if


私の住んでる村は小さな村だった。変わることのない村人達、規則正しい生活を過ごしこれといった何の特徴も無い唯の村だ。自分の住んでる村を乏している訳でも無いけど本当に何もなかった。人が生活していく為に必要最低限の施設と数少ない住居。私はこの変化のない村が嫌いではない。ただ何かこの辺りにしかないものを一つでも見つけたかった。

地理の授業中、広げていた世界地図をしまって私達の村周辺の地図を開いた。この村には何にもないが地図を見て一つだけ特異なものを見つける。村の隣にある森だ。この森はいつも霧が立ち込めていて村人はその地に踏み入らない。何故かは分からないけどあの森には何かあるのだろうか。そう考えるとグルグルと知りたい欲、好奇心に支配された。

授業が終わると直帰して親の家の手伝いをするのを破って森の入り口の前までやって来る。森には木の看板が立っていて「keep out」と書かれている。そこまで書かれてしまうともっと気になってしまうのが人間の悪い性。私は看板を無視して中に入ろうとするといつの間にか後ろにいたのか少年に話し掛けられる。


「森に入る気ですか」
「違う…けど」
「看板が読めませんか。見るからに学校の生徒なのに字も読めないなんて」


私より歳が下くらいなのに無遠慮に言葉を投げかけてくる。この子この村の子かな。そうだろうな。だってこの辺にはこの村しか無いから。私はもう一度森を見る。相変わらず霧が立ち込めていて先が見えない。


「僕なら入りませんね」
「え」
「…忠告しました」


少年はそう言うと着ている黒ローブのフードを目深に被って村の方へと行こうとする。一瞬見えた。この子オッドアイだ。蒼と翠の綺麗な色違いの瞳。この村では見かけない顔立ち。森の興味もあったが私は直ぐに森よりもこの子への興味にベクトルが変わった。村の中へと入って行こうとする少年を呼び止める。


「君、この村の子?」
「………」
「学校通ってるでしょ?どこのクラス?」


少年は私を見て少し考えてるような表情で他所を見て目線を泳がせて「通っていません」と言った。どういう事?この村の子だったら学校には必ず通わなくちゃいけない筈。なのに違うという事はそうか。この村の子じゃない。旅人なんだ。
一気にこの子への興味が倍膨れ上がった。私が今から自分に質問攻めにする気だろうと少年も察したのかそのまま私を無視して村の中へと入って行こうとする。私はその後を追って隣につくと笑顔を向けて珍しい旅人を迎え入れるようにこの村の案内役をしてあげようとする。けど少年は立ち止まって細目で見つめてくる。


「そういうの必要ありません。学校に通って無いからってナメないで下さい。僕は貴方よりも何倍も物知りなんです」
「え…そうなの?」
「いいから、消えて」


少年は私を鬱陶しいものを見るような目瞳で横に見ると綺麗なオッドアイに陰が差して少年は私を振り切って村の中へと入って行った。私は再び森を見る。ここから彼が来たとなると得体の知れない森を抜けた事になる。この村の先に少年は住んでいる?私の興味はますます上がるばかりだった。



***



森の木々の上で幹に寄りかかって夜までの間目を閉じて静かにしていると木の下から二郎が「三郎!」と声を張り上げる。何事かと目を開けると二郎が険しい顔で僕を見上げている。ウトウトと眠っていたからか森のフクロウ達がざわつき出しているのに気付く。急いでフクロウに姿を変えて二人、二匹で騒がしい元へと飛んでいくとそこには森の中へ侵入してきたのか女性の姿があった。フクロウ達に突かれてとにかく酷い有様だ。その側の木の上には人型の黒ローブを着た一兄の姿。女性を木の上から睨み下ろしている。侵入者には厳しいこの森のルールとマナー。なのにここまで痛い目に合っているのに中々女性は村へと帰ろうともしない。一兄は低い声で女性に容赦無く言い放つ。


「失せろ」
「その…私、男の子を…探してて」
「失せろ。目障りだ」


一兄のこんな厳しい声初めて聞いたな。女性はもうここにいても埒が明かないと理解したのかフクロウ達に入り口までの道ギリギリまで突かれながらやっと森から出る。森から出ればフクロウ達も責めてはこない。髪がボサボサになって服や身体もボロボロになってる女性を見て僕はフクロウの姿で彼女の側の木に飛んでいってホウと鳴く。ビクと肩を上がらせて女性、あの時の女の人は僕を見上げる。人型になって女性の前に立つ。 


「だから言ったでしょ。この森には入るなって」
「何で…こんな、あんまりよ」
「貴方の村にもルールがあるようにこの森にもルールがあるんです。分かって」


僕は以前、村で何とか買ったハンカチを彼女に手渡す。彼女はそれを受け取り鼻を啜る。そして泣き腫らした目で僕を見上げた。


「また会えますか」


涙の膜に包まれてる瞳を見て、僕は下を向く。


「会えません」
「そう…ですか」
「僕達の事は忘れて」


この人にとっては嫌な思いをしたんだからそれはもう忘れる方がいいんだろなとは思った。でも女の人はカラカラの声で「君の事は忘れない」と呟いた。僕は着ている黒ローブのフードを被る。


「元気で」


それだけ残してフクロウの姿に戻ると森の中への飛び立って戻って行った。もう、僕はあの村には行けないだろうと確信した。





(24.10.10)



実際の公式様、原作者様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、組織等とは一切関係御座いません。創作物の悪用はお止め下さい。



27/39ページ