if


街の大通りから逸れた裏路地にひっそりと佇む店「ステラ」そこで僕と泰雅は働いてた。この国は反奴隷の法律なんかが甘くて一般市民でも奴隷を扱う事が許されていた。僕と泰雅はここの主人に買われてずっと彼の店を手伝ってきた。ここに売られてる物は摩訶不思議で仕入れてくる時は壊れ物だった。それらを修理して売り物にするのだけど修理するのは殆ど泰雅が行っていた。僕はせいぜい店の掃除や商品棚の整頓。たまに泰雅に修理の仕方を教わりながら一緒にやるけどそれでも泰雅と比べると能力の差は見えていた。
そんな店の殆どを担っている泰雅が何処かで店を新たに始めようとする富豪の目に留まる。彼は泰雅の才能を見抜いた様で大金を払うからどうしても泰雅をくれと言ってきたのだ。でもそれは断った。泰雅がいなくちゃここの店は成り立たないからだ。そうしたら富豪はこの店に表沙汰に証明出来ない程度の陰湿な嫌がらせをするようになった。今日も店のポストに匿名で嫌がらせの紙が入っている。店主にそれを持っていくとクシャクシャに丸めてゴミ箱へと落ちていく。


「しつこい。実にしつこいぞ。あのワシ鼻」
「あの、思ったんですけど」
「何だ」
「俺があの人の所に行って新しい奴隷をここで雇えばいいんじゃないですか」


ダンと肘掛け椅子に座っていた店主が机を両手で叩く。机の上に乗っていた小物雑貨がガタガタと揺れて一個落ちるがそれを泰雅は地に落ちる寸前で拾い受け止める。


「お前以外の他を俺が欲しがると思うか?!」
「すんません」
「それくらいお前の才能や物作りの能力に惚れ込んでいるんだ。ここまで好き勝手されて耐えてきたのにはちゃんと理由がある」
「すんません」


何時もの調子で頭を下げてばかりの泰雅に店主は少し怒った様子で呆れている。その機嫌の悪さの矛先が僕にまわってくる。店主は僕を睨み付けると「掃除は終わったか」と聞いてくる。頷くと店主は少しでもお前が役に立てばいいものをと悪態をつき始める。それに泰雅がどうしてか庇う様に反応してしまう。


「乱は関係ないですよ。これは俺と店の問題なんですから」
「関係するんだ。あまりに使えなかったらこいつの生活費と奴隷所持税が無駄に抜かれてしまう」
「でも」


鋭く言い放つ店主に僕は二人から目を逸らしてしまう。確かにそうだ。ここに置いて貰ってる以上一人分の奴隷のお金もかかってしまう。泰雅みたく泰雅の代わりに僕が使えるようになったらいいのだけどそう上手くはいかない。何だか凄く自分が思ってる以上のちっぽけな存在に思えてきて泣きたくなってくる。泰雅はそんな僕を横に見て「あの」とさっきの畏まった声とは違うトーンで発する。


「俺やっぱりここを出ます。そんで新しい奴隷をちゃんと雇って下さい」
「出来るわけないと言ってるのが聞こえなかったのか」
「堂円さん」


店主は苗字をいきなり呼ばれて一瞬固まるが真剣な泰雅の声と視線の雰囲気に押されて色々と彼自身、根を上げたのか「分かったよ」と小さく言うと深く諦めの混じった溜息をついて泰雅の頭を優しく撫でる。


「あっちで何かあったら何時でも戻って来い」
「はい。…有難う御座います」


何時もと違って優しげな店主の堂円さんに泰雅は少し泣きそうな表情で頭を下げた。

それから数日後、手続きをして泰雅がここを出ていく事が決まった日。僕は一人泰雅が教えてくれた事を思い出しながら修理をやってみているとここを出て行く直前で泰雅がこっちに来て僕の手から壊れた骨董品を手に取ってネジでちゃっちゃと目の前で直してみせる。それを見ていたらいい知れない劣等感と寂しさがわき上がる。


「新しい奴とも上手くやってけよ」
「泰雅…ボク」


涙を目に浮かべていると泰雅が僕を抱き寄せて頬に短くキスをする。抱きしめる力に思いが伝わってくるような気がした。泰雅は小さな声で「乱が心残りだよ」と囁く。そしてゆっくりと腕の力を解いて僕を真正面から見つめる。頭を優しく撫でてくれた。


「泰雅」
「今行きます」


泰雅の温もりが離れていく。泰雅の首元の何時もの首輪が外され新たな物に代わっているのに気付いて彼がここを巣立っていったのを彼の言葉と辛そうな表情と共に思い知らされてしまった。




(24.11.03)



実際の公式様、原作者様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。創作物の悪用はお止め下さい。



32/39ページ