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務めている会社で何とか有休を取ったのはいいものの特にやる事が無くて一二三にそれを相談したら俺も有休取るよと気遣ってくれた。じゃあ釣りでも行くかって毎度の流れに持っていこうとする。なのに一二三の奴意外にも遊園地に行きたいって言い出してきた。一二三が行きたい場所ならどこでもついて行くってその時は思ったけど考えてみれば一二三女性恐怖症なんだよな。ジャケット着て行くんだろうと結論に至り更に考えてずっとかしこまった一二三の方と園内周る事を想像する。あまり何時もの二人の雰囲気にならないかもしれない。でも一二三は一二三だ。ホスト時の一二三でも楽しくやっていけるだろう。

当日になると一二三は家に出た瞬間からジャケットを羽織って遊園地に電車で行った。園内は物凄い人だったけどジャケット着てるから一二三は絶好調で途中で立ち止まってカップルの女子に手なんか振っちゃったりして側にいるその娘の彼氏が一二三を暗い目で睨み付けていたけど一二三の奴ちゃんと分かってるのかな。
広い園内を一周して景色を見て周っていれば一二三は不意に立ち止まる。人気のないベンチに座りたいみたいで何とか探して近くのポップコーンワゴンでポップコーンを買ってそこで食べる事に決める。一二三はジャケットを脱ぎ出す。


「お、おい。ジャケット脱いで平気なのか?」
「いやぁー駄目っぽいけど」
「しんどいなら着ておけよ。…ほら」
「駄目。今脱がんでいつ脱ぐんだって」


俺の手からジャケットを拒んで深呼吸している一二三。これがここに来た理由だったのか?ここで恐怖症を克服する為とか?でもいきなりハードル上げ過ぎじゃないか。いくら遊園地に来たくても。
俺は誤魔化すようにポップコーンを口に詰め込んでる一二三を見て頭を撫でてやる。一二三は驚いたように此方を見て笑む。


「もぉ独歩、優しくしても何も出んぞぉ」
「一二三」
「んん?」
「楽しいか?」


一二三の金髪から手を離すと一二三はまた目を丸くする。ちょっと困った様に笑ったまま俺の背中をポンと思い切り叩いてくる。


「楽しいって。独歩ちん心配し過ぎっしょー」
「…ならいいんだ」
「独歩がいるから、楽しいんだって」


一二三と目が合い金色の瞳や表情がはにかんで笑ったからちょっとクシャってなる。それが何だか可愛くて俺も笑い返すと一二三が俺の口に一度に三つくらいポップコーン詰め込んでくる。それを飲み込んでいればいつの間にか俺ら二人の目の前に一人の女性が立っていてギョとした顔で一二三はびっくりしている。黒の前髪が伸び切っててちょっと地味めの娘で伸びた髪が余計にそうさせてしまっているんだろう。一二三はひゅと息を詰まらせる。けど女性は皆の視線の中で大胆にも思い切った様子で「ディビジョンバトル!」と声を絞り出す。


「が、頑張って下さい。お二人共応援してます!」


そう言って女性は続けて「神宮寺先生も勿論!」と伝えてくる。俺もいきなりで驚いたけど純粋なファンなんだなって気付いて有難う頑張るよと一二三と先生の代わりに返事する。女性は暗めな印象が明るい雰囲気になって会釈を深々として去って行った。肩を上げて変に構えていた一二三が椅子に座り直す。隣で冷や汗をかいてる一二三。


「ああいう娘でも駄目なのか?」
「え?」
「ああいう優しそうな娘でも…難しいかって」


一二三は思い切り困った表情で俺を見つめる。悪く言うつもりは無かった。でもラップバトルで一度麻天狼が頂点に立った事のある今ファンとの接し方も俺らにとっては問題になってくる。一二三にああしろここしろとは言ってるわけじゃないけど一二三もそこの所は分かってる筈だ。
一二三の頭をもう一度撫でてやる。一二三は背中を少し丸めて考えた後「皆良い子達だよな」と小さく言う。それから少しの間が出来て近くのアトラクションやパーク音楽が鮮明に聞こえてくる中で一二三は俺の手を柔く握る。


「独歩と…ここにどうしても来たかった」
「……」
「それが第一理由。マジで」


一二三の指先を絡め返す。お互い前を向いたままだったけど何だかその言葉が嬉しくて俺はニヤけてしまう。俺の肩に一二三の肩が触れて小突かれて「何ニヤけてんだよどぽぽ」とか言ってくる。色々と俺らの間にも麻天狼にも事情あるけど一二三を見て楽しそうなのはちゃんと伝わってきた。





(24.10.30)



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