃ」


椅子を引いて近付き未夏が言い終わらないうちにギュと包み込むように抱きしめる。未夏は小さく声をこぼして俺にこのタイミングで急に抱きしめられたのに本当に驚いてるみたいでそれと同時にちょっと余裕の無い俺に気付いて背中を撫でてくれる。


「どの髪型も好きだ」
「ほ…ほんと?やったぁ」


嬉しそうに腕の中で紡ぐ未夏。抱きしめる力を強める。抱く力の強さで俺の彼女への愛が伝わればいいのにと…思ってしまった。


「未夏無しじゃ生きらんねぇ。それくらい…愛してる」
「ん、私もだよ」


なんだか震える声をしている俺とは逆に未夏は冷静でいて俺にこの髪型を褒めて貰ったのを素直に喜んでいるのか耳元で笑っているのが分かる。未夏と向き合うと互いにやっと目を合わせることが出来て弟達がいるってのに大胆にキスをしたりしてまた繋ぎ止め愛を確かめるように抱きしめ合っていた。



***



積み上がった本を片してる最中に兄ちゃんと未夏姉のやり取りと熱い抱擁とキスをばっちり目の前で二人で見てしまって二朗なんかはウブが極まって顔を真っ赤にして必死に他所を見るフリをしている。僕は自分の事のように安心しきってしまって本を手に未だに顔を赤くしてる二朗を見て笑う。


(前の髪も良かったけど、短いのも可愛いな)
(それ、可愛いって一兄より先に言うなよ)
(分かってるよ)
(髪に限らず外見でとらわれないで愛し合えるのって凄いよな。マジで愛じゃん)
(今更かよ。当然だろ。愛は見た目じゃないんだ)
(イイ事言うじゃん)



(24.08.11)



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