if


*一郎が火貂組本部に行ったら


左馬刻の仕事場に呼ばれたのは初めてだった。今までお互い犬猿の仲だったしここには来る事なんて一生無いって思ってたけど俺達の誤解と過蟠りとかそういうのが全部取っ払えた今では自由で会う事だって普通に出来る。TDD頃に戻ったとは言わねぇが今までのやり合った事実を帳消しとまでいかないのも分かってるしそれでもこれからは出来るだけ俺達の過去にとらわれないで未来を見ていきたいと思っていた。俺等が会ってない離別していた間に色々な事が変わった。特に俺より左馬刻の方だ。ヤクザという仕事に就いているが正直仕事上危険と隣り合わせなので急にいなくなるとかそういう悲しい考えばかりが頭に巡っては不安に陥ったりする。でもアイツは強ぇから何とかやっていくとは思うし若頭なんてほぼ上の立ち位置にいるからきっとアイツ自身大丈夫だとは思う。
火貂組本部の建物の中を左馬刻の師弟に案内され左馬刻のいる部屋へと向かってる途中。廊下に出た所で前を歩いていた師弟が立ち止まり振り返る。何だ?と思って視線を合わせるとその師弟は俺を人睨みしてフンと鼻を鳴らして前へと戻り歩き出す。


「……」


左馬刻の師弟なんだろうが今ので何となく俺に嫌悪感を持ってるのが分かってしまった。そりゃそうだよなつい最近まで俺は左馬刻の敵だった訳だし。つか今もライバル的存在の様なものでもあるし。そうすると俺はここの人達にはやっぱり歓迎されてねぇって事だな。
部屋に着くと師弟と左馬刻が扉挟んでやり取りして中へと入る。左馬刻は部屋の中央にあるソファーに座って煙草を吸っており俺と目を合わせるとグリグリと吸い殻を灰皿でもみ消す。その動作を扉前で突っ立って師弟と見ていれば左馬刻はぼうと自分を見つめている師弟に鋭い目だけやって出ていけと伝える。師弟は我に返り部屋から出て行った。
扉が閉まると「来い」と呼ばれる。向かいに腰掛ける。


「お前、何時もあんな態度で部下に接してんのか?」
「ヒヨコが一々人の仕事に口出してんじゃねぇぞ」
「ヒヨコっつーなよ」
「あいつは特に俺様に執心というか…陶酔してる部下だからな。ああしちまったのも俺の責任だが最近はあまり構ってやれねぇからそれで苛立ってんだよ」


左馬刻を慕ってる部下は沢山いるって事か。さすが若頭だけはあるが慕ってくれる人の好意を一蹴りするのはどうかと思う。俺がコイツの仕事に口出す権利もねぇけど。
扉を見つめていた俺の名を呼んできて振り返った俺に身を乗り出して接近してくる。近くまで整った顔が出てきて驚いて後方に下がろうとすると手首を掴まれる。


「な、何だよ」
「何怯えてんだ山猿」
「おま…ここではヤらねぇぞ」


フっと左馬刻が笑い出す。その笑みにここまでの緊張が少し解けて横を向いて口を押さえて笑ってるコイツの自然な姿を久し振りに見て動揺してしまう。こんな感じで笑う奴だったか?俺の前ではこんな風に少なくとも笑わないとは思ってた。それでもずっと笑ってるわけにはいかないと左馬刻は俺の手を離して自分の足下に置いてあったのか黒の紙袋と金のロゴ印の入った袋を取り出す。怪しげな物かと少し思ってしまったがどこかのブランド品のようだった。その中から縦に長い箱を取り出す。これも黒でそれを俺の手元に持っていくと「やる」と言ってみせる。中を開けると中にはまだ真新しいシルバーアクセサリーがあった。


「これ…いいのかよ」
「お前、これが何だか分かってるか?___万もする代物だぞ」
「は?!おい!そんなのぜってぇ貰えないって!」


左馬刻はまた笑い出す。此奴今日は一生分笑ってるんじゃねぇか?でもまあ睨まれるより笑われる方がずっといい。縦箱に入ったアクセサリーのタグネックレスを見つめ左馬刻は笑みを浮かべたまま「まあ安くはねぇが」と言ってアクセサリーを箱から持ち上げてよく見える様に見せてくれる。タグネックレスに数字が刻んである。今年の年と「07.26」の数字。どうやら誕生日プレゼントのようだ。左馬刻は穏やかに笑む。


「一つくらいこういうアクセサリーは持っておいた方がいい」
「……」
「弟猿共に見せびらかすなよ。それと礼の一つくらいしろや」


左馬刻の照れてそうな表情に俺も笑ってしまう。左馬刻が「屈め」と言ってきて首を下げるとネックレスをかけてくれる。洒落たシルバータグプレートが俺の胸元で光っている。


「悪くねぇな」


ネックレスを見て満足そうな笑みを浮かばせる左馬刻に俺は今度こそ「ありがとうな」と伝えた。




(24.07.26)



実際の公式様、団体様、会社、人物、事件、商物、場所、事件等とは一切関係御座いません。



13/39ページ