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ソムリエがワインを運んでくる。ラベルの銘柄を見せてきて幻太郎が選んだそれをグラスに注いでもらう。極上のボールドがグラスを満たしソムリエがいなくなると幻太郎はグラスを揺らしてワインに空気を含ませ口に含む。俺も同じ事をしようと思ったけどこんなに良いワイン飲むのも少し気が引けたし何より飲食をする気になれなかったのだ。何故なら…
「我々の首に多額の懸賞金が付いてるのは本当だったんですね」
「とぼけるなよ。…これからどうする」
フォークでソテーされた白身魚をつついて聞きたかった事を幻太郎から聞き出そうとする。幻太郎はこんな時でも笑っていて正気かよと思ったけど笑いたくなるのも何となく分かる。それくらい俺等は追い込まれているのだ。幻太郎と知り合って男同士の付き合いをするようになって数年経っていた。人気の小説家っていうから面白いんだろなと思ってそんな好奇心で近付いたがまさか敵対してるスパイだと思わなかった。俺もスパイだけど敵対してる中でも幻太郎とこのグループは厄介でどうしても今まで通り生活する事が出来なくなって一旦二人で離れ離れになっていた。そうする事でまた何処かでやり直せると思っていたからだ。でも駄目だった。幻太郎も多分同じ感情だ。俺等の関係はこんがらがってる。だから俺からここ初めて二人で会ったレストランで話そうと通知を入れたのだ。来ないと思ってたけど充分に安全をはかってから来たようだ。
「南の島の孤島にでも行きますかね」
「島流しかよ」
「とにかく、この国にいてはほぼ生きていける確率は少ないでしょうね」
「なあ」
「はい」
「…俺のこと」
その孤島に俺も連れてってと上手く言えなかった。俺の事好いているのかって。言葉がつっかえたまま。でも察しが良い幻太郎だから分かったようでワインを一口ここでやっと真剣な顔を見せる。
「ずっと、貴方と同じ。ですよ」
「…もういい。それだけ聞けたなら」
俺は椅子を引いて立ち上がる。ナプキンで口を拭くと口をつける事もなかったワインを見てこの場を手放す。幻太郎も立ち上がる。俺を今更引き留めようとしているのか。引き留めても状況は変わらないのだ。檻の中からは逃げ出せない。幻太郎と二人だけでなんて抜け出せない。
するとレストランの入口付近が騒がしくなる。スーツ男達とスモッグがホール内に侵入し充満して俺等を男達が見つけると駆け寄って来る。幻太郎と顔を見合わせる。弾けるようにテーブルを盾にして銃弾から避けると二人で隠し持ってた武器を手に客が逃げ惑う手洗い場へと駆け込む。そこの窓ガラスを割って外へと逃げ出す。直ぐに俺等を待ち構えていた集団に囲まれる。俺の方のスパイ組織と幻太郎の方の組織だ。二組も一緒になって束になって来られちゃ敵わないと俺は幻太郎にアイコンタクトで二手に別れようと合図しようとするが逃げ駆けているうちに細い路地から人が出てきてそれが追ってくるスパイの一人だと分かると俺を真正面から撃ってこようとする。何とか避けるが脇腹を掠める。幻太郎が駆け寄って来る。俺を撃った男を沈黙させたが俺自身が足手まといになるかもしれないとついていくのを躊躇っていれば敵が数を成して囲み出す。
それから二人で何とか男達を巻いて逃げ出す。月が美しい月夜の中を二人で駆けていつの間にかどこだか分からない通りまで来てしまう。壁にもたれ掛かって荒い呼吸をこぼす。幻太郎はハンカチで俺の傷口に充てがって止血しよつとしてくれている。その手に手を重ねる。
「いい。どっか逃げろ」
「近くに使用してない倉庫があります。我々の管轄下でも無い、私の個人の」
「いいって。逃げろよ」
「直ぐに見つかると思いますが軽い処置なら出来る」
幻太郎は俺の腕を肩に回して歩き出す。何処かで少し遠方から敵スパイの気配がするけど今は何も考えられなかった。意識が薄れつつある。今言える事は言っておきたくなる程に。
「もっと違う世界線で…会いたかった」
幻太郎が俺を見下ろしている。顔を上げるとよく見えないがきっと余裕のない表情をしているのかもしれない。困らせてしまったかなと思ったけど彼に言って損したとは思ってない。
「そうですね」
こうくるだろうとは予期して覚悟していたがいざ言われるとキツかった。でも俺達が生きていることに意味があると思うから。この先幻太郎が生きていたらもういいと思っていた。空はどこまでも繋がっていて心も繋がっていると分かったから。何処かでまたいつか会えたらいい。そんな事をぼんやりと月を見上げながら夢心地に思った。
(24.09.26)
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