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莫大な本が眠る世界図書館の中の一部の館内で一番セキュリティが厳重なスペースへと入るとそこの本達を任されてる夢野幻太郎が一人ポツリと全面が大窓の前で椅子に腰掛け本を読んでいる。ここのセキュリティの厳しさに中の図書館を任されてる職員の人数を抑えているのか前は幻太郎の他に何人かいたが今は一人になってしまっていた。安心、安全、本が読み放題という本好きにはたまらない利点。けれどここの職員はずっと図書館から出られないというこれまた厳しいルールが設けられていた。そこで彼は窓から外の世界を見て本を読みここで本達を守る。表向きではそうだが裏向きで考えれば外の世界には出れず本しか読めず本を見張ってるだけの仕事という事になる。これは果たして「自由」なのだろうか。僕はそんな事をここに来る度思っていた。こんな感情も余計な事なのかもしれないが窓の外を眺める彼の瞳を見て何となく心の中を読んでみた。
外は紅葉の美しい季節に移り変わっていた。夏場はあんなに暑くて怠かったのにこの時期になると外に無性に出たくなる。秋の落ち葉の道を歩いて心地よい空気を吸う。形の良い紅葉や銀杏をお土産に拾ったりする。そんな出来て普通な事を僕は幸せに感じていた。

縦に長く横にも長い本棚で高い所にある読みたい本を上まで届く梯子で取ると調べた本番号と同じかを確認して大窓の前に座る幻太郎の足元の床に胡座をかいて腰掛ける。こんな事ここで出来るの僕くらいしかいない。本当はやっちゃいけないけど。
幻太郎は読んでいた本に栞を挟んで立ち上がろうとする。


「椅子を持ってきます」
「いいよ。ここの床暖かいし」


苦労して取ってきた本を開く。中を読んでみると自分が思ってたよりハチャメチャな世界観と空想物語で読み進めるのに戸惑う。幻太郎が笑って「その本、315頁辺りから段々面白くなっていきますよ」と教えてくれる。よくよく本について考えてみればここまで空想劇が考えられるのも大したもんだと思う。僕じゃ到底思い付かない。それを彼、幻太郎は視点を変えて「面白い」と言ってみせる。彼の物事の捉え方が分かる一言だった。


「あのさ」
「はい」
「もう秋だね」


挟んでいた栞を取ってまた物語の中に入っていこうとする彼を引き戻す。幻太郎は本の頁に目を落としたままそうですね、と小さく言う。


「ちょっと、外に出てみない?」
「……外?」
「うん。今は凄く過ごしやすい気候だよ。一日だけでいいからさ。ね?」


幻太郎は整った顔を崩す事無く頁を捲る。僕の話聞いてるのかな。でもこの様子じゃあな多分なぁ。分かってはいるけど幻太郎は無視するのも悪いと思ったのか顔を上げて僕と目を合わせる。綺麗な翠瞳だ。その瞳で僕を見て直ぐに伏せられた。僕は苦笑いする。


「本に負けたぁ」
「……本が好きではないのですか」
「好きだよ。でも、幻太郎の方が好き」


幻太郎の表情のガードがついに崩れる。狙って崩した訳じゃ無いけど彼を見てると表の仮面をゆっくりと剥がしていくようで面白い。僕は本を戻しに行こうとする。315頁はまた今度。ああでももう読めなくなるかもしれない。そう思うと少しだけ寂しくはあった。


「じゃあね」


本を片し終えて戻ってくると一言告げてセキュリティゲートまで戻って行く。ここまで来るのも結構大変なんだよな。けど幻太郎の顔見れるなら別に構わないと思ってた。でもずっと蟠ってた答えは聞けたから…もういいんだ。




***



何時もよく来る青年がいなくなると館内は一気に静けさが訪れる。何気なく会話していた事も突然過去に移り変わっていく。
紅く色付いた立派な木々を見上げて思う。彼がここに来るのを待ち続けるだけだった自分は本当の自分なのかと。





(24.09.30)



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