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風邪で休職していた時田夜架先生が美術の講師として戻ってきて就くのを朝の職員室の朝礼で聞いたがその日のうちに私の元に来るとは思わなかった。午後授業中の空き時間を使ってか保健室に来た彼女は焼き菓子の箱を手にやってきてそのまま長話ともいわないが会ってなかった間の学園の事とかを話したりした。ずっと外に出ていなかったからなのだろう彼女の会話は楽しげに弾んでいてどんどん話す彼女に受け答えしか出来なかったが彼女が元気そうで何よりだった。
するとトントンと扉をノックする音。どうぞと私が声にすれば扉が開き顔を覗かせる桃色髪の青年の姿。飴村くんかと思ってこの時間にサボりだろうなと思っていれば腕にポツンと青タンが出来ている。痛々しいような気がしたがちょっと考える所がある。腕を見つめている私に気付いたのか飴村くんはやや口元を上げて近くの椅子を引っ張ってきて腰掛ける。


「転んだ」
「…君もそそっかしいですね」


さっきぶつけたらしいのだがどうも今日一日でこんなに青くなる傷とは思えない。ぶつけたのは本当だろうが夜架さんと話してる最中に彼が来るのが先ずタイミング的に怪しい。これは今傷が出来たと理由付けてこの空間に収まろうとしているに違いないと結論付ける。私は取り敢えず湿布をあげるかと棚へと行く。けれどやけに静かな飴村くんに嫌な予感がして振り向くと彼は夜架さんを真正面から睨み据えている。射るような視線に私は湿布を手に二人のやり取りを唯見つめる。


「お菓子いりますか」
「んーん。いらなーい」
「……」
「時田せんせー、具合良くなって良かったね」
「ええ。また宜しくお願いしますね」


わざとらしく笑っていた飴村くんがサッと無表情になる。そして今にも舌打ちしそうに更に目元をピクピクさせていると時田先生は飴村くんの態度にちょっと怖くなったようで「じゃあアトリエに戻ります」と部屋を出て行った。
飴村くんと二人きりになった白の部屋で飴村くんは扉が閉まると同時に溜め込んでいた溜息を深く吐き出す。私は湿布を飴村くんの腕に貼ってやる。


「あの態度は無いでしょう。君の一番お世話になっている顧問なのですから」
「美術の先生で絵が描けるからってあの人から学べるかどうかは別」
「そんな事を言うんじゃない」


注意をすれば飴村くんは制服の上着のポケットから何時もの棒付き飴を出して開封して舐め始める。私は夜架さんが残していったお菓子を一つ手に取って飴村くんにチラつかせると「いらないよあの女のだもん」と顔を歪ませて言う。
何とも素直で捻くれてる本性の方の彼を見て、私は引き出しを開ける。そこの自分がつけてる日誌ノートに「正」の字を書き足す。飴村くんは首を傾げて何を書いてるのかと聞いてくる。


「君がここへ来る回数を記録してます」
「はあ?」


裏声が出てしまっている。けれど直ぐに笑って椅子から立ち上がって机の上に両手をついてずいと私に顔を寄せてくる。


「時田より来てたでしょ?」
「……」
「あーこれ冗談。もう行かなくちゃ。ばいばいびー」


悪戯っぽく笑って手をヒラヒラと振ると彼は保健室から出て行く。正の字で埋め尽くされたノートを見下ろす。彼がここへ足を運ぶのはあとどれくらいだろうと心の隅で思いながら。




(24.08.18)



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