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最近、帝統の様子がおかしい。何か隠し事があるように思えてならないけどこの職業柄そういうのは空気のようにあって仕方のない事なのかもしれない。僕等は家族や夫婦の様にどんな時だって支え合える確かな「絆」がまだ強いとははっきりと言えない。それでも彼を信じ続けたいと思うのが間違ってるというのなら。

変な時間に僕等の棲家から外に出る帝統の後を今日こそはとつけて行く。煙草と言っていたけど果たして本当だろうか。煙草にしては吸うのに棲家から離れ過ぎではないだろうか。…等と疑う余地はそれなりにはあったがそりゃあ疑わない方が絶対に良いに決まってる。だって疑った所から僕等の関係が離れていってしまうから。いとも簡単に崩れていってしまうから。
帝統の後をつける事に罪悪感を感じながらも行き着いた場所は何処かの入った事の無いバーで、そこの一番隅の二人用のテーブル席に帝統は腰掛けて誰かを待っているようだった。少ししてモデルのような女性がやって来る。その女性は見た事はあった。裏でスパイ業をやってる女だ。僕等と同じだ。帝統は暫く女と話した後、何かUSBのような物を女に手渡す。女はそれを確認して帝統の頰にキスをおとして耳元で囁いてバーから早々に出て行った。あっという間の事だった。帝統と謎の女との密会を見てしまったという後ろめたさの感情もあったが何処か裏切られた感情すらあった。
帝統もバーを出て暫くその店の近くの海が見える橋の上で煙草をふかしていた。その間に僕はバーから出て僕等の本拠地へと戻る。二人の会話内容は聞き取れなかったが帝統が僕等を裏切ってしまったとなるとこのままではいられない。出来れば酷い事態は避けたかったけど僕等だってこんな感情のままこの現状を放置する事は出来ない。
棲家に戻ってきた帝統は僕と幻太郎の顔を見て直ぐに察したのか表情を曇らせる。そして僕が貸した煙草の箱を空の灰皿の上に置くと羽織っていた何時もの緑のコートとは違うかっちりめの紺のコートを脱いで椅子の背に掛ける。


「何だ、俺に尋問でもするか?」
「そういう意味じゃないけど」
「じゃあ何でそんな目してる」


それは…帝統の事を少しでも不信に思って邪な感情に傾いてしまっている自分がいるから。と、どうしても言えなくて幻太郎と二人で目線を泳がせる。僕等がどうしてこんなに挙動不審にならなくちゃいけないんだろうって。そんなどうしようもない心がもし帝統が本当は裏切ってなかったらという逆に此方の帝統への裏切りの恐れが今の僕等を完全に拗らせてしまっている。帝統は無言で暫く立っていてそれから冷蔵庫まで行って酒瓶を持ってくると、それの蓋を開けて飲み出す。


「帝統…僕等、信じてるよ。だって、帝統はポッセだもんね」
「……」
「刹那の友だけど。もうそれ以上の関係だって」


俯いて一つ一つ言葉を紡ごうとする僕に帝統は酒瓶を置いて近付くと僕の身体を抱き寄せる。そしてポンポンの何時もの優しい手付きで背中を撫でられる。それだけで解れていく。自分の疑うという邪な思いが段々と消えていく。


「大丈夫だ。…任せてくれ」
「………」
「今はそれしか言えねぇけど、俺を信じてくれ」


帝統の温かくも優しい心音を感じて僕は目を瞑って頷く。幻太郎もきっと同じ心情だと思う。スパイという環境に振り回されて侵されて、僕等を見失うなんて事したくない。こんな僕等でも絆があるって事を。
腕の力が緩まって帝統は僕を見下ろす。僕も見上げると二人でまた抱き合う。僕の大切なポッセ。どうか知らない色に染まらずに、このままで。





(24.10.02)



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