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学校の下校時刻になると電車やバスに乗ってるのはほぼ学生だった。このまま帰る帰宅部とか部活が今日はない文化部とか今から塾に行く生徒とか様々な学生で賑わっている。俺の交通手段は主にバスで今日も座る席空いてないだろなと思って乗り込むと思ってたより空いていた。今日は部活に勤しむ生徒が多いらしく後ろの方の一人座席に座ると徐々に混んでくる。それでも何時もよりかはやっぱり混んでない方だった。
もうすぐ発車する直前に女子生徒が駆け込んで来る。俺と同じ学校の同学年の白川未夏さんだった。未夏さんは俺の前まで来ると上がってる息を整えて動き出したバスの吊り革に掴まる。随分と窶れた顔をしている。そういや期末テストが終わったばかりでそれの勉強が大変だったのだろうか。暫く未夏さんを直ぐ側で眺めていると俺に気付いたのか未夏さんが笑い掛けてきて「今日は部活無いの?」と聞いてくる。


「俺、帰宅部なんですよ」
「あ…そうなんだ」
「何か部活した方が良いとは思うんスけどね」
「勿体無いなぁ。スポーツ出来そうな感じするのに」


俺は笑い掛ける未夏さんに笑みを返して首元のつけっぱなしのヘッドフォンの電源を切る。この流れだと彼女と話せるかもしれないと少し期待してしまう。それでも彼女に彼氏がいるのは知っているので多く話し掛けるべきでは無いと思ってる。とその矢先、未夏さんは俺にすすんで話し掛けてくる。


「私さ、これの次のバスに乗ろうとしたんだけど今日は早めに乗ったんだ」
「って事は帰宅部?」
「ううん。水泳部。この期間って外のプール使えないでしょ?だから屋内で筋トレなんだけどちょっとやる気しなくて抜け出してきてさ」


水泳部か。そんな感じにはパッと見て見えないけど水泳やってるんだと意識して見てみるとそんな感じにも見える。ジッと未夏さんを見つめてる俺に未夏さんは再びやわらかく笑い掛ける。


「期末テストも終わったし、夏の記録会のハードな練習も一段落ついたしやる事無いんだよね。こういう時こそ塾に通った方が良いんだろうけどどうも足先が向かなくて。それに今回の期末テスト散々だっただろうし」
「俺も…やべぇかなと思ってます」


あははと苦笑いする彼女は思ってたより喋る子だった。初めて話したのにここまでフレンドリーに話し掛けてくれるのも彼女の人柄ではあるのだろうか。
バスが停まる。次の次くらいで降りなくちゃいけない。すると彼女のスマホに着信が来たのか画面をたち上げて見る未夏さんは直ぐにスマホをポケットにしまう。返信出来るような状況じゃないけど何だか来たメールがあまり良くないものだったのか知らないが目が少し潤んでいた。


「あの…どうしたんスか」
「ん?何でもないよ」


目尻を少し濡らしたまま笑い掛ける彼女はどこか色々と追い詰められてるような気がした。あまり詮索しない方が良いと思ったが彼女は「フラれちゃってさ」と言葉を小さく紡ぐ。今のメールが?え…じゃあそのあまり良くない状況とタイミングで俺は彼女に話し掛けてしまっているのか。


「すんません…」
「一郎くんが謝る事無いでしょ。そういう時もあるって事だよ」
「…あの」
「何?」
「無理して笑わなくていいと思います。辛い時とかは落ち着いて休むのも大切だと思います」


未夏さんの顔を見上げてみると瞳から涙が零れていた。俺は慌ててハンカチを取り出そうとする。でもバスが停まって彼女は降りるのか「気にしないで有難う」と言って差し出したハンカチを遠慮した。


「じゃあね」


目元を拭って今しがた無理しない方がいいと伝えたばかりでも笑い掛ける彼女。俺も笑い掛けるけど上手く笑えているか分からなくて。アイコンタクトで二人思いを通じ合わせるように彼女はバスから降りて行った。




(24.10.03)


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