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寂雷が運転してきた車から降りると目の前に広がるコバルトブルーの海に一郎は子供みたいに目を輝かせていた。海見たこと無いとか言わないよねって思っちゃったけど考えてみれば都会っ子だからそれも有り得るんだよね。海ばっか突っ立って見てる一郎に荷出ししてる左馬刻は「手伝え!」と声を荒げて注意している。手を動かし始めたけど一郎の興味は海から乗ってきた車の近くを歩いてるスタイルの良いおネーサン達に向けられている。それを左馬刻が頭部に手を置いて下向かせると一郎はその手を退かす。
「何だよ!」
「テメェみたいなひよっ子が手に入れられるレベルじゃねェだろ」
「女になんか興味ねぇよ」
「鼻の下伸ばしてただろが。たかがビキニで盛ってんじゃねぇ」
「そうだよ。あの程度のビキニだったらまだ軽い方だって。もーっとエッチなビキニはこの世に沢山あるからね!」
「乱数、お前黙ってろ」
二人のやり取りに一郎をフォローしようと口を挟むと逆効果だったようで誤魔化す様に笑って荷物を持って砂浜へと降りる。パラソルを立てる位置を決めて立て始めると何だか海辺の方が騒がしくなる。監視員さんが笛を鳴らしていて野次馬が少しいなくなると何が起きたのか僕達は察する。海で溺れた娘がいたのだ。それを知って寂雷はその方へと駆けて行く。そして手慣れた処置を始めてまだ目を覚まさない女の子を柔らかいマットレスに寝かせると人口呼吸の形をとる。
「(あ…)」
この流れだと率先して出た寂雷がするんだろうなとは思っていたけどこういうのを前にすると胸が痛い。でも寂雷と女の子の顔が近くなった瞬間、女の子は水を少し吐き出す。意識を取り戻したようだった。
その一部始終をクーラーボックス手に隣で見つめていた左馬刻が「流石だな」と呟く。
「この上ねぇ人助け心だ。医者っつぅ役目もあるが…よく出来た人だ」
「………」
目を覚ました女の子の応急処置に周囲の若いレスキュー隊に指示を出している寂雷を見つめていると僕は寂雷のこういう仕事方面の事とか全然知らないなって思っちゃう。実際分かってなくて分かった気でいても自分が思ってたより彼はずっと格好良くて。ちょっと戸惑う。
それからその日は海で遊んで近場のホテルで一泊して次の日に帰ろうって時になって自分を助けた寂雷の話を聞きつけたのか救助した女の子が礼をしにやって来た。もう丁度僕等の都会に戻る時間だったから手短に終わったけど礼品に彼女の親が経営してる海の家で作ったタコ焼きやかき氷を貰った。寂雷も礼を返してこの場は終わった。
帰りの車内で自分達の持ち歌の曲を聴きながら一郎と左馬刻はかき氷僕と寂雷はタコ焼きを食べている。僕は助手席から運転席に座ってる寂雷に信号が青になると食べやすいようにタコ焼きを半分に割って口に持っていってあげる。でも熱かったみたいで「作り立てか」と一言呟いている。
「寂雷の助けた娘、寂雷にメロメロだったね。すっかり懐いちゃって」
「……」
「寂雷ってばホントに医者だよね。光の速さで救助に行ってた」
「当然ですよ」
寂雷の当然は他の人じゃ簡単には出来っこない。こうして思うと僕と寂雷って色々と正反対なのかなって思う。考え方も何もかも。そう思うと共通点全然無くて哀しいけど僕は僕で寂雷は寂雷だから皆違って皆いいって言うし。
赤信号になり緩やかに動き出す車。運転してる彼にこの際耐え切れずも不満を口にしてしまう。
「寂雷に好意を寄せてる人達は皆ボクの敵かも」
「嫉妬、してるのですか」
「してないって」
「ふふ。君の考えでいくと敵が多過ぎるのでは無いですか」
一言余計だった。こうなったらやけ食いしてやると熱々のタコ焼きを口に頬張ろうとするとまた青になったのか寂雷が口を開けてタコ焼きを強請ってくる。冷まして口に入れてやると丁度良かったのか頷いて彼は笑む。
「心配しなくても、特等席に座るのは君ですよ」
僕を横に見て口元をつり上げて言ってのける寂雷にちょっと苛ってきちゃうけどでもそこも引っ括めて好きだからそれでいいんだ。
(24.07.22)
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