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昨日の雨が嘘のように今日は晴れていた。ここの国民は空が気まぐれに機嫌を悪くするとそれに合わせて国中も鬱屈とした一日に変わってしまう。逆に晴れてる日には皆活気よく外に出て仕事する人もいれば親しい人とはしゃいで楽しむ人の姿もあった。空によって一日のコンディションが変わる。ここはそういう国だった。
そんな今日は調子が良いらしい晴天の昼時に私は鬱とした表情で一人家の前の石段に座りアレを待っていた。手紙。もうすぐ配達の時間だけど、もしかしたら今日はちょっと遅れるかも。昨日は配達の時間じゃなかったから配達物が多くてきっと直ぐには配りには来れないだろう。
目の前を通り過ぎて行く若いカップルを見て溜息をこぼす。幸せそうで何より。ちょっと前は目にするカップルも妬みの歪んだ目でしか見れなかった私も今はあの時よりかは落ち着いてるかも。矢紫くんと離れる事になってそれを告げられた時は取り乱してたもんなぁ。今思うと凄く自分が恥ずかしい。
溜息がまた出てしまう。目を閉じて頬杖をついて自分だけが明るい世界から切り取られてる感覚に陥りたくなくて。
私の目の前に誰かが立ち止まって見つめているのに気付く。目を開けるとここから少し離れたお寺のお坊さんの波羅夷空却くんがいた。
「お前、何を待ってんだ」
「………」
風船ガムを相変わらず膨らましていて大きく膨らんだ風船がパンと割れる。また噛み出して私の隣に座ろうとする空却くんに私はスペースを空けてあげると隣に来て薄っすらと彼の首元に汗が滲んでいるのが分かった。お寺からここまで四十分くらい掛かるし今日は暑いからだろう。でも何でわざわざ違う地区のここまで来たのだろう。
「それって意味あんのか」
「…何が」
「手紙。待つことに意味があんのかって聞いてる」
大型の空中モノレールが通り過ぎて行く。窓から観光客らしき人達が見えて箱の中はその人達で密集していた。満員モノレールってやつだ。それを空却くんも見たのか「凄ぇ数だな」と呟く。
「この街は観光地でもあるからな」
隣でガムを時には膨らまし噛みながらポツリと呟く空却くん。私は両足を纏めて身体を丸まらせ蹲る。配達員のモノクルの音がして飛び上がるように起き上がる。手紙を確認しに行くけど私の家の配達はゼロだった。肩を落として石段に座る空却くんの元まで戻って来る。空却くんは微笑したまま「残念だったな」と言う。そんな彼の横を抜けて石段を上っていく。
「…冷やかしに来たなら帰ってよ」
家の中に戻ろうとすると空却くんが立ち上がり私の手を後ろから掴む。振り返り顔を合わせると困ったような戸惑うような私の表情を見て真剣そうな眼差しが向けられる。
「もう待つのはよせ」
「やめて」
「矢紫が何を言いてぇのか…お前はもう分かってる筈だ」
空却くんの優しく諭すみたいな口調に彼の手を振り解く。そしてもう一度顔を見合わせて扉を開けて家の中に入った。窓から家の前にいる空却くんの様子を伺い見る。彼は暫くの間、扉の前にいて目を閉じて俯いていたけど長くいる事は無く石段を降りて寺院のある方向へと歩き去って行った。
彼が見えなくなるまで窓からその姿を目で追っていた。窓から清々しい程晴れている空を見上げる。一つだけ分かった事があった。私の心の空模様はもう雨ばかり降ってはいないこと。
(24.10.13)
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